数字は鬼か、救世主か――仕事ができる人になるための「まずは数字」思考ルール

ビジネス

公開日:2022/4/1

数値化の鬼
『数値化の鬼――「仕事ができる人」に共通する、たった1つの思考法』(安藤広大/ダイヤモンド社)

 一生懸命働いてるのに評価されないと悩むビジネスパーソンは多いはずだ。それはもしかしたら、自分の考え方に「数字」が足りないのかもしれない。この『数値化の鬼――「仕事ができる人」に共通する、たった1つの思考法』(安藤広大/ダイヤモンド社)は、そんな、成果が上がらずにもがく組織のプレイヤー層の行動を変えてくれる一冊だ。

 著者は、株式会社識学の社長として、社員を成長させるマネジメント法を伝える安藤広大氏。組織で働く人を育てるノウハウの中から、現場社員にとって役立つ「数字」をベースにした仕事術を紹介するのがこの本だ。

 本書は「数値化」の重要性を伝えるが、データや数字に強くなれと言うわけではない。目標の立て方や仕事の仕方に数字のものさしを取り入れる方法と、その効果を伝える本だ。難しい公式や理論は登場しないため、理系の分野を学んだ経験も理系脳もない人にも読みやすい。その内容は、たとえば、「もっと」や「なるべく」といった言葉の曖昧さに頼らず、目標を数字で設定すること。確率ではなく、まずは行動の量を上げること。著者は、「数字がすべてではない」「社員ひとりひとりが数字にこだわると自分のことしか考えなくなる」という、数字を嫌う人が抱きそうな懸念へ回答した上で、数値化というものさしを持って働くことの意義を伝える。

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 中でも、働いても働いても評価されないという人の心に響くのは「変数」の考え方だろう。著者は、自分が変えられない「定数」と変えることできて成長につながる「変数」を見極め、「変数」を変える努力をすべきと語る。変えられないものにムダな力を注いだり、重要度が低い変数にこだわったりしていると、がんばり方を間違えるという。本書は、変数の見つけ方や変数の優先度の決め方など、具体的なノウハウも指南する。伸び悩んでいる人だけでなく、さらに成長したい人も、この変数の考え方を習得すれば次のステップに進めそうだ。

 また、著者が本書で強調するのが数字に関する順番だ。成果が出ない人がよく陥る間違いに、数字より前に自分らしさにこだわることだという。しかし、優れたスポーツ選手の個性は数字的な結果をあげた上で成り立っているし、ユニークなアーティストも基礎が身についている。特にビジネスには数字が欠かせない。数字を追いかけると、自分らしさはあとからついてくると著者は言う。順番に関するこうした指摘を読み、何かと理由をつけて数字から逃げてきた自分の甘さに気付く人もいるのではないだろうか。

 数字は世界の共通言語であり、どんな組織でも、どんな苦手な上司に対しても明確に結果を示せる。だからこそ「心を鬼にして数字と向き合うべき」と著者は言う。しかし、数字と向き合うことで、自分に足りないものがわかり、具体的な行動に移せる。数字は、やみくもにがんばる人のストレスを減らし、視界をクリアにしてくれるのだ。本書を読めば、数字は「鬼」ではなく、我々に道を示してくれる味方だと気付くだろう。

文=川辺美希