人気ポッドキャスト「コテンラジオ」が書籍化! 偉人たちの面白エピソードから癒しをもらう

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公開日:2022/4/18

『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考
『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』(深井龍之介/ダイヤモンド社)

 新年度に入り、大きく環境が変化した方は多いかと思います。そんなシーズンにオススメの一冊が、自分と身の回りの出来事を客観的に捉える「メタ認知」を高めるヒントをくれる『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』(深井龍之介/ダイヤモンド社)です。

 著者の深井龍之介氏は「メタ認知」のことを「歴史思考」と銘打ち、ここ数年で多くのポッドキャスト関連のランキングや賞で評価を得てきた「歴史を面白く学ぶコテンラジオ(COTEN RADIO)」を配信。過去に大手電機メーカーやベンチャー企業の重要ポストを務めた経験を活かし、歴史学という専門分野を他領域に越境させて「歴史思考」を広めようとしています。

「歴史思考」と聞くと、図書館に必ず置いてあるような年季の入った「世界の偉人シリーズ」のように、やや渋い感じがするかもしれません。しかし、コテンラジオのリスナーの中には「悩みから解放された」「気持ちが楽になった」といったように、癒しを感じる人も少なくないといいます。

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人類史に名を残すイエス・キリストや孔子が、実は失意のうちに死んでいたこと。聖人とされるマハトマ・ガンディーが、意外とパッとしない青年期を送っていたこと、カーネル・サンダースなどの大成功者が、おしなべて遅咲きだったこと。
彼らでさえ、人生はそううまくいっていたわけではありません。

 上記のほかにもチンギス・カン、アン・サリヴァン、中国史上唯一の女帝・武則天などが紹介されていますが、首尾一貫して強調されているのは「人や物事の評価が近視眼的な見方でおこなわれている」という現代社会の傾向に気づくべきだということです。

「収入が高くて困っている」とか「自分は異性が好きなんだけど、どうしよう」と悩む人がいてもよさそうなのに、見当たらないのはどうしてでしょうか?
それは、僕たちが生きる社会には無数の「当たり前」があり、そこから外れている人が悩んでいるのです。

 今の「当たり前」は過去にはなかった価値観がほとんどで、永続するものでもない。そう考え始めたとき、拠り所になるのが「歴史思考」です。歴史をひもといていくと、「うまくいくこと」よりも「ただそこに存在すること」が重要であることは自明だと書中で繰り返し述べられています。

「ただそこに存在すること」というのはやや哲学的なので、少し噛み砕きましょう。近視眼的観点からすると重要な「物事がうまくいくかどうか」という点は、「歴史思考」からすればさほど重要ではありません。大切なのは「存在しさえすれば何かしらの個人史が紡がれる」と実感できること。これが「歴史思考」を脳内にインプットする最大のメリットです。

 おそらく著者が理想としているのは、そうした自覚をもった個々人同士が、互いの個人史を尊重しあう社会が形成されることなのでしょう。実際、著者はWikipediaに書かれているような歴史的人物たちのライフストーリーの行間を丁寧に掬い取り、彼ら彼女らを再び「存在させる」術を知っていて、コテンラジオで多くのリスナーは前述したような「癒し」をそこから感じています。

 半世紀以上前に書かれたアルベール・カミュの『ペスト』の売り上げがコロナ禍になってから急激に伸びたことは記憶に新しいですが、人の歴史だけではなく歴史的出来事も、現代を生きる私たちに多くのことを教えてくれます。人、出来事、文化・芸術。それら全てを含めた意味での「古典」が、人々の癒しになる。そう確信する著者が率いる株式会社COTENは、2016年に設立され、「メタ認知を高めるきっかけを提供する」という標語のもと「世界史データベース」の構築に取り組むという、ユニークな事業を展開しています。本書はその斬新な事業内容の基盤を知る、ビジネスノウハウ本的側面もあると思います。

 このように「当たり前」の枠を取り払ってくれる「歴史思考」は、自分の身の回りの動向をじっくりと見つめ、スムーズにしてくれる咀嚼力を提供してくるでしょう。また、本書では言及されていませんが、ポッドキャストではロシア・ウクライナの歴史も深掘りされているので、あわせて是非チェックしてみてください。

文=神保慶政