吉岡里帆、中村倫也、柄本佑…豪華キャスティングで実写化された映画『ハケンアニメ!』の見どころは?
更新日:2022/5/19
〈好きを、つらぬけ。〉とは映画『ハケンアニメ!』のキャッチコピー。美しく響くその言葉を、実践するのは生易しいことじゃない。自分の想いを、こだわりを、貫こうとすればするほど、周囲とのズレが生じて反発をくらい、孤立してしまうこともある。それでも悔いを残さないため、納得のできる仕事を完遂するため、睡眠時間を削り、身体を酷使し、魂を削る覚悟で〈好き〉を貫こうとする人々の生き様を、アニメ業界を舞台に描いた同作。辻村深月氏の原作小説同様、実写映画もまた、アツい。
そのクールで頂点に立ったアニメに贈られる覇権(ハケン)の称号。誰もがつかみとりたいその栄誉にもっとも近いのが、『運命戦線リデルライト』で8年ぶりに復帰する天才監督・王子千晴だ。王子の作品に出会ったのをきっかけに、地方公務員を辞め、アニメ業界に足を踏み入れた斎藤瞳は、代打の新人監督と軽んじられながらも『サウンドバック 奏の石』で王子に打ち勝ち、覇権をとるのだと意気込んでいた。けれど担当プロデューサーは無理解で冷徹。主演声優は客寄せアイドルで実力が足りず、注意すれば泣き出す始末。味方の顔をして慰めながら、制作スタッフは誰より瞳を軽んじていたりもする……。
何度もリピート再生したい中村倫也の破壊力
人生のすべてをかけて挑んでいるのに、誰もわかってくれない! と追い詰められていく瞳。かたくなに殻に閉じこもっている彼女の不器用さを、セリフ以上に表情で浮き上がらせていく吉岡里帆がとにかくすばらしい。場面ごとに繊細に変わるそのたたずまいに「吉岡さんって、こんな表情するんだ……」と感嘆し、食い入るように観てしまった。
そんな瞳と対照的に、飄々と己の道を邁進しているようで、裏で“天才”のプレッシャーにもがき苦しんでいる王子を演じられるのは、中村倫也を除いていないだろう。どこを切りとってもカッコいい天才然とした表の顔はもちろんのこと、プロデューサーの有科香屋子に、とある嘘を見破られたときに見せた癇癪のキュートさといったら! DVDで何度もリピート再生したいくらいの破壊力である。
原作ファンも納得の豪華なキャスティング
作品を守るために胸を張って戦い続ける、尾野真千子演じる香屋子。作品を届けるため、誰に何と言われようと、瞳に恨まれようとも、動じず、淡々と、成すべきことを成し続ける柄本佑演じる行成理。ペンを握ったとたん、人が変わったように静かに作品世界に沈み込み、神作画を仕上げる小野花梨演じる並澤和奈。和奈が毒づいた“リア充”を“リアルしか充実していない中身のない人間”と受け取り反省する実直さで、作品を広めようと努める観光課職員・宗森周平を工藤阿須加が演じる。
作中アニメも見逃せない!
原作ファンからしてみたら、こんなに最高のキャスティングある!? と歓喜するしかない役者がそろっているのにくわえて、Production I.G.をはじめとする最前線で活躍するアニメーターたちが、ガチの作中アニメを制作しているのも見どころの一つ。さらに、瞳と対立するアイドル声優を演じた高野麻里佳をはじめ、作中アニメに声を吹き込むのは、梶裕貴、潘めぐみ、速水奨、花澤香菜、堀江由衣といったそうそうたる顔ぶれ……。
いったいどこまで豪華なんだ!? と驚くよりほかないが、一片の悔いもないよう仕事をまっとうする、がテーマの本作を、誰にも文句を言わせない仕上がりで観客に届けるのだという、制作陣の意地も見える気がする。
仕事で自分の“好き”を貫くことが難しいのは、自分と同じか、それ以上の強度で、誰かの貫きたい“好き”も存在しているということだ。いい仕事をするためには、全員が自分の持ち場で己の矜持を発揮できるよう、手を取り合うことが必要となる。決して誰かの意見に流されることなく、独りよがりになることもなく、互いを尊重しあった先に、傑作は生まれる。物語を超えてそのことを証明した映画『ハケンアニメ!』をぜひ劇場で堪能してほしい。エンドロールのその先も、見逃さないようにご注意!
文=立花もも
映画『ハケンアニメ!』
原作:辻村深月(『ハケンアニメ!』マガジンハウス刊)
監督:吉野耕平
出演:吉岡里帆、中村倫也 、柄本 佑、尾野真千子
配給:東映
5月20日(金)公開
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で監督デビューが決定した斎藤瞳。夢は日本中に最高のアニメを届けること。しかしプロデューサーの行城理はビジネス最優先で、スタッフも声優も一癖ある人ばかり。制作現場は一向にまとまらない。ライバルは、瞳も憧れる天才・王子千晴監督の復帰作『運命戦線リデルライト』。“ハケン=覇権”を争う熱い戦いが繰り広げられる。
原作:『ハケンアニメ!』(辻村深月/マガジンハウス)