変化する、コミュニケーションの形。「往復書簡」で紡がれた言葉から、何を感じますか?『ルビンの壺が割れた』/佐藤日向の#砂糖図書館㊷
更新日:2022/5/9
近年、会話はさまざまな形に変化していっている。電話、手紙、対面。それらに加えてSNSのダイレクトメッセージやアプリを利用してのコミュニケーションが主流になっている。しかし、会話というのはどんな形でも小さなきっかけひとつで齟齬がうまれ、ひとつの出来事に対して、お互いまったく違う印象を抱いている可能性もある。
今回紹介するのは、宿野かほるさんの『ルビンの壺が割れた』という作品だ。本作は水谷という男性が、28年前に結婚を約束していた女性のフェイスブックのアカウントを見つけて、ダイレクトメッセージを送るところから始まる。普通の小説とは違い、彼らのフェイスブック上でのやりとりで構成された往復書簡作品である。
読み始めから、水谷の文章の紡ぎ方に違和感や不快感を覚えつつも、「これは純愛ものなのかな」と思いながら読み進めていくと、ジワジワと不快感が確信に変わり、読了後には呆然としつつも、今までに感じたことのない感覚に陥った。水谷はフェイスブックの会話内で気にしていないし、今さら話さなくてもいいけど、なぜ結婚式場に当日来なかったのか、という内容を文中に必ず書き込んでいた。この内容は、見方や書き方によってはなかなか未練を捨てられない女性に捨てられた可哀想な男性のように見えるが、片方だけの情報で状況を断定するのがいかに危険か、ということが読み進めるほどに伝わってきた。
しかし、類は友を呼ぶという言葉のように、本作の登場人物たちは全員、言動が与える印象が怖く、常識が少し欠けているようにも見えた。これも私の感覚で感じとっただけであって、もしかしたら他の人にとっては普通のことなのかもしれない。だが、こういった感覚がうまれるのは、簡単に会話ができるツールが発達したからだと私は思う。
例えば、私は普段知人や家族にメッセージを送る時、絵文字や顔文字はあまり使わない。逆にSNSで呟く際は普段の私のままで投稿すると読み手に冷たい印象になったり、態度が悪く見えてしまうこともあるため、なるべくカラフルな絵文字を使うようにしている。インターネット上の会話では、相手の本当の感情は絵文字で見えなくなり、本当はどんな気持ちで文章を打ち込んでいるのか、推測できない側面もあるのだ。
私は言葉を扱う仕事をしているため、どのような状況であっても会話は必ず存在し、誤って伝わらないよう努力をしなければならない。時には誤解を生んでしまうこともあるが、本作のように文字だけで相手と意思疎通をするのは、とても恐ろしいと改めて感じた。まるで壺にヒビが入り、気づいた時には壺が割れるような感覚を是非体感してほしい。読了後、何を感じるか、読み手によってきっと違うだろう。
さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。5月14日~15日には、武蔵野芸術劇場にて、オリジナル現代落語シリーズ「麗和落語〜二〇二二夏の陣〜」第二陣に出演する。