私たちの脳は「ハッキング」されている? 累計発行部数60万部を突破した、スマホ依存のリスクを説く『スマホ脳』
更新日:2022/4/27
ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン:著、久山葉子:翻訳/新潮社)の書籍要約をお届けします。
こんな人にオススメ
・スマホをなくして激しく動揺した経験がある人
・理由もなく眠れず、気分が落ち込みやすい人
・子どもとスマホの付き合い方に不安を感じている親世代
3つのポイント
①狩猟社会で生きてきた我々の脳は不安や恐怖を感じやすい。我々のメンタルは急速に発展したデジタル社会に適応できず、悪影響を受けている。
②新しい情報を欲する脳は、ご褒美を頻繁に与えてくれるスマホに依存する。SNS企業はそんな人の特性をビジネスに利用し、脳をハッキングしている。
③欲望を抑える機能が未発達の子どもは特に、スマホに依存しやすい。SNSから感じる劣等感、睡眠不足、運動不足によるメンタルヘルスの不調も深刻である。
(著者プロフィール)
アンデシュ・ハンセン/精神科医。スウェーデン、ストックホルム出身。カロリンスカ医科大学を卒業、ストックホルム商科大学にて経営学修士(MBA)を取得。現在は、王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら、執筆やテレビ番組のナビゲーターなど、メディアでの発信を行う。日本では2018年刊行の『一流の頭脳』(サンマーク出版)は、人口1000万人のスウェーデンで60万部の売上を記録し、その後、世界的ベストセラーになる。そのほか著書に、『最強脳 ―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業―』(新潮社)、『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(共著/PHP研究所)など。
10年で急激に増えたメンタル不調とデジタル社会の関係
私たちは、平均して1日4時間スマホの画面を見ている。1日で2600回スマホに触り、10分に1回手に取っている。手が勝手にスマホに向かったり、ネットサーフィンでムダな時間を過ごしたことを後悔したり、依存性を感じたりしている人も多いのではないだろうか。
その一方、心の不調で精神科を受診する人が特に若い世代の間で急激に増えている。それは、ここ10年に起きた、スマホの普及によるライフスタイルの変化と無関係ではない。人類史上、99.9%の時間、狩猟と採集で暮らしてきた我々の脳は、身の回りに溢れる危険をすばやく察知するため不安や恐怖を感じやすいように進化した。そんな我々の脳は、デジタル社会で未曽有のストレスにさらされているのだ。
私たちの脳はSNSに「ハッキング」されている
スマホ依存を語る上で重要なキーワードが、脳内の伝達物質であるドーパミンだ。ドーパミンは報酬物質と呼ばれ、人間が行動を起こす原動力となる。人間の脳は、かつて危険な環境を生き延びるために不可欠だった「新しい情報」にドーパミンを出す。また脳は、体に次の行動を起こさせるために、「もしかしたら」という不確かな情報もほしがる。スマホを見ているとリンクをどんどんクリックしてしまう、通知を開きたくなるという欲求は、この脳の特性から来ている。スマホは私たちの脳の報酬システムを刺激して10分おきにご褒美を与えてくれる、ドラッグのような存在なのだ。
世界のSNS企業の多くは脳科学の専門家を雇っていて、そんな脳の特性を活かしたアプリ開発を行ってきた。アプリが開くまであえて数秒の時間をおいてスリルを増幅させたり、「いいね」がつくタイミングを調整したりすることで、脳の注目を集めるのが彼らの目的。SNS企業の広告収入のために、我々の脳はハッキングされているのだ。実際に、SNS企業の元幹部が、依存性の高い製品を開発したことへの後悔を口にしている。また、スティーブ・ジョブズが、我が子にはデジタルデバイスを与える時間を制限していたという逸話も、スマホやSNSのリスクを示唆している。
スマホへの興味は集中力も途切れさせる。テストの間にスマホを傍らに置いたり、ポケットに入れたりしているだけで、学習効果や集中力が落ちたという実験結果もある。スマホを見たいという欲求から意識を逸らすことに、脳が処理能力を奪われてしまうからだ。スマホをテーブルに置くと人との会食がつまらなくなるという調査もある。スマホが、集中力や人への関心を奪ってしまうのだ。
欲望を抑えられない子どものスマホ依存は特に深刻
スマホがもたらすメンタルヘルスへの影響も深刻だ。ブルーライトによる睡眠不足や運動不足、コミュニケーション不足がうつの原因となるほか、SNSもメンタル不調を引き起こす。SNSは使う人の精神状態によっては、他人への嫉妬や劣等感を招き、気分を落ち込ませることがあるため注意が必要だ。
欲望を抑える脳の機能が未発達な子どもや10代は、さらにスマホ依存に陥りやすい。スマホを手放せない子どもが増え、スマホが子どもの学習を妨げるという複数の調査結果もある。ここ10年で急増している10代のメンタル不調にも、デジタルデバイスとの関連性が指摘されている。スマホやパソコンに時間を費やすティーンエイジャーほど、幸せではないと感じているという。スマホに時間を奪われることによる睡眠不足や運動不足、SNSによる自信喪失などがその理由として考えられる。ある調査では、スマホがない生活に禁断症状を訴える学生も多かった。子どものスマホ利用は親が適切にケアすべきだ。
脳の特性を理解してスマホと上手に付き合う
ストレスフルなデジタル社会を生き抜くために、運動を勧める。運動には、報酬システムから来る衝動を抑える、集中力を高める、ストレスを軽減するといった効果がある。テスト前に6分の運動をすることで小学生の集中力や情報処理が上がったという調査もある。少しの運動でも脳にいい影響があるのだ。
生活を便利にするはずのスマホのせいで集中力を失い、うつにならないために、脳の特性を理解してスマホとうまく付き合うことが大切だ。スマホの利用時間を知る、目覚まし時計や腕時計を買うなどしてスマホ以外でできることはスマホを使わない、スマホを寝室に持ち込まない、スマホをオフにする時間を作るなどの対処法で、デジタル社会を賢く生き抜こう。
文=川辺美希