関テレの石田/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉙

小説・エッセイ

公開日:2022/4/4

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

小中の同級生にT君という男がいた。

彼はとても無骨な男で初志貫徹の権化みたいな奴だった。一度こうと決めたらテコでも動かない、同級生の中でもちょっと異質の存在に思えた。彼みたいな男が超カッコイイと思えるまでを大人の階段とするなら、ああいう男は周りが階段に足をかけるまではただの変わり者に映るだろう。T君が本当にいい男だと思えたときにはT君と会うことはほぼなくなっていたが、僕がああいう類いの人間と出会ったのはT君が最初で間違いないと思う。

こういう人間てのはいそうでいない。芸人という人種の中にも本当の本当に初志貫徹がバシッとハマる人はなかなかいない。明らかに芸風が変わる人もいるし、売れる為に試行錯誤したり、やりたくない仕事も引き受ける人だって山ほどいる。あんなに憧れた世界ですら初志貫徹なんてのはまさに修羅の所業なのである。

だからこそ数少ないそんな芸人さんはTVや舞台の上でお客さんや芸人までもを強く強く惹きつけるのだと思う。ギリギリ自分の理想の芸人像に指をかけていられるのは、時折こういった芸人さんと関わりを持つことができるからだと思っている。ここには芸歴や年齢は関係ない。長い間ずっとその状態でいられる先輩もいれば、こいつはきっとずっとこうなんだろう、もしくはこうでいてほしいなと思わせる後輩もいる。

僕は割とメトロノームのように初志貫徹とはほど遠いブレ方をするときがあるから、こういう人たちに触れ続けることで、いつもいつも目を覚まさせて頂いているのである。

そしてもちろん、そんな稀有な存在に、芸人以外の職業の方と出くわすこともある。

最近もっともそれを感じたのは、大阪のあるロケ番組にいた1年目のディレクターの女の子だった。

石田という名の彼女との仕事は、関西テレビの番組で、1年目のADの方にディレクターとして短いVTR(V)を作ってもらい、一番面白いVを作った新人ディレクターに60分の番組を作る権利を与えるというもの。

この石田という1年目のディレクターは、その大勝負に僕の起用を決断してくれたのである。

彼女が提案した企画は以下の通り。

あたしが月の石を食べたいから、月の石通販で買ってクッキーに混ぜて焼いてビルの屋上で月見ながら月の石入りクッキーを食うまでをオズワルドの伊藤にカメラ持たせて撮り続けさせよう。

というものであった。

まじで3回説明してもらった。

どういう意味? 俺映らないってことだよね? カメラ回してついてって石田にツッコみまくるの? 1秒も映らないのに? ていうか月の石食いたいってなに? なんで? えっ待って俺1秒も映らないの?

うろたえる僕に石田は微笑みを浮かべ、よろしくお願いしますの一点張りであった。

すぐに彼女が変な奴だということはわかった。ロケが始まってからしばらく上着を着せてもらえなかったり、四千頭身の石橋が好きだと熱弁されたり、普通に無視された瞬間もあった。

なんて訳のわからん女なんだと思ったが、彼女に密着してしばらくたってから、なんかちょっとこの感じ、T君に似てるなと思った。

失礼な奴ではない。が、自分の初志貫徹の為にまっすぐな瞳を輝かす彼女は、きっと、いやこれ本当にただの思い過ごしの可能性も高いが、周りの人間と波長が合わずに変人扱いされた日々を過ごしたこともあったであろう。そりゃやりたいことが変だから、達成させたい本人もそりゃ変態に見える。でもこれは紛れもなく、初志貫徹する人間の行動であると、僕はT君と石田を少し重ねて見ていたのである。

最終的に彼女がビルの屋根の上で月の石入りクッキーを食べる姿を、隣に座ってカメラに収めた頃には、彼女という人間の面白さに夢中になっていた。彼女もまた、人を惹きつける初志貫徹の持ち主なんだと思った。

結果的にはこのVで優勝することは叶わなかったのだが、個人的にはとてもいい仕事を頂いたなと思えている。偉そうなことは言えないが、10歳も上の芸人にそう思わせることは簡単なことではないと断言できる。

だから石田にはこのまま突っ走ってほしい。まっすぐブレずにやりたいように。面白いと思ったことをたくさんやって面白いと思う番組をたくさん作ってほしい。

そうやっていつかまた僕を呼んで、ぜひとも超カッコイイ姿を見せてほしいなと、おじさん楽しみで仕方ないのである。おじさんも石田に呼んでもらえるように、カメラワークの練習とかしとくから。

一旦辞めさせて頂きます。

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。