京都ガイドとムズキュン短編が一冊に!『京都寺町三条のホームズ』0巻を携えて聖地巡礼に出かけよう
公開日:2022/4/14
京都寺町三条にたたずむ骨董品店「蔵」には、「寺町のホームズ」の異名を持つ京男子がいる。鋭い観察眼と類まれな推理力を誇る彼の名は、家頭清貴(やがしらきよたか)。ひょんなことからこの店でアルバイトを始めた女子高生・真城葵(ましろあおい)は、客が持ち込む謎をたちどころに解決する清貴に驚かされてばかり。そんな彼と働くうちに、いつしか葵の心にも変化が訪れて……。
累計200万部突破の大ヒットシリーズ「京都寺町三条のホームズ」(望月麻衣/双葉社)は、骨董品店を舞台にしたライトミステリー。古美術に秘められた謎、四季折々の京都の風景、清貴と葵の恋模様、彼らを取り巻く人間ドラマなど、さまざまな要素がギュッと詰め込まれており、ミステリーファンから恋愛小説好きまで幅広い読者を獲得している。4月14日には新刊18巻が発売され、さらなる新展開も。TVアニメやコミックにもなっているため、そちらから入った人も多いだろう。
とはいえ、これだけ長いシリーズとなると、「途中まで読んだものの、最近は忙しくて遠ざかっている」「アニメは観たけれど原作は未読」という人もいるかもしれない。そんな人におすすめなのが、今年3月に刊行された『京都寺町三条のホームズ : 0 旅のはじまり』。清貴と葵の出会い、まだ恋心に気づく前の出来事など、甘酸っぱい短編が詰まっており、1~2巻しか読んだことのない人が再スタートするのにぴったりの内容になっている。
中でも面白いのが、葵のバイト初日エピソードを葵と清貴、双方の視点で描いたふたつの短編だ。同じ出来事がそれぞれの一人称で語られ、ふたりの胸の内を覗き見するような楽しさを味わえる。特に新鮮なのが、清貴視点のエピソード。このシリーズは基本的に葵の一人称視点で描かれているため、清貴が何を考えているのか、彼自身の言葉で語られることはない。しかし、この短編は清貴の一人称視点で進むため、「この時、清貴はこんなことを考えていたのか」と答え合わせするように楽しむことができる。
しかも、清貴から見る葵のなんともかわいらしいこと! 葵本人は自分の考えをズバッと言い当ててくる清貴の洞察力に驚いているが、客観的に見るとガチガチに緊張していたりうろたえたりするので、彼女が何を考えているのか手に取るようにわかる。清貴視点では、感情ダダ漏れの葵があたふたする姿が描かれ、実に微笑ましい。
巻が進むにつれて葵と清貴の仲が深まっていくが、0巻の時点ではまだふたりとも恋心を自覚していないのも初々しさにあふれている。たわむれに「壁ドン」をして距離の近さにドギマギしたり、葵のクリスマスの予定を聞いてやきもきしたり。「このこの~」とふたりを肘でつついて冷やかしたくなるような、ムズキュンエピソードをたっぷり楽しめる。
しかも収録されているのは、短編だけではない。カラーページでは、四季折々の京都の観光スポットが丁寧に紹介されている。そもそもこのシリーズは、京都観光を疑似体験できるのも魅力のひとつ。0巻をガイドブック代わりにして、ふたりが歩いた名所をたどることもできる。葵や清貴になりきって聖地巡礼に出かけたくなる、ワクワクするような一冊だ。
文=野本由起