【ネタバレあり】『ONE PIECE 102』最高幹部との死闘で、ゾロに「おれを殺せ」と約束させたサンジの覚悟

マンガ

公開日:2022/4/11

※本記事にはネタバレが含まれます。ご了承の上お読みください。

ONE PIECE 102
『ONE PIECE 102』(尾田栄一郎/集英社)

 ルフィは海賊王になる男だ。たとえ最強生物カイドウが相手でも、きっと、ぶっ飛ばしてくれる。しかしカイドウに勝つことが、海賊王になることではない。カイドウとの対決の先に、ワンピースにつながる謎と冒険が待っている。そのときルフィが必要とするのは、仲間だ。仲間の支えがあって、はじめて海を制することができる。

『ONE PIECE 102』(尾田栄一郎/集英社)では、麦わら海賊団の両翼、ゾロとサンジの死闘に目が奪われるだろう。ルフィを海賊王にするため、己の信念を貫くため、身を捧げるように戦う姿は、胸を揺さぶられるものがある。

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 ゾロとサンジの前に立ちふさがったのは、どちらも百獣海賊団の大看板。最高幹部で懸賞金10億超の「火災のキング」と「疫災のクイーン」だ。

 ゾロは、カイドウに深手を負わせた男だ。最強生物の体にキズを与えられる実力者は、世界でも限られている。そんなゾロでも、火災のキングの強さは別格。プテラノドンの力を持つ古代種の飛行能力とパワーで、防戦一方の展開。頭のトサカを引っ張って、爆撃のような打撃を放つ奇妙な技を受けても、「太古のプテラノドンはこうやって狩りをしていたのか」と納得する程度には、冷静さを失っていた。

 さらに追い打ちをかけるように、ワノ国で新しく手にした名刀・閻魔が暴走を始める。戦闘中、勝手に持ち主の覇気を放出して、気が散ったゾロは、キングの強烈な一撃を浴びてしまう。膝をついて、体を震わせながら刀を拾う姿が痛々しい。やはり閻魔は、持ち主を殺す妖刀なのだろうか。

 そこでゾロは思い出した。ゾロが生まれた村、シモツキ村での記憶だ。親友くいなとの誓いで手にした名刀・和道一文字。東の海から、ずっとゾロを支えてきた相棒ともいえる大業物の一振り。しかし…なぜ東の海に、そんな名刀があったのか? その答えが、ゾロの記憶の中にあった。そして記憶の中に、閻魔を刀として“服従”させる方法を見出す。

 ゾロは再びキングと相対した。全身はボロボロ。カイドウとの戦闘で一度死にかけている。しかし立ちはだかるキングに、禍々しい覇気を刀から漂わせ、不敵な笑みを浮かべて言い切った。

船長と…親友との約束があんだ!!!

 一方のサンジも、古代種・ブラキオサウルスの力を持つ疫災のクイーンに苦戦を強いられる。どれだけ蹴りを浴びせても、難なく立ち上がる恐竜の頑丈さが憎たらしい。

 同時にサンジは、自分の体に起きた異変に、恐怖することになる。長引く戦闘でついに本気を出したクイーンは、恐竜の常識を覆す超強力な締め技を披露。ツッコミを忘れて真正面から受けてしまったサンジは、いかなる強者も再起不能にする締め技で、全身の骨が折れた。普通なら死を覚悟する場面である。

 ところが、サンジは生きていた。ゾンビのような姿で立ち上がり、「ガン!ゴン!ガン!」という鈍い音とともに、折れた骨を自ら元通りにしてしまう。人間業とは思えない。直後、クイーンから斬撃を受けるが、体で刀を真っ二つに折ってしまう。敵の銃撃を受けても傷ひとつない。

 これはまさに…サンジが忌み嫌った「ジェルマ66」の血筋そのものだ。兄から譲り受けたジェルマ66のスーツを着たせいで、ついにサンジにもジェルマの能力が発現。鉄のような体を手に入れる代わりに、心も氷のように冷たくなってしまうのか。たとえ殺されそうになっても貫いた騎士道を忘れてしまうのか。女を殴って高笑いする悪魔のような兄弟を思い出して、サンジは自身の変化に恐怖を覚えた。

 そんな気持ちと裏腹に、クイーンはサンジを追い詰める。戸惑う心と、右手にはジェルマのスーツ。そしてサンジは、ある決意を胸に、ゾロに電伝虫をかけ、こう約束させた。

これからおれ逹は…「百獣海賊団」に勝利する
――だが決着の後……
――もしおれが“正気”じゃなかったら
お前がおれを殺せ

 ゾロとサンジは、麦わら海賊団の両翼を担う戦闘の要だ。必然的に敵は主力クラスになり、戦闘シーンは派手になる。迫力ある技の数々に、ワクワクする。

 この2人の戦う姿がかっこいいのは、それだけじゃない。ゾロもサンジも、東の海からの冒険を経て、信じられないほど強くなった。人間としても成長した。今や新世界をかき回す立派な大海賊だ。

 けれども、初登場からずっと変わらないものがある。己の誓い、つまり信念だ。ゾロは親友くいなとの約束を守るため、サンジはゼフに叩き込まれた騎士道を貫くため、殺されそうな場面でも絶対に曲げず生きてきた。それが、最高幹部との戦闘でも見えてくる。

 どれだけ強くなろうと、己の生き方は変わっていない。だから戦闘シーンに、生き様が見える。胸が揺さぶられる。こんな2人が船長のそばにいたから、ルフィはカイドウと真剣勝負できるところまできた。この2人なしに、ルフィは海賊王にはなれない。それを強く感じるのが、本作の見どころである。

 ゾロとサンジが死闘をくり広げる中、他方ではサイファポールが暗躍していた。ちょこまかと城内を動き回る様子が不穏である。散り際のカン十郎は、オロチにそそのかされ、すべてを塵にするような怪物を生みだした。モモの助は、花の都へ落下しようとする島を、何とかできないか上空で必死。そしてもうひとりの最強を相手にするローとキッドは、大技をくり出し、ビッグ・マムを本気にさせた。どこを見渡しても血の雨が降りしきる。

 侍たちが起こした討ち入りは、まだ決着に遠い。しかし、何度倒れても立ち上がるルフィを見ていると、少しずつ近づいている期待感もわいてくる。ワノ国の長い夜明けが待っている。

文=いのうえゆきひろ