数か月前から、Twitterのタイムラインに「ぱやぱやくん」という可愛い犬のアイコンのアカウントの投稿がよく表示されるようになった。フォローしていない人の投稿が表示されるのはよくあることだが、私が注目したのは、メンタルが弱ったときに効くツイート内容である。「どこでこのメンタルハック術を知ったのだろう？」と思いフォローしてみると、プロフィール欄に元陸上自衛隊であることが記されていて納得した。

　過酷な現場で働くためにはメンタルの調子を整えることが不可欠で、そのための工夫を知っている人なのだろうと感じたからだ。

　災害が起きると被災地に駆けつけ、命を救うため懸命に働く。そんな自衛官の方々の姿をテレビで見ていると、彼らの生活やプライベートは、なんとなく探ってはいけないもののように思い込んでいた。

『陸上自衛隊ますらお日記』（ぱやぱやくん：著、原田みどり：イラスト/KADOKAWA）では、ぱやぱやくんは自らの経験をもとに、自衛官の訓練や生活、恋愛、結婚など人生のライフステージを具体的なエピソードとともに明かす。マスメディアでは見られない自衛官の姿が浮かび上がる内容の本だ。

　原田みどりさんのやわらかく愛らしいイラストによって、自衛官がより身近に感じられる工夫もなされている。

　そして本作の「ますらお」は本来の意味である「りっぱな男。勇気のある強い男」（大辞泉より）とは異なり、陸上自衛隊で働く人たちを指し、もちろん女性も含まれている。

　訓練や駐屯地での生活、恋愛事情も興味深いが、後半、結婚して子どもが生まれた後のエピソードにあるさりげない一文に衝撃を受けた読者も多いのではないだろうか。

自衛官の娘さんが地下アイドルになった場合、駐屯地の一般開放日に「お父さんの職場に来ましたー」とアイドルグループがやってきて、ライブを開催することがあります。

　ライブの客席にはアイドルファン、ミリタリー好き、アイドルに興味がない自衛官がいるらしい。恐らくステージに立つアイドルからすると、同じお客さんとして彼らは存在している。

「自衛官の生活」と「それ以外の人の生活」が混ざり合う瞬間であるようにも感じられた。

　終盤の「今日から使えるますらおメンタルハック」では、苦しみを乗り越えるために必要な考え方や心に効く口癖が具体的に書かれていて、どのような仕事をしている人も章のタイトルどおり今日から実践できる内容だ。

　本書を読むことによって、マスメディアに流れない自衛官の生活の一部を知る機会が得られるだけではなく、読者それぞれが自分と重なるエピソードを見つけることができるのではないだろうか。

文＝若林理央