人生の光も闇も肯定してきた『カムカムエヴリバディ』。最終回直前、その魅力を名言で振り返る
公開日:2022/4/7
現在放送中の、朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。朝ドラ史上初めて、祖母・母・娘、三世代の女性たちを主人公にしたファミリーストーリーです。4月8日に最終回を迎える本作も、いよいよ終盤。これまで物語の中には、忘れられない一言が数多く登場しました。そんな名言の中でも安子編・るい編・ひなた編、それぞれ印象に残ったセリフから、『カムカムエヴリバディ』が伝えたメッセージについて考えてみたいと思います。
どこの国とも自由に行き来できる、僕らの子どもにゃあ、そんな世界を生きてほしい、ひなたの道を歩いてほしい(稔)
安子(上白石萌音)編で特に印象的だったのが、稔(松村北斗)が出征前に安子に告げたこの一言。安子と稔が、るいの名前に込めた想いでもあります。そして稔が行きつけの喫茶店の店主・定一(世良公則)が進駐軍のステージで“On The Sunny Side Of The Street”を歌うきっかけになったり、ひなた(川栄李奈)と五十嵐(本郷奏多)の別れの後にるいからひなたに、ジョーから五十嵐に伝えられたりと、物語の要所要所に登場します。では、“ひなたの道”とは何を指すのか。稔の想いとしては、英語を勉強し、父の会社を継いでいずれは世界に通用する企業にしたいという夢があるにもかかわらず、戦争のためそれが叶わない。そんな自分の不条理な現状と比較して、自由に外国と繋がれる、やりたいことができる、自由な戦後の世の中をイメージした言葉だったのでしょう。ひなた編も後半の97話、稔は終戦記念日の時報とともにるいの前に出現。「どこの国とも自由に行き来できる、どこの国の音楽でも自由に聴ける。自由に演奏できる。るい。お前はそんな世界を生きとるよ」と伝え、るいは安子を探しにアメリカへ行くことを決意しました。
しかし、平和な日常を生きるひなた編では“ひなたの道”の指す意味にも変化が。るいが失恋で落ち込むひなたに話した「ひなたが“ひなたの道”を歩けますように」というセリフや、ジョーが五十嵐に伝えた「五十嵐君の選んだ道やったら」「それが五十嵐君のひなたの道になるから」には、失恋で落ち込むひなたや、時代劇俳優を目指しながらも挫折した五十嵐に対して、立ち上がって自分の人生に向き合うことができれば、それがひなたの道になること、そして「自分が納得できる道がひなたの道である」という、親から子ども世代に向けたメッセージを感じました。
日々鍛錬し、いつ来るとも分からぬ機会に備えよ(伴虚無蔵)
ひなた編の印象的なセリフと言えば、やっぱりこれ。ひなたはこの言葉を胸に英語を勉強し、ハリウッド映画『サムライ・ベースボール』の制作チームが条映を訪れた際に通訳をこなすなど、虚無蔵の目利き通り、時代劇を担う存在に。同じくこの言葉を伝えられた五十嵐も、俳優を辞めてからも素振りを欠かさず、ハリウッドに渡ったのちに、同映画のアクション監督の補佐として活躍します。その他、雉真繊維を継いだ勇が先代・千吉の遺言を守り、主力商品ではない足袋を作り続けてきた結果、その足袋が同映画で使われることになったりと、本作には地道な努力が実を結ぶ展開が多く登場します。
この展開が私たちの胸を打ったのは、努力の過程を丁寧に描いた脚本家の手腕はもちろん、日々の努力の積み重ねが大きな結果を生むことが現実にもままあること、そして大きな成功は日頃の鍛錬なしでは掴めないことを、私たちが知っているからではないでしょうか。ちなみにこの言葉を言った張本人・伴虚無蔵も、長い間大部屋俳優に留まっていましたが、積み重ねてきた役柄がハリウッドの目に留まり、同映画のメインキャラクターのひとりに。自分自身の力で“ひなたの道”を切り開く人々の姿が描かれたことも、印象的な物語でした。
暗闇でしか、見えぬものがある。暗闇でしか、聴こえぬ歌がある(桃山剣之介)
るい編以降繰り返し登場したこのセリフ。初めて登場したのは、ジョーが関西一のトランペッターを決めるコンテストの前に自信を失い、るいと映画を観に行ったときのこと。その映画『妖術七変化 隠れ里の決闘』の主人公・桃山剣之介の決めゼリフでした。作品自体は「日本映画史上まれに見る駄作」と評価されますが、ジョーはこの言葉でコンテストへのモチベーションを取り戻し、見事優勝します。その時のジョーの心情は描かれていませんが、少年時代を戦争孤児として過ごした自身の過去を暗闇になぞらえ、そんな環境にいたからこそ得たものがある、と感じたのではないかと筆者は思いました。
本作の登場人物は、るいはその少女時代から、ジョーは原因不明の病気にかかり、ひなたは失恋し、五十嵐と虚無蔵は俳優として芽が出ず……と、みんな暗闇の時代を過ごしています。そこから恋人の愛や、自身の鍛錬によってそれぞれの「ひなたの道」を見つけ、歩き出す様子が描かれたという本作の魅力は先に述べた通り。本作のすごいところは、このセリフによって、人生の暗闇の部分も肯定しているところ。暗闇を過ごしたからこそ、るいとジョーは家族の大切さがわかるし、暗闇の中でも欠かさず努力をし続けたからこそ、ひなたと五十嵐や虚無蔵は、「ひなたの道」に出ることができたのです。自分自身の「ひなたの道」を見つけることを説きながら、人生の暗闇をも肯定する。そんなあたたかさが、『カムカムエヴリバディ』の魅力だと感じます。
人生の「ひなたの部分」も「暗闇の部分」も描き出し、それを肯定してきた『カムカムエヴリバディ』。多くの人の心に、余韻を残す作品となることでしょう。
文=原智香
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