「すっぱぬく」の語源は忍者の動作だった…! 身近な言葉の由来が分かる『語源の謎』

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/13

語源の謎 なぜ、この漢字が使われる?
語源の謎 なぜ、この漢字が使われる?』(日本語俱楽部:編/河出書房新社)

 どうして、「毛嫌い」という言葉には頭に「毛」がつくのか。海の魚なのに、フグはなぜ「河豚」と書くのだろう…。普段なにげなく使っている日本語をじっくり見てみると、そんな疑問が湧いてくることがある。

 そのクエスチョンを解決してくれるのが、『語源の謎 なぜ、この漢字が使われる?』(日本語俱楽部:編/河出書房新社)。本書は、一見関係がなさそうな漢字が使われているように思える熟語や慣用句を多数ピックアップし、語源を解説。身近な言葉の裏にある驚きのルーツが学べるという、面白くて役立つ雑学本となっている。

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「すっぱぬく」や「爪弾き」の語源は人の動作

 スキャンダルを暴いた時に使われる「すっぱぬく(素っ破抜く)」という言葉は、見聞きすることが多い。しかし、その由来が江戸時代まで遡ることは、あまり知られていないのではないだろうか。

 実は「素っ破」とは忍者のことで、「すっぱぬく」の当初の意味は「刀を抜く」ことだったのだそう。忍者は危険が迫ると、突然、刀を抜いて不意打ちするため、かつては「いきなり刃物を出す」という意味で用いられていたのだとか。

 だが、刃物を振るうと人が驚くことから、やがて「素っ破抜く」は人の不意を突くという意味に変化。さらに、忍者は敵の情報を盗み取るため、「人の秘密を暴きだす」という現在の意になっていったのだそう。

 こんな風に、人の動作が語源となった言葉は他にもある。例えば、「爪弾き」も、そのひとつ。

 仲間外れの意を持つ、「爪弾き」という言葉、実は仏教の世界にある、指を弾いて不浄を払う「弾指(だんし)」という風習に関係がある。著者いわく、もとはインドの風習だったとする説もあるそうだが、人々はトイレの出入りや魔除け、許可、警告の意味で弾指を用いていたという。

 しかし、平安時代になると、貴族にも弾指が伝わり、彼らは厄除けという意味から嫌いな人物を忌避する時にも使い始めたのだとか。その風習は貴族の衰退と共に廃れていったが、「爪弾き」という言葉は「仲間外れ」の意として残されたようだ。

 こんな風に言葉の奥にある歴史を知ると、日本語はより味わい深く見えてくる。

「元の木阿弥」の“木阿弥”って何?

 物事が元の状態に戻る「元の木阿弥」という慣用句は馴染みのある言葉ではあるが、よく考えてみると、「木阿弥」の正体が気になる。

 実は、この「木阿弥」とは戦国時代に実在したとされる影武者の名前だったという説があるという。事の始まりは、大和国(現在の奈良県)の大名・筒井順昭が若くして重病を患ったこと。

 跡継ぎの藤勝(のちの順慶)は、まだ3歳で大名の仕事ができるわけもなく、家臣団が新体制を作るにも時間がかかるため、藤勝が成長するまで影武者を立てることに。

 そこで選ばれたのが、順昭と似ていた僧侶の木阿弥。木阿弥は順昭が病死すると、要請を受け入れて影武者に徹し、藤勝の成人を機に、元の僧侶に戻されたのだとか。こうした経緯から、「元の木阿弥」は現在のような意味を持つようになったのだ。

 なお、他には、離縁までして僧になった木阿弥が、途中で修行をやめて妻と復縁したことを由来とする説もあるのだとか。

 いずれにせよ、自分の名前が後世で使われ続ける慣用句になっているという事実を、もし天にいる木阿弥が知ったら、どんな気持ちになるのだろうと少し頬が緩んでしまった。

 本書では豆腐や椅子、鳥居など身近な物の語源や、「反りが合わない」「鯖を読む」といった日常生活で使うことも多い言葉のルーツも徹底解説。個人的には「酸素」の裏にある、まさかの由来にクスっとさせられたので、ぜひ、そちらもチェックしてみてほしい。

 目からウロコの語源ワールドに触れれば、日本語を誤用することも減るはずだ。

文=古川諭香