春夏秋冬を彩る樹木たち。個性豊かな生態から学ぶ、“人として”の生きる知恵

暮らし

公開日:2022/4/28

まっすぐだけが生き方じゃない 木に学ぶ60の知恵
まっすぐだけが生き方じゃない 木に学ぶ60の知恵』(リズ・マーヴィン:著、アニー・デービッドソン:絵、栗田佳代:翻訳、吉村謙一:監修/文響社)

 見ているだけで癒やされる樹木は、生命の源だ。日々、二酸化炭素を吸収して酸素を吐き出し、私たちの命を繋ぎ止めてくれている。そして、私たちに生き方を教えてくれる存在でもある。

 樹木は「環境に適応すること、生き延びること、繁栄することの達人」だと紹介するのは、書籍『まっすぐだけが生き方じゃない 木に学ぶ60の知恵』(リズ・マーヴィン:著、アニー・デービッドソン:絵、栗田佳代:翻訳、吉村謙一:監修/文響社)だ。本書を読むと、今から“ちょっと頑張ってみようかな”と活力も湧いてくる。

一瞬は「長く続かない」と訴えてくるソメイヨシノ

 日本の春を思わせるのは、お花見も連想される「ソメイヨシノ」だ。本書によると、江戸時代に「2種類のサクラの木をもとに植木屋さんが品種改良したもの」がルーツとされている。

 ソメイヨシノが花を咲かせるのは「毎年およそ2週間」だ。開花してからはあっという間、「一斉に咲き、一斉に散る」光景は、春の風物詩になっている。その生きざまから学べるのは「美しさも人生もはかないものだ」ということ。一瞬一瞬が「長くはつづくことのない、今だけのもの」と私たちに訴えかけてくる。

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ヤナギのたくましさに学ぶ「成長や成功」の道筋

 夏場になると、色濃い緑の葉が茂った枝を地面に垂らすヤナギ。たくましい生命力を持つ樹木としても、知られている。

 ヤナギは「崩れやすそうな土地や、汚れた水」にさらされる環境では、みずから生き残るすべを見つけようとする。例えば、「川岸の土がもろければ、根を張りめぐらして補強」して、「汚れのもととなる物質を栄養分に変えて取り込むことで、川の水まできれいに」するなど、周囲の環境に適応しようとする。

「成長や成功を望むなら、まずは身のまわりを整える」。その大切さを、ヤナギは教えてくれる。

「完璧」ではないと教えてくれるイチョウ

 黄色く色づいたイチョウ並木と、どこからともなくただよってくるギンナンの香りも、秋の訪れを感じさせてくれる。

 イチョウは、古くから地球上に生息していた。本書によると、化石の発見により「2億年以上も前から地球上に存在していた」と判明しており、中国には「樹齢1500年を超すもの」もあるという。

 生命力が強く、葉が鮮やかに色づく。しかし、欠点がないわけではない。秋を思わせるギンナンの香りは、人によっては「臭い」と評価されてしまう。イチョウから学べるのは「『完璧』なんて、幻想」という教え。「できて当然。なんでも完璧にこなさなきゃ」と焦る必要はないと、語りかけてくれる。

ヒイラギの“トゲ”にあった「ななめ上」の理由

 クリスマスも連想させるヒイラギは、冬を代表する樹木だ。葉っぱの周りに独特のトゲを持つのが特徴だが、じつは、樹齢を重ねるにつれて「トゲが少なくなる」という生態を持つ。

 進化の過程でヒイラギは、樹木の低い位置にある葉が若木の頃に捕食されないよう「通りすがりの動物にかじられやすい低い位置の葉には、高いところの葉よりもたくさんのトゲをつける」という手段を取った。高い位置にある葉はトゲが少ないが「枝の高さによって、異なるタイプの葉を付ける」生態を「ななめ上の答え」だと本書は解説する。

 この生態から学べるのは「正面からでは、突破できない。そんな問題に直面したときには、これまでの枠をいちど取り払ってみる」という考え方。意外な視点から、解決策が見付けられると教えてくれる。

 人間と同じで十人十色、樹木にもそれぞれの個性がある。言葉を発さずとも人生の教訓を教えてくれる樹木からは、学ぶべきことがたくさんあると本書は気づかせてくれる。

文=カネコシュウヘイ