『リセットする力 「自然と心が強くなる」考え方46』サッカー選手・酒井宏樹が困難な状況に立ち向かうための「心の切り替え方」

ビジネス

更新日:2022/5/9

ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした1冊、サッカー日本代表として長く活躍してきた酒井宏樹選手の『リセットする力 「自然と心が強くなる」考え方46』(酒井宏樹/KADOKAWA)をご紹介します。

こんな人にオススメ!

・困難な状況に直面していて、それを乗り越えたいと思っている人
・チームの仲間や周囲との信頼関係構築に悩んでいる人
・トップアスリートの思考や哲学を学びたい人

3つのポイント

要点1:「自信のなさ」や「メンタルの弱さ」から生まれるネガティブな思考は、考え方を切り替えることでポジティブに転換できる。

要点2:仲間との信頼関係を構築するには、さまざまな価値観があることを受け入れ、積極的に歩み寄る寛容さと前向きな姿勢が重要。

要点3:困難な状況に立ち向かうには、心を落ち着かせることが必要。そのためには「何が起きても大丈夫」と思えるための準備を入念に行うこと。

▼著者プロフィール
酒井宏樹(さかいひろき)
1990年生まれのサッカー選手(ディフェンダー)。Jリーグ・柏レイソルの下部組織からトップチームに加入。プロ3年目となる2011年にはJ1リーグ優勝を遂げ、自身もJリーグベストヤングプレーヤー賞を受賞する活躍を見せた。翌2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96に移籍すると、ヨーロッパの舞台でもその能力を発揮。フランス・リーグ・アンのオリンピック・マルセイユを経て現在はJリーグ・浦和レッズに所属している。2012年以降日本代表にも選出され、2014年のブラジルワールドカップのメンバー入り。2018年のロシアワールドカップではチームの主力としてグループリーグ全4試合にフル出場を果たした。2022年カタールワールドカップに向けたアジア予選でも引き続き不動の右サイドバックとしてチームを支え、ワールドカップ本戦出場権獲得に貢献した。プライベートでは2014年に結婚し、翌年第一子が誕生している。

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プレッシャーを乗り越える心の在り方

 プレッシャーに打ち勝つ強いメンタルを持つタイプではない酒井選手は、日本代表としてプレーする際にかかる重圧も「受け止める」のではなく「受け流す」ことを意識している。あえて自分を過小評価して「自分みたいな選手が国を背負っているなんておこがましい」と自らに言い聞かせている。そうして自分に課されるハードルを下げることで酒井選手は少しずつプレッシャーから解放されるようになっていった。「自分はすごい選手ではない」と過小評価することで、試合に向かうための準備も周到に行うようになったという。こうした「プレッシャーを受け流す技術」は、誰もが後天的に身につけられるものだ。

 日本代表としてワールドカップ予選を戦っていたときも、非常にプレッシャーのかかる試合が続く中で、酒井選手はあえて「これからの試合ではうまくいかないことのほうが多くなる」と考えるようにしたという。うまくいかない前提があれば、そのぶんチームメイトとは入念にコミュニケーションを取るようになるし、限られた時間の中で最善の準備をするようになる。一見ネガティブにも映るこの考え方は、じつは最悪のケースを回避してポジティブな結果を出すためのテクニックなのだ。

苦しい状況でこそ人間の本質が問われる

 なかなか結果が出ない苦しい状況では、人間は本質を問われる。そういうときにこそ仲間とより多くのコミュニケーションを取る必要があるし、その中で本当に信頼できる仲間を見つけることもできる。誰も苦しい経験などしたくはないが、そこから目を背け、逃げてしまう人は次に同じ状況になったときにもまた同じように目を背け逃げ出してしまう。苦しい経験すらも貴重なことだと捉えて逃げずに突き進むことで新しい道が見えてくる。楽な選択肢ばかりを選んでいては成長はない。苦しいときにどんな振る舞いができるか。人は必ずそこを見ているし、そこで逃げないことが、自分の道を切り開いてくれるはずだ。

 そのために必要なことのひとつが、「不要なプライドを捨てる」ということ。サッカーの世界ではよく「自分たちのサッカー」という言葉を使うが、サッカーは自分たちのチームと相手、22人で行うスポーツ。相手によっては「自分たちのサッカー」が通用しないこともある。そのときには「自分たちのサッカー」にこだわるのではなく、勝つためにどうすればいいのかを考えなければならない。ときにはリアリストに徹する覚悟も必要なのだ。プライドを捨て、なりふり構わず行動ができるようになったときほど、成長するチャンスは訪れる。

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仲間も自分も決して否定しない

 サッカーは11人で戦う。だから、1人がミスしても10人がカバーできれば失点を防ぐことができる。カバーができず失点してしまった場合は、ミスした1人だけではなく、カバーできなかった10人の責任でもあるのだ。ミスは絶対に起きるという前提で考える必要がある。だから、ミスをした人を否定することは絶対にしない。自分がミスをしてしまったときも、自分を否定しない。心を切り替え、ミスの原因を把握して次に活かせるかどうか。ミスを恐れすぎず、トライし続けることが重要だ。他人にも自分にも寛容になる。そうすることで成功したときの喜びも心から分かち合えるようになる。そうした雰囲気が作れれば、チームとして不安を遠ざけ、自信を深めることができるようになる。

 海外でプレーする上では、さまざまな国籍の選手とコミュニケーションを取る必要がある。それぞれ生まれた環境も歩んできた道のりも違うのだから、価値観が違うのは当たり前。その前提に立ってコミュニケーションを始める意識が大切だ。自分の知らない考え方を持っている人を「合わない」と決めつけるのではなく、「面白そうだ」と考え方を変えることで、前向きに歩み寄れるようになり、コミュニケーションが楽しくなる。自分の価値観が正しいと相手に押し付けてしまっては、信頼や連携は生まれない。

困難な状況に「怯む」のではなく落ち着いて「楽しむ」

 世界の舞台で名だたる強豪や名選手とも対戦してきた酒井選手。そうした強い相手に対しても、決して怯むことなく、むしろ対戦を楽しむことを意識しているという。そのためには心を落ち着かせるための精神的な準備が欠かせない。準備とは「起こり得る未来を想定し、その事態に対応できる引き出しをあらかじめ用意しておくこと」。その準備をしっかり習慣化し、常に多くの引き出しを持っておくことが「何が起きても大丈夫」という自信につながり、その自信が落ち着きを生み出す。

 サッカーは不確定要素の多いスポーツであり、優秀な選手が揃っていても100%勝てる試合というものはない。言い換えれば「勝つための正解」というものは存在しない。それがサッカーの難しさであり面白さだ。だからこそ、勝利の確率を上げていく作業が重要になる。試合に負けたときはもちろん、勝っても改善すべき点は必ず出てくるので、その課題と向き合い次に向けてチャレンジし続けることが大事だ。

「慌てない」「冷静」「リラックス」

 自分の苦手とする状況と対峙したときでも自分の能力を最大限発揮するには「慌てない」こと、「冷静」でいること、そして常に「リラックスしている」ことという3ステップを意識する。それができると心に余裕が生まれ、状況を的確に読めるようになる。マイペースでいることを心がける。必要以上に他人のペースに合わせてしまうと、自分のタイミングでやりたいことができず、ストレスが溜まることになってしまう。その極意は、「自分は自分。人は人」、「他人の目を気にしすぎない」という2つ。それを実現させるために、酒井選手は、相手の反応を気にすることなく「ちょっと図々しいかな」と思うぐらいで応対する、自然体で自己主張してみる、さらに1人でゆっくりする時間を作る、ということを実践している。

文=小川智宏

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