『カムカムエヴリバディ』市川実日子演じるベリーこと一子の名言から、「カムカム」を振り返る

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公開日:2022/4/20

連続テレビ小説 カムカムエヴリバディ Part2 NHKドラマ・ガイド
連続テレビ小説 カムカムエヴリバディ Part2 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)

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 大好評の中終了した、朝の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』。朝ドラ史上初めて、祖母・母・娘、三世代の女性たちを主人公にしたファミリーストーリーです。本作には多くの魅力的なキャラクターが登場しましたが、中でも印象的だったのが、るい編に登場したベリーこと一子。当初はジョー(オダギリジョー)を想うるい(深津絵里)の恋敵として、後半ではるいの良き友人として登場した彼女の名言から、本作の魅力を改めて振り返ります。

私は興味ありません、欲しい思てません。そんな顔した女に限って気ぃついたら何もかも手に入れてんねん

 ジョーに恋をして、ストレートに思いをぶつけ続けるベリー。しかし、なかなかジョーはその気持ちに応えてくれません。そんな様子を見守る喫茶店のマスターが「押しが強すぎるからもっと控えめな態度をとってみたら?」とアドバイスした時に、「そういう女、一番嫌い」と答え、その後続けたこのセリフに、共感した方も多いのではないでしょうか。そのあと店に入ってきたるいが、木暮から薦められた紅茶を断る様子を見て、ベリーは「それー!」と大きな声を出し、「一度断れば相手がさらに薦めてくるとわかった上で断っている」と指摘します。もちろんるいにそのつもりはなく、ただの言いがかりなのですが、なぜか憎めないのもベリーの魅力。

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『アンナチュラル』『大豆田とわ子と三人の元夫』など、人気ドラマで主人公の友達を演じてきた市川実日子さんの演技には、一緒に愚痴を言い合ったら楽しい気分になれそうなポップさと、こちらのピンチを軽く受け流さず、かといって重く受け止めすぎない絶妙な匙加減で寄り添ってくれる包容力があるように感じます。「カムカム」のベリーもしかり。その後、ジョーとるいが想い合っていることに気が付くと彼女自身は身を引き、ベリーなりのやり方でふたりを応援。その姿は視聴者の好感を集め、SNSには『おかえりモネ』放送時に生まれたハッシュタグ“#俺たちの菅波”にちなんだ、“俺たちのベリー”タグも登場するほどでした。

お茶はなあ、作法の正確さでもない。仕事の成功の道具でもない。相手のこと思う気持ちや。それだけのもんや。

 映画村のステージへの出演が決まったすみれ(安達祐実)は、一子の娘であり弟子でもある一恵(三浦透子)から、茶道の稽古をつけてもらうことに。一恵の細かい指導に耐えきれなくなったすみれは怒りが爆発。榊原(平埜生成)に「ここがすみれさんの正念場」と説得されても、「たかが映画村のステージ」と思っているすみれの怒りは収まりません。そこに一子が現れて、全員にお茶を立ててから言ったのがこのセリフ。お茶の作法は、相手を思う気持ちから生まれたもの。そう言われると、ひとつひとつの決まり事も悪くないなという気がしてきます。

 お茶の真髄を語る一子のお師匠らしい姿に、大阪のベリー時代から見ていた視聴者にとっては感慨深く感じる部分もあったのでは。ちなみにこのセリフは、なぜかひなた(川栄李奈)に一番刺さり、ひなたは泣きながらお茶室をあとに。すみれの稽古が始まってからまったく会えていなかった五十嵐(本郷奏多)のもとに走るという、物語を動かしたセリフでもあったのです。

意味があんのかないんかわからんことをやる。誰かのことを思てやる。それだけでええんとちゃう?

 どこかにいるであろう安子に届けるため、岡山のステージで“On the Sunny Side of the Street”を歌う決意をしたるい。しかし本番直前に聴いていたラジオで、ひなたと交流のあったアニー・ヒラカワが、安子その人であったことが判明。しかし安子はすでにアメリカへ発った、と知らされます。そこでるいが「お母さん自身がもう私に会わないと決めているなら、今歌う意味があるのか」との迷いを一子に打ち明けたときに、一子がるいにお茶をたて「私にもわからんわ、そのお茶に意味があんのかどうか」と答えつつ、続けたのがこのセリフ。この一言は『カムカムエヴリバディ』という物語そのものを表現していると言えます。

 あんこを作ることも、ジャズを演奏することも、日々鍛錬することも、必ずしもそこにやる意味があるとは限らない。意味があるかもしれないし、ないかもしれない。それでも食べる人のことを思い浮かべながらあんこを作ったり、誰かを想って音楽を奏でたり、いつかの自分のために英語を勉強したり、素振りをしたり。そんなひとつひとつは特別ではない行動が、思いがけないところで誰かのためになったり、実を結んだりする。アニーの言葉を借りれば「思いもよらない場所まで連れて行ってくれる」のです。そんな私たちの日常にも当てはまる小さな幸せ、小さな奇跡を描いたのが本作の魅力だったのだなと、最終週のこの一子のセリフによって、改めて思うのでした。

 るいと安子が再会できたことはもちろん、すみれと二代目桃山剣之介(尾上菊之助)が結婚したり、「たちばな」の屋号を安子の父がおはぎを売らせた少年が受け継いでいたりと、全方向に大団円を迎え終了した本作。この物語がくれた温かなメッセージと結末の余韻が、いまだ私たちの心の中に残っています。

文=原智香

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