寺島惇太「拝啓、日陰から」⑥陰キャとステージ

アニメ

公開日:2022/4/23

寺島惇太

 みなさんご存じの通り、ここ数年、声優は“表に出る職業”になりました。なかには大人気のアイドルのような人気を誇る人もいて、そんな人をぼくは日陰からこっそり見つめている……のかと思いきや、なんとまあありがたいことに、ぼくのような陰の者でも表舞台に立たせていただくことがたびたびあるわけです。人生なにがあるかわかりませんね。ただ人前に立つと、どうしても痛感するんです。陽キャとの違いを。

 陽キャの人たちがステージに上がると、普段の何十倍も盛り盛りでキラキラ輝きだします。わざわざ足を運んでくださったお客さんのために「どうすれば喜んでもらえるのか」を徹底的に考え抜き、場を盛り上げるプロと化します。でも、ぼくにはどうしてもプロに徹することができない場面があります。

 わかりやすいシーンをひとつ挙げてみます。たとえば賞品をかけたゲームコーナー。そこで勝者には、運営が用意したプレゼントが贈られます。でも、それが鬼門。運営も敢えて「こんなもの貰ってもうれしくないでしょ!」という賞品を用意してくるんです。いわゆる“ボケ”ですね。

 でも、陽キャの人たちは「うわっ、こんなの貰っていいんですか! って、いやいや、こんなのどうするんですか!」なんてノリツッコミを繰り出します。運営と会場のお客さんが求める反応を見せるんですね。一方でぼくは、ニヤニヤしながら「いやぁ、これはいらないっす……ww」と素で反応してしまう。その瞬間、会場の温度が5℃くらい下がるのを感じます。あれ、エアコン効きすぎてない……?

 喜ぶにしても残念がるにしても、ステージ上ではオーバーリアクションを見せなきゃいけない。それはわかってるんです! でも、でも……、どうしてもできません。仮にオーバーリアクションを取ったとして、「寺島、さすがにあれは嘘でしょ」なんてお客さんにバレてしまうのではないか。だったら、ここは素直に反応しとくべきだ。なんて、脳内では陰キャフル会議が行われます。結果、中途半端で場を盛り下げるリアクションを取ってしまう始末。はい、エンタメ業界にいるプロとしては未熟者ですね。

 そもそも、生粋の陰キャであるぼくは、陽キャと比べると感情の基準値がマイナスで設定されています。たとえば陽キャの平常時がゼロなのに対して、ぼくの平常時はマイナス10くらい。そこでプラス10くらいのうれしいことがあったとして、陽キャはプラス10の感情表現を見せますが、ぼくはやっとゼロになる。つまり、内心では陽キャと同じくらい喜んでいるのに、表にそれが出てこないわけです。するとどうなるか。寺島はテンションが低い、心が死んでいる、目が笑っていない……などなど、散々な評価を受けてしまいます。ありのまま生きるって難しいんダナァ…。

 ただし、そんなぼくだからこそ見つけられた“居場所”があります。それはMCなどのまとめ役です。MCは常に落ち着いていて、暴れまわる陽キャたちを俯瞰し、取りまとめることが求められる。俯瞰陰キャ野郎がかろうじて強みを発揮できるポジションです。おかげで「寺島さんに回しをやってもらえば安定だから」とスタッフさんに頼っていただくことも多くなりました。

 でも、こういう仕事をしている者にとって、“安定”っていいことなんでしょうか……? 本当はみんなと同じようにはっちゃけた方がいいのではないか。でも、自分にはできないし、どうしたらいいんだろう。ステージ仕事が入るたび、堂々巡りの陰キャ地獄へ突入するのでした。ああ、早く抜け出したい……。

【著者プロフィール】
てらしま・じゅんた●1988年8月11日、長野県生まれ。2009年に声優デビュー。『アニメガタリズ』『TSUKIPRO THE ANIMATION』『アイドルマスター SideM』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『A3!』といったテレビアニメを中心に活動する他、ゲームやドラマCD、映画の吹き替えなどでも活躍。また、2019年には『29+1 -MISo-』でアーティストデビューも果たす。2021年12月には3rdミニアルバムも発売。

公式Twitter:https://twitter.com/juntaterashima3
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構成協力=五十嵐 大

<第6回に続く>