「片づけ」コンサルタント・こんまりが川村元気と異色タッグ! 珠玉の物語を楽しみながら整理整頓術が学べる“片づけ小説”が誕生

文芸・カルチャー

更新日:2022/4/10

おしゃべりな部屋
『おしゃべりな部屋』(川村元気近藤麻理恵/中央公論新社)

 部屋をスッキリさせたいのに、気が進まない…。新生活が始まる前のこの時期、そんな憂鬱と闘っている人は、きっと多い。巷には数多くの片づけ本が溢れていて、自分に合うメソッドはどれなのかと困惑し、片づけ意欲が萎んでしまうこともあるだろう。

 そんな時は片づけをテーマにした小説で心を休めながら、片づけ熱を高めてみてはいかがだろうか。『おしゃべりな部屋』(中央公論新社)は斬新な片づけ物語。なぜなら、独自の片づけ術「こんまり(R)メソッド」を生み出した近藤麻理恵氏と、『世界から猫が消えたなら』(小学館)の作者・川村元気氏がタッグを組んだ共作小説だからだ。

 本作は、これまでに1000以上の部屋を片づけてきた近藤氏の体験をベースにした、連作短篇集。7つの収録作は気鋭の絵本作家・大桃洋祐氏のカラーイラストにより、より温かみを感じられる仕上がりとなっている。

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おしゃべりな小箱が相棒! モノの声が聞こえる片づけコンサルタント

 橙木ミコには、誰にも言えない秘密がある。それは、部屋にあるモノの声が聞こえること。服や靴下、本、家具が語りかけてくる依頼人宅で、おしゃべりな小箱の相棒・ボクスと共に片づけをサポートする。それが、ミコの日常だ。

 ある日、依頼を受けたミコは49歳の主婦・藍沢真由子の家を訪れた。真由子の家には、服がたくさん。床にはたたまれずに置かれた下着が積み上げられており、半開きになったクローゼットにはワンピースやコートがすし詰め状態。ミコの耳には、洋服たちのうめき声が聞こえた。

 藍沢家を美しくするため、ミコは真由子にミッションを課す。それは、家の中にある服を全て出して1カ所に集め、ときめくものだけを残すというもの。

 すると、服たちは「痩せて見える」「若く見える」と真由子に猛アピール。真由子が色違いで購入した、使用頻度の高い水色のシャツとまったく着られていないピンクのシャツは姉妹喧嘩を始める始末…。

 そんな服たちの声を聞きながら、ミコはどの服を捨てようかと悩む真由子に助言をし、片づけをサポートする。

 こうして、ようやくほとんどの服の収納を終え、部屋が綺麗になった時、ミコたちの目に入ったのは真由子が高校生の頃に着ていたセーラー服。大きな箱にしまわれ、クローゼットの一番奥に隠すように置かれていた、そのセーラー服は思い出のつまった大切な1着だが、実は現在の真由子を苦しめる原因にもなっていた。

 そんな複雑な心境を知ったミコは、真由子に対してユニークな提案をし、彼女の“心の片づけ”もサポートしていく――。

 本作には他にも、本を捨てられない新聞記者やなんでも溜め込んでしまう夫婦、死の間際に片づけを決意した老婦人など、さまざまな事情を抱えた片づけられない人々が登場。ミコはその度に具体的なアドバイスを贈り、片づけを手伝うのだが、彼女が口にするメソッドは実用的でタメになる。

 例えば、捨てる洋服を選別する際はモノに対するときめきセンサーが冷静に働くよう、オフシーズンのものから手をつけるのがポイント。ごちゃつきやすいキッチンをスッキリさせたい時は、タッパーの横には空き瓶などの保存容器、箸の近くには箸置きというように、似たアイテムを近くに収納していくのがよいのだとか。

 こんな風に、近藤氏の片づけノウハウがたっぷり盛り込まれているのは、本作ならではの魅力。巻末に片づけのポイントをまとめた「ミコのお片づけノート」が収録されている点も嬉しい。

 そして、個人的にグっと来たのが、モノに対するミコの想い。作中でミコは、溢れるモノを前に困惑したり、モノを捨てることに罪悪感を抱いてしまったりする依頼人に向け、モノに対する持論を力説。その台詞を目にすると、自分も自宅にあるモノたちと真剣に向き合いたくなった。

たくさん着たものを手放すときは、今まで活躍してくれてありがとうの一言をお忘れなく。

たたむというのは、これから自分を支えてくれる服を労わり、愛情を示す行為でもあります。

捨てずに持っているからといって、モノを大事にしているとはいえないと思うんです。むしろ、きちんと向き合えるモノに絞り込むことによって、モノと自分との関係が生き生きしてきます。

 心から、「片づけ」という行為が愛しくなる。そう感じさせる7つの物語に触れると、ごちゃついた部屋で落ち着いていた重い腰もあがりそうだ。

文=古川諭香