余裕がない、いつも何かに追われている……いっぱいいっぱいから抜け出して、自分を取り戻す方法

暮らし

公開日:2022/5/16

本当に大切なことに集中するための 頭の“よはく”のつくり方
本当に大切なことに集中するための 頭の“よはく”のつくり方』(鈴木進介/日本実業出版社)

 常にやるべきことに追われ、移動中もスマホを開いてメールやSNSをチェック。1日が終わっても、ああ、今日もタスクが終わらなかった……とため息。そんな余裕がない日々を過ごしている人は筆者だけではないはずだ。まわりを見ても、電車に駆け込む人、スマホからひと時も目を離さない人など、何かに急かされているような人ばかりで息苦しい。そんな時代に生きる私たちを救う力になるかもしれない書籍が、本書『本当に大切なことに集中するための 頭の“よはく”のつくり方』(鈴木進介/日本実業出版社)だ。

 著者は、「思考の整理術」で人や企業の思考をシンプルにして、彼らが持つ可能性を最大限に引き出すことを目指すコンサルタントの鈴木進介氏。冒頭から著者は、いっぱいいっぱいな状態で生きることのリスクを伝える。スマホからあふれる情報に関心を奪われ、「もっとがんばらなければ」という強迫観念にとらわれることで、人生にとって大切なことを見失うこと。そして、時間や心の「よはく」こそが、自分らしく生きることや、真の能力を発揮して活躍するための特効薬だと伝えている。

 著者はまず、「心のよはく」を作るために必要な考え方を「5つの原則」で解説。自分にとって本当に大切なことを知ること、不要なものを捨てること、仕事や生活の一部を仕組み化=自動化するといった原則によって、「心のよはく」を生む土台を作れるという。

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 その上で、「心のよはく」の作り方を、「頭の使い方」「時間との付き合い方」「人間関係」という3つのパートで具体的に伝える。頑張りすぎない姿勢や、完璧主義をやめる、直感に従う日を作るなど、思考を整えるこれらのメソッドは、実践すれば頭の中がスッキリしそうだ。ただ、考え方はそう簡単に変えられないと思う人もいるかもしれない。そんな人にとっては、行動を変えることで余裕を作る「時間との付き合い方」のほうが取り入れやすいだろう。何にどれくらい時間を要しているか書き出して行動を改める「時間の“レコーディング・ダイエット”」や、緊急ではないが重要な仕事から先にスケジュール帳を埋めるといった方法は、仕事効率化のメソッドとしても即効性が期待できる。

 人に対するストレスや嫉妬に心のスペースを奪われている人は、人間関係のストレスを減らすメソッドがおすすめだ。「他人はどう思うか」と考えるときにすべて他人を自分に置き換えれば、他人を意識しすぎな頭の中をスッキリ整理できて、自分の人生にも真剣に向き合える。「女性はこうだ」とか「若い世代はこうだ」といったバイアスから解放される、信じがたい行動をとった人がいても、その人の問題ではなく「なぜそれが起きたか」に目を向けるなどの習慣によって、心を軽くできると著者は言う。

 本書の魅力は、人生を前進させる具体策というより、その前段階の「よはく」の作り方にフォーカスしていることだ。人生を切り開きたいと思うとビジネス本や自己啓発本を読み漁ってヒントを得ようとしがちだが、インプットばかりで実践にたどり着かないという人もいるのではないだろうか。そんな「インプット疲れ」に陥って混乱している人は、「よはくを作る」というシンプルな目的に集中することで、新しい景色が見えるかもしれない。

「よはく」を生むための数々のメソッドを知るうちに、いかに自分が限りある心を無駄なものに使っていたか気付く。「よはく」のために何かを捨てたり、仕事を断ったりすることが怖いと感じる人もいるかもしれない。だが本書を読むと、追い立てられるように必死に働いた先に自分に何が残るのか、そんな不安に襲われる。同時に、「捨てる」「やめる」という選択にポジティブに向き合えて、「よはく」がこれから自分に何を与えてくれるのかワクワクできる、そんな1冊だ。

文=川辺美希