羽生善治「地図を持たずにはじめての待ち合わせ場所に行く」/天才たちの習慣100
公開日:2022/5/13
世に名を馳せた天才たちによる、「毎日実践していた習慣」や「日々思い描いていた人生哲学」、「経験から生まれたマイルール」などなど…。その「効果」「効能」を、『すぐに真似できる 天才たちの習慣100』(教育総研/KADOKAWA)からご紹介します!
「羅針盤」の効かない状況に自分を追い込む
2017年、史上初となる永世七冠(叡王(えいおう)以外の7つ〈名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖、竜王〉について、一定回数以上を獲得すると与えられる永世称号の資格を保持していること)を達成した将棋棋士・羽生善治氏。小学1年生より将棋をはじめ、85年、加藤一二三氏、谷川浩司氏に次いで、将棋界で3番目の中学生プロ棋士となった天才棋士です。2018年には、将棋棋士としてはじめて国民栄誉賞を受賞しています。
「運命は勇者に微笑む」
羽生氏がモットーにしている言葉です。
将棋界にもIT(情報技術)の発達の波が押し寄せ、新しい手(戦法)が編み出され、それが流行ったかと思うと、瞬く間に研究し尽くされてしまい、使うことができなくなるという現象がここ15年ほど起こっています。
現在では棋譜のデータベースが整備されていますし、対戦はインターネットやテレビで頻繁に中継されますので、戦法を情報としてストックしておくことが以前と比べて容易になりました。
しかし、そのような状況に対しても、羽生氏はまったく悲観的ではありません。羽生氏は雑誌のインタビューでこのように述べています。
「大量の情報に触れる機会が多いということは、自分の頭で考え、課題を解決していく時間が少なくなっていくことでもあるので、そこが少し気になります」(「PRESIDENT」(2014年9月1日号))
そこで羽生氏が大切にしているのが「野生の勘」です。
将棋では、過去に習い覚えたことがまったく役に立たない場面がたびたび起こる。そんな状態を羽生氏は「羅針盤が効かない状態」と言い換えています。そうなると、勘に頼るしかなくなります。
では、彼はどのようにして「野生の勘」を身に付ける練習をしているのかというと、「羅針盤の効かない状況」に自分の身をわざと置くのだそうです。
たとえば羽生氏は、はじめて訪れる待ち合わせ場所に行く時には、地図を持たずに出掛けることが多いといいます。
「住所だけを頼りに、頑張って考えたり、人に聞いたりしてこっちかな、あの道だなと勘を働かせながら歩くのです。昔はそうするのが必然でしたが、今はそういう機会は意識的につくらないとなかなかありませんね」(「PRESIDENT」(2014年9月1日号))
スマホの普及率が年々上がっているこの時代において、「地図を持たないで目的地へ行く」ことの難しさを肌身に感じている人は、もしかしたら少ないのではないでしょうか?
スマホがあれば現在地が分かるのはもちろん、目的地への道順も指示してくれますので、その通りに歩けば目的地まで迷うことはありません。しかし、それでは「野生の勘」は発揮されないどころか、衰える一方です。
急に電車やバスが止まって、会社から家まで歩いて帰らなければならない状況に陥った時、苦労した経験のある方は多いのではないでしょうか?
そんな時に役立つのは、それまで地図を持たずに歩いていた経験なのです。
皆さんも、週末などに地図を持たずに歩いてみてはどうでしょうか。いままで働かずにいた五感が動き出すかもしれません。
「忘れる力」を養い、次へ進む
羽生善治氏が習慣にしているものがもう1つあります。それは、「忘れる」こと。対戦で勝っても負けても、羽生氏はすぐに忘れることにしているそうです。
なぜなら、「忘れれば、次に行ける」から。「忘れられないから、変わることができない」とも羽生氏はいっています。
このことを彼は「忘れる力」とも表現しています。
棋士だから、さぞかし記憶力がよいのだろうとも思いますが、すべてを記憶していたら脳の力は弱まってしまいます。これは、パソコンのハードディスクが満杯に近づくと動作のパフォーマンスが落ちるのと似ています。だから、彼は「すぐに忘れる」のだそうです。(「羽生善治と“AI世代”〜絶対王者に挑んだ若手棋士たち〜」(NHK。初回放送は2018年10月20日))
【プラスα】普段やらないことをやってみる
羽生氏がいうような「野生の勘」を養うためには、「普段やらないことをやってみる」習慣が役に立ちます。たとえば、「いつも降りる1つ手前の駅で降りて家まで帰る」「部署の違う人とランチする」などが挙げられます。このようにすることによって“新しいことにチャレンジする”という感覚が習慣付けられ、脳の活性化にも役立つでしょう。