石井孝英「25歳が運命の分かれ目。ある出会いで声優第一章が始まりました」声優図鑑
公開日:2022/4/18
キャラクターの裏に隠された自分自身をありのままに語る、ダ・ヴィンチWebの恒例企画『声優図鑑』。第285回に登場するのは、『美男高校地球防衛部HAPPY KISS!』の和倉七緒役、『フットサルボーイズ!!!!!』の水無瀬涼佑役などを演じる石井孝英さん。
「3歳からゲーマーです」と語る石井さんは根っからの2次元好き。声優になってからは、25歳で出演した作品が転機となり、最近は以前から憧れていたゲームブランドとの嬉しい出会いもあったとか。一歩ずつ着実に前進する石井さんに、これからの展望を含め、お話を聞きました。
3歳からのゲーム好きが今でも続いています
——今は大のゲーム好き声優としても知られる石井さんですが、幼少時はどんな子どもでしたか?
石井:ゲーマーでしたね。
——そんなに早くから!?
石井:はい。家にスーパーファミコンがあって毎日遊んでました。たぶん最古の記憶ですけど、3歳の時に腕を骨折したことがあって、ギプスで固定したままコントローラーを握っていたそうです。「どれだけゲーム好きなの」って親に驚かれました(笑)。
——3歳からゲーマーだったと(笑)。
石井:外でも遊びましたけど、周りに森しかないような田舎で育ったので、家にこもってゲームをすることが多かったですね。スーパーマリオとか、ロックマンXみたいなロックマン系とか。大人でも難しいようなアクションゲームもありました。
——得意の格ゲーにハマったのはいつ頃ですか?
石井:高校3年の頃ですね。当時スカイプでグループを作って、友だちと通話をしながら延々と遊んでいたんですけど、一番すごかったのは夜10時から翌日の10時くらいまで続いたこと。社会人の友だちが朝「仕事行くわ~」と一度抜けて、帰ってきてからまだ遊んでたくらい(笑)。
——じゃあ、子ども時代に続いて、学生時代に夢中になっていたものもゲームですか?
石井:そうですね(笑)。学校が終わったら帰ってすぐにゲームをしていました。徒歩5分圏内に友だちが住んでいたので、毎日のように自宅に呼んで、スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)で遊んでましたね。
“ニコ厨”だった学生時代から声優を目指すまで
——ゲームに明け暮れる毎日の中、声優を目指そうと思ったきっかけは?
石井:高校に入った頃、母親の知り合いのダンサーさんが宮野真守さんの1stライブのバックダンサーをすることになって、母親は僕がアニメ好きだと知っていたから一緒に行くように誘われたんです。正直、女の子ばっかりだろうし僕が行っても…って思っていたんですけど、いざライブに出かけたら、「声優って歌でも人の心を動かせるんだ」と感動してしまって。それから一度も軸がブレることなく声優を目指すようになりました。
——それまでは、他の職業に憧れることもあったんですか?
石井:夢ってなんだろうなってフラフラしていた頃があったんですよ。それこそ家族の影響で株取引に興味を持ったり、漫画家に憧れたり、漫画は難しいけど絵は好きだからイラストレーターを目指そうと思った時期もありました。姉にたまたま連れて行かれたミュージカルを見て面白そうだと思ったり。オタクだったから声優の存在は知っていて、ネットの投稿サイトに自分の声を編集してアップしたりもしていましたけど、単なる趣味で、仕事にしようとは思ってなかったんです。だから、宮野さんの歌声に触れていなかったら声優になっていなかったと思います。
——いずれお仕事でご一緒できるかもしれませんね。
石井:当時行ったライブは関係者として入らせてもらったので、ライブの後に宮野さんと握手をして、ご挨拶できる機会があったんですよ。その時、すごく大きな手で「今日は来てくれてありがとうね」と言ってもらえて、「この人と一緒に仕事してみたい」と思ったんですよね。いつかメインキャラクターとして共演できる機会があれば、と思います。
——オタクというと、どんな作品が好きだったんですか?
石井:アニメが好きになったきっかけは、小学6年の時に観た『うえきの法則』。それから『とらドラ!』『かんなぎ』『天元突破グレンラガン』『涼宮ハルヒの憂鬱』とか。ニコニコ動画が流行り始めた頃で、“ニコ厨”って呼ばれるくらい、オタク界隈で流行っていたアニメはだいたい観てましたね。他にも『らきすた』とか。懐かしいな~。
——高校を卒業してから専門学校東京アナウンス学院に入学していますが、学生の頃に演技の経験は?
石井:ほとんどなかったですね。部活動に演劇部がなくて……だから独学でした。シビレを切らして、高校3年の時に演劇愛好会を作ったら、後輩も3人くらい入部してくれて。一緒に掛け合いとかをしていたんですけど、いかんせん校内に部室がなくて。部室の空きがあるかどうか毎回確認しないといけない状態で、うまく活動できませんでしたね。
——すごい情熱ですね。
和倉七緒に出会い、声優としての第一章が始まった
——2018年に放送されたTVアニメ『美男高校地球防衛部HAPPY KISS!』の和倉七緒役は、石井さんの代表作の一つでもありますね。
石井:オーディションに受かったのが25歳の頃。25歳っていうと、自分の人生に区切りをつける人が多い時期じゃないですか。僕も同じで、それまであがいてきたけど、花が開くことはなく、フェードアウトしようかなって考えていた時期だったんです。そんな時、事務所からこの作品のオーディションに声を掛けていただいて、ありがたいことに、「優しめで敬語のキャラクターが声質に合いそう」と一番に惹かれていた和倉役で合格することができたんです。それから本当の意味での声優としての第一章がスタートした気がします。
——声優という仕事に向き合う上での気持ちも変わったのでしょうか。
石井:変わりましたね。メインキャラクターを演じることで、和倉を演じた声優として、キャラクターを背負っていく責任感が持てるようになりました。キャラクターは僕だけのものではなく、スタッフさんやファンの方とか、みんなのものなので、その想いが消えない限りキャラクターは生きているんだなと感じます。
それに、この作品で僕を知ってくださる方が増えて「真剣に和倉に命を吹き込んだことは無駄じゃなかったな」と思えます。だからこそ、もっと期待に応えないと。
『フットサルボーイズ!!!!!』の試合では目頭が熱くなることも
——大きな転機となる作品だったのですね。『フットサルボーイズ!!!!!』では水無瀬涼佑役を演じていますが、キャスト自身がフットサルの試合を行うという斬新な試みも。
石井:声優がスポーツまでする時代になったんだ!と感じます(笑)。しかもガチなんですよ。お客さんも本気の応援だし、負けたら本気で悔しいし、勝負がつくと感極まって泣いちゃう子もいて。新しい風を吹かせてくれるコンテンツだなと思います。
——石井さんも試合で心が動くようなエピソードはありましたか?
石井:僕が参加している皇花山学園はまだ一度も勝ったことがないので、負けず嫌いの自分としては悔しいですね。昨年(2021年)の年末の試合で負けた時は、退場する時にちょっと目頭が熱くなりました。役者自身の心が動くのも、このコンテンツの魅力だなと思いますね。
——皇花山学園のチームの良さはどんなところでしょうか?
石井:最年長チームなのでみんな落ち着いてます。他のチームにはフレッシュな子たちも多い中、経験豊富なメンバーが多い大人の集まりですね。生放送でも面白そうなことを自然にできるし、メンバー同士が程よい距離感で仲がいいんですよ。いい意味で大人の関係って感じがします。
——そして、昨年リリースされたゲーム『LUNARiA -Virtualized Moonchild-』では主人公のT-BIT/狼代旅人役を。この作品の制作を手がけたKeyは、学生時代から憧れていたゲームブランドだとか。
石井:『CLANNAD』とか『リトルバスターズ!』とか、体の水分がなくなる…ってくらい号泣する“泣きゲー”をたくさん作られているんです。僕も学生の時、『リトルバスターズ!』を夜通しプレイして泣き腫らした顔で学校に行ったら「おまえ顔どうした」って心配されたことがあったくらい(笑)。オーディションで役が決まった時は「まじですか! あのKeyさんの主人公ですか!」と、ほんっとに嬉しかったですね。
——ちなみに『リトルバスターズ!』で一番泣けたシーンは…?
石井:一番は、全員のルートが終わった後、トゥルーエンディングに向かうために進むリフレインというルート。熱い男の友情が描かれるんですけど、緑川光さんの演じる恭介の熱演が泣けるんですよ。まだ観ていない人はぜひ!
——T-BIT/狼代旅人役の「静かに情熱を燃やす天才ゲーマー」という役柄が石井さん自身にも重なるような…。
石井:じつは重なる部分が多くて! シナリオライターの方が僕を推してくれたと伺って、運命的な出会いだと感じました。2000ワード近いセリフを読むのは初めてで最初は悩みましたが、演じるうちにシンクロ率が上がって、後半はすごい熱量に。アドベンチャーゲームは声がついていないほうが没頭できるという人も少なくないんですが、今回は「ボイスがあったから後半にかけて感情移入できた」という感想もいただいて…すごく嬉しかった。役者冥利に尽きますね。
『うえきの法則』の漫画原作を今でも読み返します
——好きな本や影響を受けた漫画などがあれば、教えてください。
石井:やっぱり『うえきの法則』ですね。上京する時、実家にある漫画の中から真っ先に持っていこうと思った漫画です。作者の福地翼先生がずっと好きなんですけど、能力バトルの構築が天才的に面白くて。たとえば主人公の植木は「ゴミを木に変える能力」を持っているんですけど、その能力でどう戦えと…?って思うじゃないですか(笑)。でも、頭を使って使いこなし、敵を倒すんですよ。漫画もアニメも最後までワクワクさせられっぱなしでしたね。今でもふと読み返します。
——では、日常の中の「幸せを感じる瞬間」を挙げるとしたら?
石井:いっぱいありますけど…美味しいご飯を食べている時はやっぱり幸せだし、誰かとゲームをしている時も。仕事は、演じている時はとにかく真剣なので、作品が世に出てお客さんの反応を見た時に幸せを感じます。自分の声がゲームに実装されたりテレビで流れたりするのは、「いま俺が喋ってた。へえ~」みたいに今でも新鮮ですね(笑)。
——10代の頃から“熱しやすく冷めやすい性格”だそうですが、大人になってからハマったことはありますか?
石井:『とらドラ!』で主人公の高須くんはめちゃくちゃ料理がうまくて、一時期、料理男子になろうと思っておばあちゃんに料理を教わっていたんですけど、2ヶ月くらいでスパッとやめました…(笑)。
——行動に移していることがすごいと思います(笑)。お休みの日の過ごし方は…やっぱりゲームですか!?
石井:はい。僕の毎日は、ゲーミングチェアに座ってパソコンの電源をつけるところから始まるので、ゲームをしない日はないですね。でも職業柄、土日にイベントが入ることが多いので、会社勤めの友だちと時間が合わないんですよ。一緒にゲームができる夜になるまで、ポケ~ッとゲーム実況を観たりNetflixを観たり、その時の思いつきで過ごしています(笑)。
主人公を支えるようなバイプレイヤーに
——25歳の時に声優としての第一章が始まり、これからはどんなふうに声優としてのキャリアを積んでいきたいですか?
石井:第一に、息の長い声優になりたいっていう気持ちがあります。若い頃にはなかった技術が身についたりして成長はできていると思うので、目指すのは、どんな主人公でも支えられるような名脇役。主人公を支えるには芝居力が求められるので、そこを目指せば自然と息の長い声優になれるのかなと。たくさん演じて、もっと成長して、たまに主人公もやらせてもらえたら(笑)。一段ずつ上がっていくタイプなので、これからも長く見守っていただけると嬉しいです。
——石井さん、ありがとうございました!
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
石井孝英
◆撮影協力
撮影=高木成和、取材・文=吉田あき、制作・キャスティング=吉村尚紀「オブジェクト」