発売1年待たずに20万部突破! 和田明日香さんが作る無理も背伸びもしない“地味ごはん”に共感が集まるワケとは?《インタビュー》
公開日:2022/3/31
料理愛好家・平野レミさんの次男の妻であり、食育インストラクターでもある和田明日香さん。和田家に嫁いだ時には“料理が全然できなかった”という明日香さんが、10年かけてたどり着いた家庭料理のレシピをまとめた『10年かかって地味ごはん。』(主婦の友社)は、2021年4月の発売以来、1年も経たずに20万部を超えるベストセラーとなっています。
本書に掲載されているレシピは、料理家・和田明日香としてではなく、お母さんとして家族のために作ってきたものばかり。本書の制作中は、「こんなに地味な料理を本にする価値はあるのか?」とご本人も不安だったといいます。そんな彼女になぜ共感の声が集まるのか、今回は和田家のごはんのヒミツを探るべく和田明日香さんにインタビューしました。
(取材・文=齋藤久美子)
毎日のことだから、最低限の工程でおいしくなる料理を
――ご著書の20万部突破を受けて、今の率直な気持ちをお聞かせください。
和田明日香さん(以下、和田):この本はいつもうちで作っている家庭料理をそのままレシピにしただけなので、「人様に届けるようなレシピじゃないかもしれない」って葛藤がずっとあって。いつもメディア向けに提供するレシピは家族やレミさんと一緒に、もっとこうしたほうがいい、ああしたほうがいいってみんなで激論しながらレシピ化するんですけど。だから「本当にこれでいいの?」「大丈夫?」ってすごくドキドキしています。でも、たくさんの方が手にとってくださったことは、ほんとうに嬉しいことです。
――『10年かかって地味ごはん。』を私も拝読しましたが、和田家のキッチンをのぞかせてもらっているようで、とっても得した気分になりました。定番料理のレシピにも、明日香さん流のアイデアがちりばめられていますよね。
和田:そうかもしれないですね。家庭料理って毎日のことだから、「レシピ通りにちゃんと作らなきゃ」なんてことは一切気にしてなくて。最低限の工程でおいしくできるように作ってます。
例えば肉じゃがを作るときに落とし蓋が見つからなかったから、牛肉を落とし蓋代わりにしてみたり、プルコギのお肉をやわらかくするためのりんごをすりおろす作業が面倒で、これってりんごジュースでもいいんじゃない? と思って使ってみたり。その時の状況に応じていろいろアレンジしたらたまたまうまくいった、っていうレシピはたくさんありますね。
私のズボラな性格と、でもおいしく仕上げたいという頑固なところがレシピに反映されているのかもしれません(笑)。
――平野レミさんから影響を受けていることもありますか?
和田:もちろんあります。レミさんの息子と結婚していなかったら、今も料理はやっていなかったかもしれません。
料理を始めたころは、レミさんに料理をしているところを見られることすら嫌で“死んだらお墓にお供えするので勘弁してください”っていってたんです(笑)。でも仕事をきっかけにレミさんに自分の料理を食べてもらって「なんだ、私と同じ味じゃん!」っていってもらってからは、レミさんとうちで一緒にごはんを食べる機会が増えました。レミさんって自分では料理をたくさん作るけど、家のごはんを誰かに食べさせてもらうことはほとんどなかったんですよね。
料理を作る過程で壁にぶち当たることは何度もありましたが、「そんなのいらないよ」「自分のやり方でいいのよ」って、その壁をいつも「ヒョイッ」ととっぱらってくれたのもレミさんでした。
――ご自身のお母さまからの影響は?
和田:本書のレシピもそうですけど、私の中で家庭の味のベースになっているのはやっぱり母の料理ですね。なにか作るたびに「なんか違うな、ママはどうやって作ってたんだろう」って、答え合わせをしてしまいます。
未だに母の味を絶対に超えられないと思っているのが「だし巻き卵」。だしがじゅわっじゅわで、そのへんのお蕎麦屋さんで食べるよりもよっぽどおいしかったんです。でも私は卵焼きが苦手で…、ずっと作ることを放棄していました。
でも最近、思い立って練習を始めたら、安定して上手に作れるようになったんです! こんなに水分量の多い卵をどうやってきれいに巻いてるんだろうってずっと不思議だったから、うれしかったですね。
“野菜は肉の3倍食べる”。食育にもつながる和田家のルール
――家庭で決めている食事のルールはありますか?
和田:“野菜は肉の3倍食べる”“ごはん中はテレビを消す”という和田家の家訓は引き継いでいますね。レミさんいわく、「まず野菜をたっぷり食べて胃をコーティングすると悪いものが体に入ってこない」ってことなんですけど、エビデンスはゼロ(笑)。でもずっとレミさんの近くにいるからうちも自然とそうなりました。
あとは、嫌いなものでも一口だけは食べてみるってこともやってるかな。いやだったら残してもいいけど一口は食べてみようって、子どもたちには伝えています。
――お子さんは、好き嫌いありますか?
和田:それがあるんですよ~、営業妨害だなって思うんですけど(笑)。でも嫌いなものでも食卓に出すことはやめないようにしています。「あなたが嫌いだろうが、ママも家族も食べたいから作ります。食べたくなきゃ食べなければいいじゃない」って。そうやって“食べなきゃ損”って感じるような状況を作っていますね。
もしかしたらどこかのタイミングで好きになるかもしれないし、嫌いな食材でも近くには感じていてほしいなっていう思いがあるから。
それと、好き嫌いをなくすためには、大人がいっしょに食べるのも大事。子どもって親のことをよく見てるから、パパママがおいしそうに食べていると興味を持つんですよ。うちの場合は私がわざともったいぶって「みんなにはあげられないんだよね~」ってコソコソ食べると、「なにそれおいしそう」「ママだけずるい!」って。これ、嫌いなものを食べさせる作戦としてはとっても有効ですよ。
――ほかにも、食育として日々実践していることはありますか?
和田:食事の時に、「今日はお野菜を7種類使っています! はい当ててみて~」ってクイズを出したりしていますね。「あと1個が見つからない~!」って子どもたちも楽しそうにしています。
あとはお手伝い。お手伝いっていっても例えばそら豆だったらさやから出すだけじゃなくて、切り込みを入れてゆでるところまでやらせています。さやから出すところだけを手伝わせるほうが簡単なんだけど、これだけだと自分が関わったっていう感覚が薄れちゃうかなと思って。だから一度食材に関わったら、それが料理になるまで見届けさせています。
献立が浮かばない時は、自分が食べたいものを考えるとうまくいく!
――献立はいつもどんなふうに考えてますか?
和田:スーパーで買い物をしながら決めることが多いかな。私は買い置きが苦手で毎日買い物に行くんですけど、そうするとスーパーの買い物かごの中で食材のバランスを調節できるんですよ。今日はもうちょっと野菜があったほうがいいな、最近乾物食べてないから乾物コーナーにも寄っていこうかなって。お会計の時も献立を考えながらかごの中を凝視しているので、レジの店員さんは嫌かもしれないですね(笑)。
――メニューが決まらないこともありますか?
和田:あります、あります。なんにも思い浮かばなくて誰か決めてくれないかな~って思うことはしょっちゅうですね。でも誰かに「じゃあこれは?」って提案されると、「いやそれは今日は無理」ってなったりするんだけど(笑)。今日は本当に何も作りたくないって日もありますしね。
――何も作りたくない日はどう乗り切っていますか?
和田:うーん、思い切って作らないことも多いですね(笑)。あとは焼きそばとかチャーハンとかを1品作って終わりとか。
やる気が出ないけどどうしても作らなきゃいけない時は、今自分が食べたいものを一生懸命想像します。先にビールを飲み始めて、なにをつまみたいかな~ってキッチンで考えたり。自分が食べたいもの、作りたいものだったら、なんとか頑張れる気がします。
――料理に自信が持てない人へのアドバイスもいただきたいです。
和田:料理に自信がない、バリエーションが少ないっていう相談はよく受けるんですが、そんなに真面目に思い悩むことはないと思うんですよね。
毎日立派な献立を用意する必要はなくて、味付けがワンパターンでも使う食材を変えるだけで別の料理になるし、出来合いの惣菜に頼りつつもみそ汁だけは作る、とか無理のない範囲で実践すれば十分だと思います。
その上で、「これだけやったんだから私えらい!」って自信を持ってほしいですね。「今日は上手にできなかったごめんね」って申し訳なさそうに出されるよりも、「今日のごはんはこれです! 味が足りなきゃソースでも何でもかけて~」って開き直ったほうが絶対ハッピーだし、家族もおいしいって感じると思うんです。
――本書に掲載されている“名もなき地味おかず”たちは、そんな風に日々料理に奮闘している人にこそ作ってみてほしいですよね。
和田:そうですね。この本は私がこの10年で培ってきたものをギュッと詰め込んだ感じ。家にある材料でアレンジしてみたり、レンチン技を取り入れてみたり、家で料理をしている人は、きっとみんなそんな風に自分なりのやり方をしてると思うんですけど。
私の場合はそこに仕事として料理に携わってきたことやレミさんのエッセンスが加わっているので、それも含めてお伝えできたらいいなって。だから本書のレシピもレシピに忠実に作ってほしいなんてことは全然なくて、どんどん自分流にアレンジしてもらえたらうれしいですね。