大根1本買うときの意思決定は? 池上彰直伝! 人間の行動心理を読み解く「行動経済学」をビジネスに生かす方法

ビジネス

公開日:2022/4/12

働く君に伝えたい「本物の教養」 池上彰の行動経済学入門
『働く君に伝えたい「本物の教養」 池上彰の行動経済学入門』(池上彰:監修/学研プラス)

 たとえば締め切りが1ヶ月後のレポートの宿題が出た時、あなたは「1ヶ月ということは、1日5ページずつやればOK」のように計画通りに進める派か、「やばい! あと1週間!」と結局追い立てられてしまう派のどちらだろうか。合理的に考えれば断然前者がよさそうだが、どうも人は計画通りに進めるのが得意ではなく後者派も多いもの。しかしどうして人間はこんな不条理な行動をとってしまうのだろう。怠け者だから? いや、「行動経済学」の視点を借りれば、こうした行動は「人間の行動には『現在バイアス』(目の前の楽しみを優先させてしまう行動)がかかりやすいから」と理解できるという。

働く君に伝えたい「本物の教養」 池上彰の行動経済学入門 P.14-15

「行動経済学」とは「心の働き方というものを重視して経済の動きを読み解こうとする」注目の学問領域だ。マーケティングやビジネスに役立つ「使える経済学」といわれているので、聞いたことのある方もいるだろう。このほど「知識をあなたのモノにする入門書」として学研プラスから登場した新シリーズ「働く君に伝えたい『本物の教養』」の第一弾(※)まさにこの「行動経済学」がテーマ。池上彰氏の監修による『働く君に伝えたい「本物の教養」 池上彰の行動経済学入門』(学研プラス)は、見開きでワンテーマ、イラスト解説つきでわかりやすく行動経済学のポイントを教えてくれる一冊だ。発売から約2週間で重版し、「行動経済学」への注目度の高さがわかる。

(※)同シリーズの『働く君に伝えたい「本物の教養」佐藤優の地政学入門』も同日に発売。

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働く君に伝えたい「本物の教養」 池上彰の行動経済学入門 P.110-111

 本書によれば行動経済学は、「人間はつねに合理的に判断して動く」ことを前提にした従来の経済学では説明がつかないことが多いため生まれた“新しい経済学”だ。先ほどの「現在バイアス」もそうだが、人間はしばしば非合理なことや無駄なことをしてしまうもの。このような私たちの「心の動き」を理解することで「意思決定のプロセス」を解き明かそうとすることが行動経済学の主眼のひとつであり、行動経済学の重要理論にはそうした意思決定のプロセスにかかわるものが多くある。それらの理論は株価や為替レートの動き、個人の消費行動など、短期の経済動向をつかむ上で有効とされている。

 たとえば大根1本買うにも、従来の経済学の合理性でいえば値段やサイズなどをあれこれ吟味してベストなものを選ばなければならないことになるが、多くの人は売り場で見つけた手頃な大根をサッと選ぶだろう。そうした直感による意思決定を行動経済学では「ヒューリスティック」という重要な概念に位置付けるのだ。

働く君に伝えたい「本物の教養」 池上彰の行動経済学入門 P.62-63

 あるいは、人は利益から得られる満足よりも損失から受けるダメージが大きいように、人間の思いや行動には道理に合わないことがあるが、そうしたことも「プロスペクト理論」として理論化されている。ほかにも本書には「同調効果」「バンドワゴン効果」「スノッブ効果」などさまざまな概念が紹介されているが、まるで「人間の行動のクセ」が見事に理論化されているかのよう。こうした理論は実際にビジネスシーンでも利用されているといい(本書には具体的な実践例も多数紹介されている)、おさえておくと大いに仕事のヒントになりそうだ。

「実際の人間の動きを理論化した行動経済学は、『人間とは何か』を追究する学問。だからこそ、ビジネスにもプライベートにも役立つ理論といえるのです」と池上氏。ビジネスマンにリアルに「使える知識」をくれる一冊を、大いに活用してほしい。

文=荒井理恵