民主主義アンコールの提案/小林私「私事ですが、」
公開日:2022/4/16
美大在学中から音楽活動をスタートし、2020年にはEPリリース&ワンマンライブを開催するなど、活動の場を一気に広げたシンガーソングライター・小林私さん。音源やYouTubeで配信している弾き語りもぜひ聴いてほしいけど、「小林私の言葉」にぜひ触れてほしい……! というわけで、本のこと、アートのこと、そして彼自身の日常まで、小林私が「私事」をつづります。
全然アンコールをやりたくない。今日び月並みな意見だが一応表明しておこうと思う。月並みついでにベタなうんちくを先に言っておくと、アンコールの語源は仏語のencore(また、再度、もう一度)である。
ライブにはセットリストというものがある。言い換えれば演目、この日どんな曲をどの順番で何曲やるのかというリストである。これを、締め切り期限はまちまちだがライブの前には提出しなければならない。
そしてアンコールというのは大抵メーンの演目終了後に演者は一度舞台から下がり、それを受けてお客さんが一定のリズムで手拍子や足踏みをしたり、そのまま「アンコール! アンコール!」と叫んだりして(今は声を出せないけれども)、再び演者が舞台に戻って行われるものである。
昨年初めてワンマンライブを行う際の、セットリストを考える時に「アンコールの曲目も提出してください」と言われた。当時はまあそういうもんかと別途で考えて提出した。
当日メーンの演目を終わらせ、本来であれば一度引き下がって「せっかく考えてきたし普通やるもんだからお客さん頼むぞ」と祈りながら待つ予定だったのだが、私は何を思ったのか一度頭を下げてからこう言った。
「はい、それではこれからアンコールを始めます!」
自分でも全く意味が分からない。アンコールって、そうじゃないだろ。コイツは何を言っているんだという空気が会場に流れたのもお構いなしに予定通りの”アンコール”を執り行って終演した。
先述のアンコールが本来のアンコールからかけ離れていることには読者諸君も何の疑いもないだろう。そして不思議にも結構な数のミュージシャンが先述とは異なるが本来のアンコールはやはりしていないこと、既にセットリストに組まれた予定調和的なアンコールに違和感を抱いている人も多いはずだ。
私は長時間立っていられないので人のライブを見に行っても帰りたい時は手を叩かないし、自身のライブもこれ以降アンコールは控えている。アンコールとは言わずもがな「もっと見せてくれ!」という客側の本心から湧き上がるものでなければならないのだ。
さて、ここで提案である。民主主義のライブをしたらどうだろうか。元より、みんな何となくアンコールの雰囲気で何となく手を叩いているからいけないのだ。周りが求めているようだしやっておくか…という惰性や強制を極力無くさなければならない。
そこで終演後に匿名のアンケートを採る 。その過半数が「アンコールを希望」したらアンコールをするというシステムを導入する。
こうすれば変に空気を読まなくていい、そもそも演者と観客は1対1でありたいのだから。
もうひとつ、ルールを追加したい。民主主義でいうところの「多数決の原理」は、抑圧を意味するわけではない。多数派が、少数派や個人の自由を侵害してはいけないのだ。
つまり、少数派─続行反対派─は帰りたくなったら帰っていい。寝てもいい。
もちろん日本のライブハウスという空間においては当然日本の法律が上回るのでそれに抵触する行為は控えていただきたいし、あくまで音楽ライブという制限の中「演目を続けるか否か」を多数決に委ねたい。
決定事項に納得のいかない少数派にもその集団から抜け出す権利がある。
さらに言えば─―私が常々ライブで言っていることではあるが─―迷惑・妨害行為にあたらなければ鑑賞方法は自由である。基本スタンディングのライブであっても各々は貧血や体力不足、頻尿や騒ぐ程ではない若干の体調不良等を抱えているだろう。座ったりお手洗いに行ったりしたって本当はいいのである。
これを明示しておかなければ「もう見たくもないのに見させられている」「既に楽しめない状況にある」という本末転倒な事態を防げるというわけだ。
どうだろう。例えばスマートフォン持参を明記し、当日専用のアンケートサイトに飛んでいただく。必要な時にそのサイトで投票してもらって決定する。出来れば内訳も可視化したい。ライブハウスの電波状況の整備さえ出来れば十分実現可能なのではないだろうか?
私は既にこの話を昵懇のライブ制作チームに伝えているので近い内に実現するかもしれない。もしくはどなたか、ここに穴があるぞという意見や先に実験してやろうという方は是非その結果をご教授願いたい。
こばやし・わたし
1999年1月18日、東京都あきる野市生まれ。
多摩美術大学在学時より、本格的に音楽活動をスタート。
シンガーソングライターとして、自身のYouTubeチャンネルを中心に、オリジナル曲やカバー曲を配信。チャンネル登録者数は14万人を超える。
2021年には1stアルバム「健康を患う」がタワレコメン年間アワードを受賞。
2022年3月に、自らが立ち上げたレーベルであるYUTAKANI RECORDSより、2ndアルバム「光を投げていた」をリリース。
Twitter:https://linktr.ee/kobayashiwatashi
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