勝利とかれんが帰ってきた! 最終巻の裏側と、ふたりのその後を描いた「おいしいコーヒーのいれ方」アナザーストーリーに胸が熱くなる

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/20

てのひらの未来 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season:アナザーストーリー
てのひらの未来 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season:アナザーストーリー』(村山由佳/集英社文庫)

 勝利とかれんに、また会える――!

 このニュースだけでも「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ(村山由佳/集英社文庫)、通称「おいコー」ファンは大いに沸き立ったことだろう。なにしろ「おいコー」と言えば、主人公・和泉勝利とヒロイン・花村かれんの恋を26年(!!)かけて描いてきた大ヒットシリーズ。彼らの出会いから恋の成就、その後の試練まで、ふたりの人生に伴走するような気持ちで全19冊の物語を追ってきた読者も多いはずだ。2020年6月に最終巻『ありふれた祈り』で満身創痍になりながらも涙の大団円を迎えたが、その後「おいコー」ロスに陥ったファンが続出。そんな中、前作からわずか2年弱で『てのひらの未来 おいしいコーヒーのいれ方 Second Season:アナザーストーリー』(集英社文庫)が刊行されるのだから、もう喜ぶしかないではないか。村山由佳先生、ありがとうございます……!

 アナザーストーリーで語られるのは、最終巻『ありふれた祈り』の裏側。当時の勝利は、ある出来事をきっかけに逃げるようにオーストラリアへ渡っていた。そんな彼が、3日間だけ日本に一時帰国する。本編では勝利とかれんの再会が大きな目玉だったが、今回のアナザーストーリーではかれんの弟・花村丈、アパートの大家の妻・森下裕恵、かつて勝利に思いを寄せていた星野りつ子、大学の原田先輩、その妹の佐藤若菜など、勝利を取り巻く人々の視点で彼らの胸中が明かされていく。さらに、かれんに恋心を抱いていた中沢先生、丈の恋人・京子、オーストラリアの人気歌手・アレックスの視点であの“事件”の描かれなかった顛末が語られる。

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 そこから浮かび上がるのは、勝利とかれんがいかに周囲の人々に支えられてきたか。そして、もがき苦しみ、ボロボロになった勝利を思い、彼らがいかに胸を痛めていたか。「おいコー」は勝利とかれんの物語であると同時に、ふたりを取り巻く人々の物語なのだとあらためて痛感させられる。もう全員がいとおしい!

 さらに、登場人物たちの間で新たな恋の予感が芽生えはじめているのも見逃せない。中でも、ネアンデルタール原田先輩のスーパー鈍感ぶりときたら……! 恋愛偏差値2ぐらいしかない原田先輩の言動がおかしいやら可愛いやらで、ニヤニヤが止まらなくなってしまう。

 そしてラストを飾るのは、勝利視点で綴られる“その後”の物語。ある理由から、またもオーストラリアへ向かう勝利だが、今度の旅は苦しみ抜いたあの頃を知る読者からすると、「よかったねぇ……」と親戚のおばちゃんのように目を潤ませてしまうはずだ。本当に本当にいろいろあった勝利とかれんだが、今は未来を見据え、手を携えて生きている。そんなふたりが、頼もしくも誇らしい。

 シリーズは完結したものの、新たな幸せを味わわせてくれた「おいコー」アナザーストーリー。村山先生、これからも時々でいいので彼らに会える場を設けていただけないでしょうか。あと、原田先輩とか原田先輩とか、それから原田先輩のエピソードなんて書いていただけないでしょうか。そう遠くない未来、また彼らに会える日を待ってます!

文=野本由起