「尊敬するクリエイター」との邂逅を経て、この先目指す音楽の道――『であいもん』ayaho×曽我淳一インタビュー
公開日:2022/4/20
現在放送中のTVアニメ『であいもん』。京都の和菓子屋「緑松」を舞台とする心温まる物語のエンディングを彩っているのが、京都在住のシンガーソングライター・ayahoと、サウンドプロデューサー・曽我淳一によるユニット「であいもん」(ayaho+曽我淳一)が制作した楽曲、“ここにある約束”(4月20日リリース)だ。現在19歳のayahoが作詞・作曲、曽我が編曲を担当した本作は、ayahoが持つ唯一無二の歌声と前のめりな感性で紡がれた楽曲に、曽我が施した華やかなアレンジが光る佳曲となっている。「尊敬するクリエイター」とのコラボレーションだったという今回の制作は、ふたりにとってどんな体験となったのだろうか。
(『であいもん』は)素敵なストーリーなので、歌詞を書く手が止まらなかったです(ayaho)
──ユニット「であいもん」としておふたりが制作された2曲、とても素敵な内容になっていると思いますが、どんな手応えを感じていますか。
ayaho:タイアップとしてアニメのエンディングをやらせていただくのが初めてで、「わたしでいいのかな」って思っていたんですが、マンガをちゃんと読ませてもらって、すごく素敵なストーリーなので、歌詞を書く手が止まらなかったです。その歌詞を歌にする、聴いてもらうための言葉にするのが難しかったですけど、その難しさがいい手応えになりました。尊敬している曽我さんと作らせていただけて、いい曲ができたと思うので。手応えはあります。
曽我:直接お会いして作るのがちょっと難しかったりもしたので、初めて会ったのはレコーディングの日だったんですよね。
ayaho:はい、そうですね。
曽我:なので、ちょっと手探りな部分もあったんですけど、僕としては思った以上に気が合うと感じて、歌録りもスムーズでした。やり取りをしながら、すごくいいものができたと思いますし。手応えもあったレコーディングでしたね。
──ayahoさんは「尊敬する曽我さん」と話していましたが、もともと曽我さんが作る音楽はご存じだったんですか。
ayaho:小さい頃に、音楽を始めるきっかけになったバンドがありまして、曽我さんはそのバンドの曲に携わられているんです。NICO Touches the Wallsさんが大好きなんですけど――。
曽我:あっ、そうなんだね。初めて知った(笑)。
──(笑)お母さんが好きだったとか。
ayaho:はい、もともとはお母さんが大好きで。
曽我:へえ~。
ayaho:その影響で、わたしもいっぱいライブに行かせていただいて。ほんとにたくさん曲を聴いてきたので、すごいご縁だなと思いました。小さい頃から触れていた音楽を作られている方だったので、すごく尊敬しています。
──レコーディングに至るまでには、お互いにどんなコミュニケーションをしていたんですか?
曽我:ayahoさんからデモが来て、僕が「こういうのどうですか」って返して、いろいろ意見を出したりして。レコーディングで会うまでは、どんな人なのかわからなかったから、TikTokとかでバズっているayahoさんの動画を見漁りました。
ayaho:ありがとうございます(笑)。
曽我:ほぼ歌っているところしかわからなかったので、怖かったらイヤだなあ、とか思いながら(笑)。
──音楽性から、怖さはまったく感じられないですが(笑)。
ayaho:あはは。
曽我:(笑)ドキドキはしていました。
──ayahoさんはこれまでにもリリースの経験はあったものの、冒頭で話してくれた通りアニメのタイアップは初めての経験だったんですよね。話をもらったとき、どんなリアクションをしたんですか?
ayaho:最初にご連絡をいただいたときに、目を疑いました。「お母さぁ~ん!」ってなって(笑)。
曽我:(笑)メールが来たの?
ayaho:高校のときに軽音部だったんですけど、そのときにお世話になっていた方からの、久しぶりのご連絡だったんです。「なにごとやろ?」と思ってLINEを開いたら、「ちょっと、こういう話があるんだけど」って。それ「ええっ!?」となって、すぐにお母さんに報告しました(笑)。そこから話が進んでいって、じわじわ実感が湧いてきましたけど、最初は本当にビックリしました。
──ayahoさんにお話が来た『であいもん』はマンガが原作ですよね。今回TVアニメになり、“ここにある約束”がエンディングの主題歌になるわけですが、ayahoさんは最初に「歌詞を書く手が止まらなかった」と話していて、この作品から呼び起こされた感情、インスピレーションはどういうものでしたか?
ayaho:京都がぶんぶん薫ってくる作品だと思いました。キャラクターの京都弁とか、わたしからすると馴染みのあるお祭の名前、イラストで出てくる建物が見覚えのある建物だったりして、そんな京都感があふれる中で家族愛が描かれている作品です。今まで、京都感がある作品を観てこなかったですけど、京都感がしっかり出た中で、家族愛が描かれている作品だなあと感じながら、原作を読みました。
曽我:僕は、一言で言うとやさしい作品だなと思いました。とにかくそのやさしい部分が、楽曲に残るような感じで作っていきたいと、最初にこの本を読ませていただいたときに感じましたね。テーマというか、扱っていること自体は重たいこともあったりするんですね。家族が複雑だったり。だけど、あくまでやさしいタッチで話が進んでいくのは、浅野りん先生のお人柄なのかなと思いますし、そこがとても好きでした。
──作品側から楽曲制作にあたってのオーダーもあったんですか?
ayaho:原作者の浅野りんさんから、キーワードをいただきました。その中で、「約束という言葉が欲しいです」とおっしゃっていただいて、タイトルにもつけていますけれども。まずは「約束」を頭に入れて書いていきました。作品を読んでいても、一果のお父さんに対しての思い、お父さんと交わした約束は、物語が進んでいっても変わらなかったので、そこを意識していました。
──なるほど。ayahoさんの中で、「この作品にはこの言葉なんだ」ってしっくり来た瞬間もあったのでしょうか。
ayaho:一果の、「安心できてる場所やから、わたしはここで待てているんです」という言葉があって。一果にとって、そこにはお父さんもお母さんもいなくて、おうちでも生まれた場所でもないのに、「安心できてます」ってちゃんと人に言える場所があるんだなあって感じました。一果は、最初はツンツンしていたりもするけど、そのセリフで緑松(作中に登場する和菓子屋)が一果にとってすごく大事な場所だとわかって。《私はここで待ってる》という歌詞もあって、「ここ」は緑松のことを指していて、お父さんを待っている場所なので、「この言葉だ」って思いました。
──歌詞制作を経て曽我さんのところにはデモが届いたんですかね。
曽我:そうですね。ayahoさんがギター1本で弾き語りをしてるデモをもらいました。作品に対する愛と、「若さ」というか、楽曲の勢いを感じました。一番印象に残ったのは歌声で、声が凜としているけど強すぎない印象がありました。楽曲には、やさしさと前向きさがありつつ、その中にしっかり芯がある、強さを感じさせるデモでしたね。
──曽我さんは、ayahoさんの憧れのもとになったバンドの制作にも携わられてきて、いろんなアーティストさんを見てきたと思いますが、曽我さんから見て「ayahoさんだけが持っている」と感じる特別な才能とは、何だと感じますか。
曽我:やっぱり歌声ですね。声です。声って唯一無二のもので、意識しても作れない、取りたくても取れない個性が、声の中にはあると思っています。強さや伸びやかな感じがあるのはもちろん、とても上手だけど上手なだけじゃなくて、少し憂いのある声だなあ、とも思ったりします。それは、デモが来る前からTikTokを夜な夜な見漁っていたときから思ってました。基本的には強さがあって、前に進んでいく力のある声なんですけど。ちょっとだけ――きゅーんとする、とか僕が言うと、気持ち悪いですけど(笑)。
──(笑)ayahoさん自身は、自分の歌声はどういうものだと感じてますか。
ayaho:わたしは、目指しているアーティストさんが大原櫻子さんなんです。憧れているので、歌も大原さんに寄せちゃってた部分があって――マイナスな発言になっちゃいますけど、自分の声はかわいさも力強さも中途半端やなって自分では思っているんです。かわいいならかわいいに寄りたいし、力強いんやったらカッコいいに寄りたい。今の中途半端さってどうなんやろってずっと思ってきたので、曽我さんに言っていただけたことはすごく嬉しいです。
ayahoさんの歌は、「とにかく人に何かを思わせる力のある歌(曽我)
──曽我さんが仕上げてくれた楽曲を聴くのは待望の瞬間だったと思うんですけど、どうでした?
ayaho:最初はただのボイスメモで送らせていただいて、曲自体はすごく丁寧に書いたんですけど、どう思われるかなってドキドキしながら送りました。そこからいただいた曲を開いたときに、すごく豪華になっていて、わたしの曲が大変身していました。もとの形を崩すことなく曽我さんが作ってくださったので、ワンピースがドレスになった、みたいな印象で、嬉しかったですし、貴重な体験をさせていただいてるなあって、しみじみ思いました。明るさもせつなさも全部、音に変えてくださっている曲だと思いました。
──曽我さんからの曲を聴いたときも、お母さんに報告しましたか。
ayaho:しました!(笑)。
──(笑)カップリングとして収録されている“あなたがそばにいてくれたら”も聴かせてもらったんですが、2曲を通して感じるのは「未来を信じている人の歌だな」ということでした。先ほど曽我さんがおっしゃった「若さ」が現れているところもあると思うんですけど、これからの未来も音楽を作っていくにあたって、ayahoさんが大事にしたいことはなんでしょうか。
ayaho:これまで曲をたくさん聴いてきてずっと感じていたのが、そのアーティストらしい親近感が好き、ということです。そのアーティストさんでないと出てこない言葉がきっとあると思うんですけど、それを自分なりに言葉にして、歌にして届けることで、ayahoとしての色も出るので、そこは絶対に必要だと思っていて。なるべく自分の言葉と自分の表現方法で、楽曲に工夫をしながら、ただ恋愛ソングを歌うだけじゃなく、ちょっとひねったりもできる幅の広い音楽をみんなに届けたいです。
──何かを表現する方法はいろいろあるけど、その中でなぜ音楽だったんですか。
ayaho:昔から、音楽がすぐそばにある環境だったんです。父がバンドをやっていて、母も音楽が好きで、歌うことも好きだったし、ずっと音が近くにあったので、自然と自分も物心ついた頃から音楽が好き、音楽があるのが当たり前でした。出会ったアーティストさんも絶対に関係していると思うんですけど、わたしには音楽しかないな、と思っていました。
──音楽しかないと思ったのはいつ頃?
ayaho:スポーツができなくて、ほんとに鈍臭いというか、ダンスも体験したけど、体験だけで耐えられないくらいでした。絵やバレエもやらせてもらったけど、全部ダメで、唯一音楽だけが好きになったことでした。自分から練習できたし、自分から調べたり、動画を撮ったりすることができたのも音楽でした。
──歌が上手なことは前提としてありつつ、きれいに収まるだけでなくその一歩先に行く歌を歌う人だな、ayahoさんの曲を聴いていて感じるんですが、曽我さんはどう思われますか?
曽我:いや、ほんとにその通りですね。歌がうまい人は、いっぱいいるんです。そのことと、アーティストとして歌を歌うこと、どっちがいい悪いじゃなくて、種類が違うんですね。ayahoさんの歌は、「うまい」から一歩、突出してると言えると思うし、それはある種のいびつさかもしれないけど、とにかく人に何かを思わせる力のある歌だな、と思います。制作のときは、単純に「すごいなあ」と思っていました(笑)、完成度が高いから、自分から「もうちょっとこうしたら?」とかはなくて、「ああ、もう素晴らしいです。ありがとうございました」みたいな(笑)。
ayaho:(笑)。
曽我:年齢と音楽はあまり関係ないですけど、18、19歳にして歌のこの完成度はすごいなと思いますよね。コードをどうする、曲の構成どうする、はこれから吸収していくところがあると思いますけども、歌はもう、僕が何か言うようなことはなかったです。ほんと、歌録りは早かったよね。
ayaho:そうですね。
曽我:あっと言う間に終わりました。
──ayahoさんの歌声は、TikTokやSNSを通してたくさんの人が聴いてくれているわけですが、そのことについてはどう感じていますか?
ayaho:どんな顔で聴いてくれてはるのかな、どう感じてくれてるのかなって、すーごく気になります。でも、たくさんの方に聴いていただくのは、たぶん簡単にはできないことなので、ありがたいです。始めたばかりの頃の、自分で曲も作れなかった自分に「大丈夫」って言いたいなって思います。でも、全然満足はしていないですし、今は精一杯、この『であいもん』の曲を皆さんにお届けしつつ、まだまだ進みたい気持ちがあるので。たくさんの方に聴いていただいていることを励みに頑張りたいです。悩んでいる方や、音楽が必要な方、必要じゃなくても音楽が必要だと気づいてくださる方の一番近くにいられるようなアーティストになりたいなって思います。たとえば、日常でちょっとイヤなことあったから音楽を聴こうってなったときに、真っ先にわたしのプレイリストを開いてもらえるようになりたいです。
──そういうアーティストになるために、大事なことはなんだと思いますか?
ayaho:たくさん音楽に触れることは絶対に必要だと思います。お手本にしているアーティストさん以外にも、きっと聴いたことない音楽がたくさんあるので、いろんなジャンルを聴きたいです。ちゃんと自分の音楽を理解して、いろんなジャンルを聴くことは必要だと思います。
──では最後に、今回楽曲を一緒に作った音楽家同士として、お互いへのメッセージをお願いします。
曽我:ほんとに素晴らしい歌声で、その部分をほんとに尊敬しています。今度はスタジオとかで、一緒に話し合いながら曲を作ったり、アレンジを決めたりしたら、さらにいいものができそうな気がするので、今後もよろしくお願いします。
ayaho:わたしの中では、今のこの状況がありえなくて(笑)。東京に来て、曽我さんとこうやって曲を制作して、ユニットとしてやらせていただいていることが、もう心の底から光栄です。たくさん勉強をさせてもらって、自分の中の経験値が上がったので。曽我さんが「今後とも」って言ってくださることもすごく嬉しいです。これから「おっ、ayahoと曽我さん?」と思ってもらえるくらい、わたしがもっと大きくなって、またお仕事をさせていただきたいので、こちらこそ、よろしくお願いします。
取材・文=清水大輔