上司の部下に対するいじめはなぜ起こるのか? その原因と対処法を考える

社会

公開日:2022/3/28

平気で他人をいじめる大人たち
『平気で他人をいじめる大人たち』(見波利幸/PHP研究所)

 職場でのパワハラに悩む人たちは少なくない。それは「いじめ」とも表現できるので、いじめは子ども同士だけの問題ではないのだ。上司や先輩からの理不尽な指導や周囲からの無視など、働くのがつらくなるほどにビジネスパーソンを追い詰める場合もある。

 メンタルヘルスの専門家・見波利幸氏による著書『平気で他人をいじめる大人たち』(PHP研究所)は、大人の社会にはびこるいじめの現実を憂い、解決法を模索する一冊。その実態について我々に訴えかける。

いじめる大人の胸の内「自分の価値観や考え方が絶対」

 いじめの加害者は「ほとんどがいじめを繰り返し行っている」という。その多くは、過去に似たような問題を何度も起こしているようだ。

 著者が取り上げるのは、部下に対してパワハラを繰り返してきた上司のケース。その上司には「何人もの部下に対してパワハラを行い、部下のメンタルを不調にさせた」という過去があり、被害に遭った部下を休職や退職に追い込んできた。

 この事例は珍しいことではなくどの企業や職場でもありうる話で、さらに著者は、いじめをする多くの人たちは「自分は正しいことをしている」と思いこんでいると問題点を指摘する。

 この上司にはいじめている自覚はなく、むしろ「部下に対して厳しい指導をするのは、本人のため」と考えている可能性や、「あなたの考え方が間違っているから、私が正してあげなければ」と考えている可能性もあるという。

 厄介なのは、いじめている本人はあくまでも正義感や使命感に駆られている点だ。ベースに「自分の価値観や考え方が絶対」という考えがある以上は、他人が指摘して矯正してもらうことは難しい。やがて行き過ぎた考えが暴走して「平気で人の気持ちをふみにじる」ような行動へ向かうのが、職場でのいじめにつながる一つの要因になっているという。

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問題を真正面から見るための対処法は「傾聴」

 いじめられている側は、どのように対処するべきなのか。本書で提案されている方法が「傾聴」だ。端的には「相手の話を全身全霊で聴いて、『私はあなたの話をこんなふうに聴きましたよ』というレスポンスを示すこと」と著者は解説する。

 いじめられている側が「傾聴」と聞いても、ピンと来ないかもしれない。しかしこれを意識すれば、いじめてきた先輩や上司からの理不尽な仕打ちに傷ついた自分の心を、落ち着かせられる可能性がある。

 先輩や上司の言葉に耳を傾けるのは苦しいかもしれないが、傾聴の姿勢でいったん話を聞いてみると、自分にふりかかっているいじめの問題を「真正面から見ること」ができるようになるという。

 さらに「上司の態度が許せないとずっと思っていたけれども、その態度を取られたときに自分もカチンときて、ちょっと反発した態度を取ってたよな。同じだよね、やってることは。自分だけは、人からひどい態度を取られても、相手に対してそのような態度を取るのはやめよう」とまで思えるなら、先輩や上司を反面教師として、人生を変えられる可能性も生まれてくるという。

「思いやりを大切にする人」が増えれば、おのずと「いじめも減少し、日本社会が変わっていくはず」と著者は訴える。実際に大人のいじめに苦しんだ経験のある方だけではなく、ビジネスパーソンならば一度は目を通しておくべき一冊だ。

文=カネコシュウヘイ