依頼人の死後に届けものをするサービス「天国宅配便」の配達人が贈る、心温まる感動の物語『天国からの宅配便』
公開日:2022/3/29
「あのとき、なんであんなこと言ってしまったんだろう」「あのとき、ほんとはこう言いたかったのに」…人は長く生きるほどに、そんな後悔をためてしまいがちだ。いつでもちゃんと素直に相手に思いを伝えられていたらいいけれど、なかなかそうもいかなくて。それでも、いつかちゃんと伝えなくちゃ…もしあなたが、そんな思いを抱えているとしたら、柊サナカさんの書き下ろし最新小説『天国からの宅配便』(双葉社)が、そっと背中を押してくれるかもしれない。大切な人にきちんと思いを届けることは、相手だけでなく自分にとっても「救い」になる――そんなことを教えてくれる心やさしい物語集だ。
物語のキーになるのは、「天国宅配便」というちょっと変わったサービスだ。死ぬ前に依頼をしておけば、依頼人が死んでしまった後に預けておいた荷物をしかるべき人のもとへ届けてくれるというもので、預けられるのは手紙だったり、思い出が詰まった品だったりといろいろ。そしていざその時が来たならば、胸に白い羽のマークのついた灰色の制服を着たスタッフ・七星が相手のもとに全国津々浦々バイクでかけつけ、きちんと相手が開封してくれるまで責任を持って届けてくれる。本書には、そんな「天国宅配便」で贈られた「最後の贈り物」についての4つの物語が収録されているのだ。
「第1話:わたしたちの小さなお家」では、すっかりゴミ屋敷になってしまった一軒家で自暴自棄になって生きる新垣(75)のもとに、かつてその家で一緒に暮らした女友だちから小包が。「第2話:オセロの女王」では、せまい田舎と家の圧力に息が詰まりそうになっていた女子高校生・文香(17)のもとに、厳格すぎて対立していた祖母の遺品が。「第3話:午後十時のかくれんぼ」では、会社にも家にも居場所がなく、帰宅途中の公園でビールとおつまみを嗜むのが日課だった中年サラリーマンの祐(42)に、初恋の人だった幼馴染みからの手紙が。「第4話:最後の課外授業」では、周りにいいように使われる自分に嫌気がさしている女子大生・長部(20)に、高校時代に部長をやっていたサイエンス部の顧問の先生からの謎のメッセージがそれぞれ届けられる。
荷物を受け取った側は突然のことに誰もが動揺するが、それでもその荷物に込められた想いがきっちり届く時、故人との心の距離はぐっと近づき、さらに彼らが新たな一歩を踏み出すための「勇気」のもとにもなっていく。死んだ後にだって届けたいと思うくらいの強い想いをつなぐことができたら、相手に無事に届いただけでもほっとするし、相手にだっていい影響を及ぼすに違いないのだ。
本当にこんなサービスがあったらいいのに…とちょっと思いもするけれど、死なんていつやってくるかわからないし、依頼人の立場だったら死後どうなったかなんて見届けられないかもしれない。だからやっぱり私たちにできることは「大切な人には自分の思いをちゃんと自分で届けておくこと」だし、「大切な人の言葉はちゃんと聞くようにすること」なんだろう。大切な人ときちんと向き合うことのかけがえのなさについて、しみじみ考えたくなる一冊だ。
文=荒井理恵