『幸村を討て』『タカラモノ』『明日、私は誰かのカノジョ』編集部の推し本5選
更新日:2022/4/19
映像化を観てみたくなった! 『午前0時の身代金』(京橋史織/新潮社)
設定でひきつけてイッキ読みさせてしまう、エンタメ感満載の作品だった。
主人公は新米弁護士の小柳。詐欺事件に思うところのあるらしい彼の前に、相談者として現れたのが女子学生・菜子だ。小柳のボスからの紹介でやってきた彼女は、その夜、小柳と別れたのを最後に失踪してしまう。そして翌朝、なんと彼女の誘拐と、その身代金10億円をクラウドファンディングで日本中から募る「誘拐プロジェクト」が発覚する。
身代金募集をかけるよう犯人が指定したクラウドファンディングサイトの運営会社は、小柳の事務所が顧問をつとめる企業。ボスとともに小柳が赴いたその企業での上層部の会議の内容が、なんだかとてもリアルで(システムの担当者とIR広報担当者が意見をたたかわせるなど)、お仕事小説にも読めてくる。
クラウドファンディングで無事10億円は集まるのかハラハラさせられながら、明るみに出る真実や浮上する疑惑などが気になりすぎて、先を読まずにいられなくなる。登場人物すべてが怪しい、と感じるくらいに疑心暗鬼になったところで、ページ数がまだあることがうれしくなるのが、ミステリーの醍醐味だよな…といつも思う。
自身の新卒時代を思い出すような、主人公の初々しさも含め、映像化されたら、結末を知っていても観てしまうに違いない一作。
宗田 昌子●「推し本+」の記事にも書いたが、節電目的もあって週末に近所の銭湯に行くことにした。家の風呂とは違う気持ちの良さ。電気風呂や泡風呂など「素晴らしい」以外の何物でもない。こんな贅沢をできるチャンスが身近にあったなんて…。暮らしを豊かにするヒントはまだまだ眠っていることを実感。
主義と生きざまが交差する。諸将の視点から浮かび上がる、真田幸村の魅力。『幸村を討て』(今村翔吾/中央公論新社)
多くの人が通る道だと思うけど、歴史系の小説やゲームをむさぼるように摂取していた時期があり、特に戦国・幕末期に関しては、いったい何人くらいの人名・いくつの出来事が自分の脳に記憶されているんだろう、と思う。どんなエンタメに触れても、マニアックな固有名詞に触れて「あ、知ってるわ」と思ったとき、満ち足りた気分になる。『塞王の楯』で第166回直木賞に輝いた今村翔吾さんの新刊『幸村を討て』は、読んでいてそんな楽しさが常に押し寄せてくる、極上の歴史エンタメ小説である。
「日本一の兵」と称えられ、後世においても抜群の人気を誇る戦国時代のヒーロー、真田幸村(信繁)。稀代の策略家であった幸村の父・真田昌幸を含め「真田」を恐れた徳川家康、東北の雄・伊達政宗、豊臣方に参集した後藤又兵衛や毛利勝永といった諸将らの目線を通して、大坂の陣における「真田の思惑」が語られる。視点人物が変わることで、さまざまな立場から見た真田幸村の人物像が浮かび上がっていく。ミステリー的な要素もありつつ、それぞれの生きざまが描かれていて圧倒的に面白く、500ページを超える大作だが、一瞬たりとも飽きさせない。
個人的なオススメは、現在放送中の『鎌倉殿の13人』も好評の脚本・三谷幸喜氏が手掛けた2016年の大河ドラマ『真田丸』の映像を思い浮かべながら(あるいは事前に観て)、本作を読み進めること。秀逸なキャスティングにより、キャラがものすごく立っていた『真田丸』も抜群に面白い作品なので、さらに楽しめるのではないだろうか。
清水 大輔●編集長。『真田丸』で特に好きだったのが、沼田城を渡すという約束を反故にして北条家に差し出す、と言い出した徳川家康を、真田信幸(のちの信之)が「“じゃが”ではござらん!」と一喝するシーン。脚本の妙と、芸達者なキャストの演技にしびれます。