「『ひとりでも生きていける』と思えたから結婚しました」相席スタート・山﨑ケイさん『ちょうどいい結婚のカタチ』インタビュー
公開日:2022/3/30
お笑いコンビ「相席スタート」の山﨑ケイさんが、2月22日に『ちょうどいい結婚のカタチ(ヨシモトブックス)』(ワニブックス)を上梓しました。これは、2020年10月に落語家・立川談洲さんと結婚したケイさんによる、恋愛・婚活エッセイ。
本書には、「最初は1ミリも好きじゃなかった」という談洲さんと結婚するまでの経緯や、30代後半で結婚を決意した理由、妊活事情などが綴られています。また、犬山紙子さんや横澤夏子さんとの対談、結婚相談所の相談員さんへのインタビューも収録されており、さまざまな角度から「結婚」を見つめることができる1冊です。
かつては「仕事が一番」だったこともあるというケイさんに、独身時代のことや結婚後の変化、結婚や妊活について公開する理由などをうかがいました。
(取材・文=堀越愛)
昔は、仕事が「自分にとって一番大切」だったけど……
――結婚後、ケイさん自身の仕事観に変化はありましたか?
山﨑ケイさん(以下、ケイ):結婚だけじゃなくコロナ禍も影響してますけど、以前とは変わったと思います。語弊がないと良いんですけど、“がむしゃら”っていう感じはなくなりました。今までは「売れたい」とか「テレビに出たい」みたいなことが人生の目標だったけど、今は「人生があって、いろいろある中のひとつが仕事」という感覚になったというか。20代後半から30代にかけては、仕事は当然休んじゃいけないし、「自分にとって一番大切なもの」くらいの感覚があったんですけどね。
――仕事以外で大切にしたいものの比重が大きくなってきた、という感じでしょうか。
ケイ:そうですね。夫との時間だけでなく、家族と過ごすことや、なにかを勉強することとか……ちょっとずつ、そうなっていると思います。最近は相方(山添寛さん)の調子が良くて、相方ひとりの仕事が増えてるんですよ。だから、1日休みという日はなかなかないですけど、相方がひとりで仕事してる間は休みを取れたりもしていて。相方は働きたいタイプで、私はけっこう自分の時間が欲しいタイプなので、良い具合にバランスが取れてきてるなと思います。
――仕事が自分にとって一番大切だった時期もあったとのことですが、その状況に自己肯定感が下がってしまうことはありませんでしたか? 「周りは結婚や子育てをしているのに、私は仕事ばかり」と悩んでいる女性は多いと思います。
ケイ:芸人の世界は誰かが結婚して焦るという環境ではないので、だいぶ薄かったと思います。ただ、普通に会社勤めをしていて、自分以外みんな結婚しているような状況だったら、心に来るものがあるんじゃないかなと思います。
私の場合は、前のコンビを解散して、芸人を続けるかどうか悩んでいた29~30歳くらいのときが不安でしたね。そのときは、結婚してないことや定職についていないことで恐怖に襲われました。結婚してる人は、それだけで精神的・社会的な安定があって、評価までもらえるのに、と思っていて。私はなにも持ってないし、評価もされてない。「なんでこんなに独身でいることがつらいんだろう」と思っていたことはありました。
――そのつらさを乗り越えられたのはなぜなんでしょうか? 談洲さんの存在も影響しているんでしょうか。
ケイ:恋愛や結婚というより、私の場合はお金と時間でしたね。30代になって仕事も楽しくなったし、収入が安定したことはすごく大きかったですね。お金と時間があれば、独身もけっこう楽しいんだなと。よく遊んでいた友人もひとりいたので、だいぶ救われたと思います。やっぱ、20代はお金も時間も、なにもなかったですから。
――確かに、お金と時間の余裕が生まれると楽しいことが増えますね。ただ、今は良くても、将来を考えたときに不安を感じることはありませんでしたか?
ケイ:私はひとりっ子なので、いつか親が亡くなったら天涯孤独になるわけで……それに対しての恐怖は、正直ありました。でも、「だから結婚したい」とはならなかったですね。結婚した結果、安心したのはありますけどね。29歳くらいの(芸人を続けるか迷っていた)ときは、そういうのも全部ひっくるめて「どうしようどうしよう」っていうのがあったかな。
――『ちょうどいい結婚のカタチ』では、「ひとりでも生きていける」と思えたことが結婚に踏み切った理由のひとつだったとありましたね。
ケイ:そうですね。依存する関係が心地良いという人もいるし、結婚する理由はなんでも良いと思います。ただ、私はそういう部分が元々ある人間だったけど“そうじゃなくなった”タイミングで結婚したから、今うまくやれてるのかなと思います。
自分がオープンになることで、誰かのためになれば
――「もしも」の話になってしまうんですが……談洲さんと結婚していなかったら、今婚活していたと思いますか?
ケイ:本を書いて思ったことなので、完全に「もしも」の話ではないんですけど……婚活してみたくはなりましたね。結婚相談所の相談員さんとのお話が、すごく楽しかったんですよ。相談員の方が「本気でやれば絶対お相手が見つかります」って仰っていて、実際、私の一番仲の良い友人も結婚相談所で出会った人と今度結婚するんです。そういう話を聞いてたら、「本気で頑張ればできるのかもしれない!」と思えて。私の場合、商魂たくましく、(自分の)婚活自体をコンテンツにしてメディアで連載をさせてもらったりしたかもしれないですね(笑)。
――「結婚相談所に登録してもダメだった」という現実に直面するのが怖いと思ってしまう人も多そうですが、そこは勇気をもってやってみるのが良さそうですね。
ケイ:「分母の数を増やして、1を軽いものにしていくしかない」って婚活していた人はみんな言いますね。1人しか会わないと「私ってダメなんだ」と思うけど、100人会ったら「またこのパターンね! OKOK」みたいになっていくから。もう、とにかく数を重ねるしかない。最終的にうまくいく人って、やっぱり数をこなしている印象があります。
――確かに。「婚活パーティーに100回以上は行った」という横澤夏子さんとの対談を読むと、ますますそう思います。ちなみに、エッセイでは結婚だけでなく妊活事情も赤裸々にお話されていますよね。そういう個人的な情報を出していくことに、抵抗はないのでしょうか?
ケイ:あんまりないですね。妊活に関しては生々しいこともあるので、ネットの連載では細かいところを省いたんですよ。ただ、本を買っていただく方には知ってもらっても良いのかなと思って。今でこそ「妊活中なんだよね」って言える世の中ですけど、昔はそんなこと言える空気じゃなかったと思います。不妊治療をしてるって、昔だと女性側に原因があるように思われがちで、言いにくかったと思うんです。でも芸人ってオープンな人が多いんで、男性も「うちも不妊治療してて、俺が原因だったんだけど」とか普通に話してくれるんですよ。そうすると私も話しやすいし、話すことでいろんな情報を教えてくれるんですよね。周りが妊活をオープンに話してくれたおかげで私も言いやすくなってるし、(自分が悪いのかもなど)罪悪感もあんまり感じないんです。だからそういう意味でも、同じ悩みを持つ人に対しては私もオープンになっても良いかなと。
――ケイさんの経験を読んだ方に、少しでもためになることがあれば良いな、ということですね。
ケイ:そうですね。(妊活を始めるまでは)知らなかったことが、本当にたくさんあったので。排卵日を調べるために尿検査をするってことすらも知らなかったですしね。あと、妊娠してるかどうかって尿で分かるじゃないですか。「私はただトイレに行ってるだけなのに、そんなこと分かるんだ」とか、生理も「実は子どものときから、月に1回妊娠する機会があったんだ」とか……そう考えると、なんか不思議ですよね。今はまだ、そういうのが興味深いという感覚です。これからうまくいかない期間が長く続いたりすると変わってくるかもしれないけど、今に関してはそういう感じですね。
「結婚しなくてもいっか」と思う人にも読んでほしい
――ライブやラジオなどでケイさんのお話を聞いてると、「共感力の高さ」を感じることが多いです。聴き手に回るときに心がけていることはありますか?
ケイ:意識してるわけではないんですけど、「すごく頷いてる」と言われたことはあります(笑)。若手の頃、芸人に作家さんがアドバイスしてくれることがあったんですけど、私、他の人へのアドバイスにも頷いてたらしいんですよ。「他の人のアドバイスに頷く必要はないんじゃない」って言われましたね(笑)。
人の話を聞くのは、恋愛話でもなんでもけっこう好きですね。無責任にいろいろ言っちゃいますし、向こうが言ってほしいんだろなってことを言います。「なんて言ってほしいの? 言ってあげるから」くらいの感じで行くこともありますね(笑)。
――YouTubeの生配信(相席YouTube)やラジオ(相席スタートの密会Midnight/文化放送)では、リスナーから相談を受けることも多かったですよね。優しい言葉だけでなく核心を突くアドバイスをしていて、リスナーが本当の意味で言ってほしかったことを伝えている印象がありました。
ケイ:相談する人って「話を聞いてほしいだけ」みたいな風潮がありますけど、私としては具体的に行動できるアドバイスをしたいなと思ってます。例えば、恋愛のハウツー本だと「まずは自分の好きなところを10個書き出してみましょう」とか多いじゃないですか。でも、それだけだとうまくいかないことも多いと思うんですよ。だったら、具体的なことを言いたいっていう気持ちはずっとありますね。
――それは、ケイさんの経験からくるアドバイスですか?
ケイ:そういうのもありますし、考え方をズルくしちゃう提案をしたりします。例えば、「アプリで知り合った人と会うのが面倒になって、つい直前にドタキャンしちゃう」みたいな人がいるとしたら、「1人に会ったら1ポイントって決めて、半年で10ポイント貯めようよ!」とか(笑)。私は生きていく上で“逃げる”ことがすごく得意なんで、ズルい逃げ方を提案したりします。
――最後に。『ちょうどいい結婚のカタチ』は、特にどういう方に読んでほしいですか?
ケイ:「結婚しなくてもいっか」って思ってる人に、1度読んでいただきたいですね。「結婚はしない」って決めてるなら良いんですけど、「しなくてもいっか」って、本当は真ん中よりも“結婚したい寄り”なんじゃないのかなと思うんです。私自身がそうだったように。
「しない」っていう選択はいつでもできますし、もしも“結婚したい寄り”なら、少しでも若いうちに行動した方がいいと思います。この本を読んで、前向きな気持ちになってもらえたらうれしいです。