すべて実体験! “最恐”トラウマ系心霊マンガ『憑きそい』

マンガ

公開日:2022/4/15

憑きそい
『憑きそい』(山森めぐみ/扶桑社)

 livedoorの公式ブロガーでもある漫画家・山森めぐみ氏の『憑きそい』(扶桑社)は、「トラウマ系心理マンガ」というキャッチコピーの通り、世にも奇妙で恐ろしい霊的体験を13作品所収した漫画集だ。霊を見た際の状況が微に入り細に入り描き出されているのは、著者の体験がそのまま漫画になっているからだ。実体験をベースにすることで、作品に並々ならぬ説得力とリアリティが宿っている。

 全編、不穏でただならぬ緊張感が漲っている。読者は、見てはいけないものを見てしまったという感覚を著者と共有させられるに違いない。自分にもこんな事態が訪れたらどうしよう、という不安に苛まれる人もいるだろう。少なくとも筆者はそうだった。

 肝要なのは、人物も擬音も台詞もすべて手描きだということ。絵は昨今流行りのエッセイ漫画風の素朴なタッチが特徴だ。決して書き込みすぎないライトな絵柄を、著者は意図的に選んだのだろう。絵柄が素朴だからこそ、主人公が目撃した霊の妖しさやグロテスクさが際立って見える。淡々とした日常と、霊が出現する非日常の対比が鮮やかで、ここぞ、というところで顔を出す霊の表情には背筋が凍る思いだ。

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 例えば、「かくれんぼ」には、水難で亡くなった5歳の幼女が霊として出現する。かくれんぼの最中に著者が遭遇するひな人形の顔つきが、実に不気味でおどろおどろしい。本来であればその娘が7歳の時に飾るはずだったひな人形が、行き場をなくして霊として浮遊している、ということらしい。しかも、人形の髪はどんどん伸び続けるのだ。霊能者によると、何か言いたいことがあるから、うらめしげな顔でこちらを見ているのだろうと判断される。

 あるいは「蛇」であれば、小さな生き物を片っ端から殺傷してきた少女が、蛇の霊に憑りつかれて、全身に異変を起こすという話。少女の身体の隅々に蛇のうろこが現れ、病院に行って薬をもらうが、それではまったく症状が改善しない。霊能者の力によってなんとか事態は収まるが、その後に……。と、続きは漫画を読んでいただきたい。

 30ページに及ぶものから2ページで終わるものまで、作品の長さがまちまちなのも、功を奏している印象だ。短編は、「怖いけど、もう終わり?」とモヤモヤが残って後を引くし、長編は長編で、霊が実際に出てくるまでの前フリや伏線の張り方が巧み。数々のフラグが、最後の最後で鮮やかに回収されるのは、見事としか言いようがない。短編と長編が混在することで、一冊の中で自然と緩急やメリハリが生まれているのもいい。

 著者の山森氏は、ストーリーテラーとして一流だ。気軽に心霊スポットに行くものじゃない、と霊を信じない筆者にも思わせる物語の力が、本作には確実に宿っている。さらに恐ろしいのが、著者がブログで「面白かったのにNGが出て書けない話もありました」と本作について書いていること。スピンアウトでもいいから、お蔵入りになったバージョンがネットにアップされないだろうか。意識せずともそんなことを思ってしまう時点で、既にして著者が仕掛けた罠にハマっているということだろう。

文=土佐有明