東大・京大でこの10年間に一番読まれた本『思考の整理学』のポイントを5分で紹介!
更新日:2022/4/29
ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした1冊、東大・京大でこの10年間に一番読まれた本(※)として注目される『思考の整理学』(外山滋比古/ちくま文庫)をご紹介します。
こんな人にオススメ!
・学校の勉強がつまらないと感じている中高生
・卒業論文を書こうとしている大学生
・創造的な思考を仕事に活かしたいと考えている人
3つのポイント
要点1 自らものごとを発明、発見できる“飛行機能力”を伸ばす
要点2 寝させて捨ててメタ化することで思考を整理
要点3 現代に求められるのは社会に根ざした創造的思考
▼プロフィール
外山滋比古(とやま・しげひこ)
1923年生まれ。英文学者、言語学者、評論家、エッセイスト。東京文理科大学英文科卒業後、同大学特別研修生修了。文学博士。『英語青年』編集長を経て、東京教育大学(現・筑波大学)助教授、お茶の水女子大学教授を務め、89年に同大名誉教授。「東大・京大で一番読まれた本」として注目を集めてロングセラーとなった本書のほか、『ことわざの論理』『「読み」の整理学』『知的生活習慣』『伝達の整理学』など著書多数。2020年7月逝去。
人間には「グライダー能力」と「飛行機能力」がある。先生の指導や教科書を読むことで受動的に知識を得ることはできるが“自力で飛ぶことができない”のが前者、自分でものごとを発明、発見できて“自力飛行能力がある”のが後者である。学校はグライダー人間を作るには適しているが、飛行機人間を育てる努力はほとんどしていない。指導者がいて、目標がはっきりしているところではグライダー能力が高く評価されるが、新しい文化の創造には飛行機能力が不可欠である。これからの社会に求められるのは、グライダー兼飛行機のような人間だ。
思考は発想を寝させて発酵させることで整理される
ビールを作るためには麦があるだけではダメで、それを発酵させなければならない。思考もそれと同じで、まずテーマとなる素材があり、思いがけないところから得るヒント、アイディアが発酵素となる。さらに、それをアルコールに変化させるには、“寝させる”必要がある。しばらく忘れてそっとするのだ。「見つめるナベは煮えない」という言葉もある。一晩寝てからだと、ナベの中がほどよく煮えているだろう。大きな問題であれば数年にわたって寝させる必要だってある。思考の整理法としては、寝させることほど大切なことはない。それは頭の中で自由な化合がおこる状態を準備することにほかならない。決して、ただ時間のばしをしているのではないのである。
思考を説得力あるものにするためには、自説と異なるものを含めて諸説を照合し、調和折衷させることが必要である。このカクテルを作るためには、持っている知識をいかなる組み合わせで、どういう順序に並べるか、そういった“知のエディターシップ”とも言うべき能力が緊要事となる。新しいことを考えるのに、すべて自分の頭から絞り出せると思ってはならない。無から有を生じるような思考などめったにおこるものではない。すでに存在するものを結びつけることによって、新しいものが生まれる。そうした発想の母体となるのが、個性である。個性によって結びつけられた知識・事象から生まれるものがおもしろかったり、おもしろくなかったりするわけで、個性は触媒なのだ。
情報を捨てて段階的にメタ化
情報は高次にメタ化していく。たとえば事件や事実をそのまま伝えるニュースは第一次情報、新聞の社説、ダイジェストや要約、評論やレビューは第二次情報、これをより高度に抽象化を進めて昇華させた論文などが第三次情報となる。思考もまた断片的な着想にすぎない第一次情報から、発酵、カクテル化、アナロジーなどを経て第二次情報にするといったメタ化が行われている。思考の整理とは、より高い抽象性へと高める質的変化のことである。
こうした思考の準備段階として情報収集の段階からスクラップ、カード、ノートなどを用いて思考を分類しておくとよい。手帳を持ち歩き、アイディアが思いついたときはすぐに通し番号を打って書き留めておくのもいいだろう。それをしばらく寝させた後に見返してみて、変わらずにおもしろいと思うものは別のノートに日付と通し番号、見出しをつけて書き写す。このノートに書かれたものがすべて原稿や講演などの題材になる。こうして作ったノートの中でもコンテクストができ、新しい思考、アイディアが生まれてくる。それをまた新しいノートに移植する。これが「メタ・ノート」である。メタ・ノートに入れたものは、自分にとってかなり重要で長期にわたって関心事になるだろうと想像されるものになるはずだ。
思考の忘却と「とりあえず書く」こと
手帳からノートに移したものは第一次の試練にパスしたものである。しかし、時間が経つとやはりおもしろくなくなってしまうものも出てくる。これが第二次の試練。ここを通り抜けたものがメタ・ノートへ移される。逆にいえば、試練をパスできないものを忘れていく。忘却していくことで、個人の頭の中には不動の考えが作られていく。思考の整理とは、いかにうまく忘れるか、である。
また、よく調べて、材料はたっぷりあるのだが、思考がうまくまとまらないということもある。むしろ、たっぷりありすぎて、どうまとめたらいいのかわからない。そういうときは「とにかく書いてみる」。頭の中ではたくさんのことが同時に主張しているが、書くのは線上である。一時にはひとつの線しか引けないので、何かを先にして他をあとにするしかない。そうすることで、もつれた糸のかたまりが解きほぐれていくように、考えがはっきりしていく。書き始めたらあまり立ち止まらないで、どんどん先を急いでとにかく終わりまで行ってしまう。あとからゆっくり推敲して、第二稿、第三稿と書き直せばよい。それによってさらに思考が整理され、昇華していくのである。
書くだけでなく話すことで新しい風を入れる
書いたものは声に出してみると、頭が違った働きをするのかもしれない。音読してみると考えの乱れているところは読みつかえる。思考はなるべく多くのチャンネルをくぐらせたほうが、整理が進む。
しかし、何でも話してよいとは限らないのもまた事実である。たっぷり寝させて、すでに発酵してアルコールのようになった着想、テーマであっても、友人などに話してみると、冷たい反応をされることがある。そうなると、若芽はあえなくつぶされてしまい、二度と頭をもたげようともしないだろう。むしろ、専門分野の違う気心の知れた人と集まって現実離れをした話をしているときのほうが触媒作用がおこり、セレンディピティも期待できる。新しい思考を生み出すためには垣根を越えて、新しい風を入れることが大切である。
人間にしかできない創造的思考とは
現実は決してひとつではない。じかに接している物理的世界と、知的活動によって頭の中に作り上げられたもうひとつの現実世界がある。前者が第一次的現実、後者を第二次的現実としよう。従来の第二次的現実は文字と読書に作られていたが、現代はさらに強力な映像による第二次的現実が出現し、むしろ第一次的現実を圧倒している。そうした時代には第一次的現実にもとづく思考、知的活動に注目する必要がある。つまり、本などに根ざした思考だけでなく、実際に仕事をして生活をする社会に根ざした思考を整理して、新しい世界を作らなくてはならない。これが飛行機型人間である。
これまでの知的活動の中心は記憶と再生にあった。それではグライダー人間が多くなるのも当然である。しかし、コンピューターの登場によって記憶と再生の人間的価値はゆらぎ始めている。本書が知ることよりも考えることに重点をおいてきていたのは、真に人間らしくあるためには創造性こそが求められるからだ。
人間らしく生きていくことは、人間にしかできない、という点で、すぐれて創造的、独創的である。コンピューターがあらわれたことによる人間の変化を洞察するのは人間でなくてはできない。これこそまさに創造的思考である。
文=橋富政彦
※東大生・京大生が2012年~2021年の10年間で一番購読した文庫(東大生協本郷書籍部・京大生協調べ)