僕と春/永塚拓馬です。
公開日:2022/4/24
デビュー以来、人気作・話題作に多数出演する声優・永塚拓馬さん。多趣味で好奇心旺盛、興味のあることは突き詰めていく。「1日が100時間あればいいのに……」そう語る永塚さんが日々の中で、何を感じ、思っているのか。学生時代からデビュー、声優の仕事、アーティストデビューなど、現在までを綴ってもらいます。
春になれば暖かくなる。
春になれば桜が咲く。
春になれば町に出られる。
春になれば……春になれば……。
冬の間は朝の布団に包まりながら、夜の風に吹かれながら、何かにつけて呪文のように呟いていたような気がします。
寒いのも暑いのも苦手な僕にとって春の到来は特別で。どこか過度な期待と幻想を抱いている部分すらあります。
桜の花も満開の時期を少し過ぎ、花びらがさらさらと散り始めたころ。台本を読みつかれた僕は「書を捨てよ、町へ出よう」といつもの如く当ても無くブラブラと外を歩いていました。町の輪郭は何だかソフトフォーカスをかけたように薄ぼんやりとしていて、陽の熱さも風の冷たさも感じない。歩みを進めても足の裏がどこか頼りなく浮ついている。それは夢の中のような、時間が止まったような、とにかく現実感の無い昼下がりでした。
こんな日、僕は外でパンが食べたくなります。コンビニやスーパーの菓子パンではなく、お洒落なベーカリーでもなく、町の小さなパン屋さんのパンです。もう少し歩けば何度か行ったことのある店があるので、テイクアウトをして、桜を眺めながら食べることにしました。
オレンジ色の暖簾。飾り気の無いカフェスペース。くすんだレジ台。何から何まで昭和の雰囲気が漂うパン屋に入ると、時間が止まっているどころか、時間が逆戻りしてしまったのではないかと錯覚するほどでした。既にお客さんのピークの時間は過ぎていたようで、菓子パンを中心に空のトレーも多くなっています。残っていた商品から僕が選んだのはベーコンエピと切り分けられたチェリーパイ。そしてちょうど焼き上がりの時間だったバゲット達からチーズバゲット。
住宅街を流れる小さな川辺のベンチに腰掛け、まずは焼き立てのバゲットを齧ります。ザクザクとした皮に包まるふんわりとした生地。中からはまだ温かいチーズが溢れ出てきます。昔、有名なパン職人のおじさんが「ラーメン屋に並ぶように、パン屋にも出来たてを待って並んでほしい」とテレビで言っていたことを思い出しました。なるほど、パンは冷める前と後では全然違うものだなぁ。
川沿いに咲く桜並木を眺めながら、黙々とパンを齧っていると、また時間が止まってしまったような感覚になってきました。だけど春は、まるで何も無かったかのようにあっという間に夏へと変わってしまう。
白昼夢のように淡く短い季節をしっかりと噛み締めていきたいです。
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「永塚拓馬です。」は、今回で最終回になります。
ご愛読ありがとうございました。
永塚 拓馬(ながつか たくま)
神奈川県出身。10月4日生まれ。趣味は音楽・映画・舞台鑑賞、読書、紅茶、料理、ピアノ、ギター、ダンス、旅行、美術館巡り等々。主な出演作品は『KING OF PRISM byPrettyRhythm』西園寺レオ役、『アイドルマスターSideM』冬美旬役、『ヴィジュアルプリズン』ヴーヴ・エリザベス役、『SK∞エスケーエイト』MIYA役、『遊☆戯☆王SEVENS』安立ヨシオなど、ほか多数で、ラジオ・テレビなどにも出演する。2021年10月6日(水)にアーティストデビューとともに、1st mini album『dance with me』をリリース。
Twitter:@takumanagatsuka
音楽STAFF公式Twitter:@staff_nagatsuka
Youtube:永塚拓馬 Official Music Channel