元はりきりママより/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉚

小説・エッセイ

公開日:2022/4/21

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

新生活が始まるとみーんな勘違いしちゃう気がする。1年のうちに必ずやってくるこの季節に全てを0にする力などあるわけもないのに、まるで今までのことがチャラになったり急に上手くいきそうな気がしてたまらなくなるよね。

みんな別にわかっちゃいるはずなのに、4月ってなんか新生活に期待を込めてはりきり過ぎちゃうよね。その結果理想と現実のギャップ受け入れられずにどっと疲れることがあるでしょ? あれダルいよね。五月病なんてあれ多分そのせいだと思うもん。

みんなも気づいてるでしょ? 人生変わるのは6月かもしれないし9月かもしれない。なのに4月に一発逆転を狙い過ぎるともう12月まで走る体力なくなっちゃうからね。12月まであるからね1年は。4月なんて寝てりゃいいんだよ。どっちかって言ったら大逆転なんてラストスパートに起こるもんだから。

冒頭からゲイバーのママみたいなこと言って申し訳ないが、かくいうあたしも4月に期待して大失敗したことが何度もあるの。

特に何年かに1度訪れる確変タイプの4月ね。1年に1回とかじゃないやつ。小6なら中1、中3なら高1、高3なら大1か社会人。この確変本当に確変の匂いだけは半端じゃなく放つからまじ気を付けて。この生活丸ごと変わる瞬間がとにかく危ないから。肩回し過ぎるとカウンターで肩外れるっていうか取れちゃうから。

特に春から大学生になったあんたたち。これ絶対に読みなさい。なんなら音読したげるからこっち来なさい。

あれは高3から大1になった時だった。

あたし大学生なんていうこの世で1番調子こいた化け物にこの世で1番憧れているのが高3だと思ってる。高3から大1になることが確定した時点で期待が膨らむし、なによりも受験のストレスから解放された高3なんて、もうキャンパスライフ以外の衣食住のことも考えられなくなってるわけ。

とにかく期待した。『オレンジデイズ』とか見てた世代だし。めっちゃ可愛い彼女とか出来たり、もしくはめっちゃ可愛い彼女とか出来たりすると思ってた。酒飲んで、車乗って、めっちゃ可愛い彼女とか出来たりすると思ってたの。

結論から言うね?

友達1人も出来なかった。

多分なんだけど、めっちゃ可愛い彼女のことしか考えてなくて男の子の話には相槌も打たねえような時間過ごしたからだと思う。だってめっちゃ可愛い彼女のこと考えてる時にめっちゃつまらない話されたらそりゃ今めっちゃ可愛い彼女のこと考えてるのに! ってなるじゃない? わかるわかる。ならないよね? 今ならわかるのそれも。ただあの頃は期待が膨らみ過ぎて頭がおかしくなってたのかも。

あと万が一これ読んでくれてる子の中に芸人になりたい、もしくはもうなった子がいたらこっから先脳みそにタトゥー彫っときなさい。

あれは22の4月。あたし大学4年生だったけど吉本の養成所に通い始めたの。もちろんめっちゃ可愛い彼女なんてとっくに諦めてたわ。めっちゃ可愛い女の子のしもべにはなってたけど。ほら、あたし19から30までキャバクラに勤めてたからさ。いいのいいの昔の話。

そもそもあたし大学4年行って気付いてたことがあったの。

えっ待って? 大学って勉強するとこじゃない?

よく周りの大人でもっと勉強しときゃよかったって言ってるおじおば見たことない? あたしあれのおじの方なの。おばかと思った? そんなの任せるわよあんたに。

で、あたし思ったの。あれって勉強うんぬんよりももっと本気で生きてればよかったって意味なんじゃないかなって。

だからお笑いの養成所に入ったら可愛い彼女なんて一切考えないでとにかく本気でやろうって意気込んだ。在学中に売れてやるって。目なんてもうバッキバキよ。『彼岸島』くらい真っ赤だったわ。

とりあえず結論から言うね?

友達1人も出来なかった。

そりゃそうよ話しかけたくないものそんな奴。面白くない奴は無視とかしてたわ。仲間なんて出来るわけないじゃない。

でもね、あたしはお笑いの養成所なんてみんなそうだと思ってたの。これも昔見た芸人さんの姿に期待し過ぎてたのかなって今になったらすごく思う。

要するにあんたたち。あたしがなにを伝えたいかと言うと、とにかく肩の力を抜いて? 頑張るのはとてもいいこと。ただそんな簡単に人生が変わるならむしろ大したもんじゃないわよ人生なんて。

期待し過ぎずに自分に合った生き方をしてちょうだい。あたしもまだまだこれから頑張るんだから。

それじゃ、あたしそろそろ店の準備あるから帰るね。応援してるわよ。

辞めどきわからなくなったママより。

一旦辞めさせて頂きます。

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。