いつもの食事が10倍楽しくなる食べ方を食のプロが伝授!『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』
公開日:2022/5/26
ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした1冊、『dancyu食いしん坊編集長の極上ひとりメシ』(植野広生/ポプラ社)をご紹介します。
この本を読んで欲しいのはこんな人!
・高級料理もB級グルメも。とにかく美味しくいただきたい人
・いい店を探したい人
・『dancyu』をはじめとした、食の情報が大好きな人
3つのポイント
要点1
普段目の前にする料理たちは、やり方次第で二度美味しく食べることができる。それを植野流「おいしいの法則」と呼ぶ。
要点2
隣の人より美味しく食べるには「好かれる客になる」。そのために自分にとっての「一生通いたい店」「見守り続けたい店」を探すことが最適だ。
要点3
皿の中だけではなく、食事を幅広く楽しむためには、本能的感覚でひとりメシに臨む。そのような食いしん坊たちが集い、楽しく食事をすることで、豊かな食いしん坊たちが育っていく。
▼著者プロフィール
植野広生(うえの こうせい)1962年、栃木県出身。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始め、鰻屋や喫茶店など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後は新聞記者や、経済誌の編集担当などを経て、2001年「dancyu」を発行するプレジデント社に入社、2017年より編集長に就任。趣味は料理と音楽。BS日テレ「町ごはん」に和牛とともにレギュラー出演するほか、テレビ・ラジオ等メディアにたびたび登場。
本書は、ウェブアスタ連載『となりのひとより美味しく食べたい』(2018~2019年)のテキストに、大幅な加筆修正を行い、書き下ろしを加えてまとめたものである。
実践!極上ひとりメシ 植野流 美味しいの法則
雑誌『dancyu』の編集長である、植野広生氏。食いしん坊として名高く、独自の食べ方や、表現法、食いしん坊としての美学や論があるが、まずは冒頭で「ひとりメシ」で編み出した、数々の食べ方について紹介する。いったいなぜか、それは食べ方ひとつで食事の楽しさや味わいが変わるから。そのことを読者にも実感してほしいと植野氏は説く。
たとえば、植野氏の代名詞と呼ばれる「ナポリタンの食べ方」。粉チーズやタバスコをかけずにそのままプレーンな味わいで食べる「ストレート」と呼ぶ食べ方がある。次に、フォークに粉チーズをふり、そのままスパゲッティを巻いて食べる。こうすると味わいにグラデーションができて、より複雑性を感じられる。これを「インサイド」と呼ぶ。同様に、タバスコでも同じ食べ方が応用でき、さらに粉チーズとタバスコをフォークにふる「ダブルインサイド」もある。
次に、スパゲッティをフォークで巻いてから、粉チーズやタバスコをふる。これを「アウトサイド」と呼び、応用として「ダブルアウトサイド」もある。さらに、「アウトサイド」には、粉チーズなどを上からふる「アップ」と、皿に粉チーズなどをふっておいてフォークで巻いたスパゲッティの下面につける「ダウン」という方法もある。これだけで、7種類ものバリエーションがあり、一口ずつ異なる味わいを楽しむことができる。
このように、料理には適した楽しみ方というものがあり、植野氏は牛丼、かき揚げそば、かつカレーや鰻重、餃子やアジフライなどの独自の食べ方についても説いている。これを読んだあなたは、面倒くさいと思っただろうか? でも、一度試してほしい。たとえばナポリタンが一皿800円だとしたら、いきなり粉チーズやタバスコをふってひとつの食べ方で試していたとすれば、800円の価値しかないけれど、7種類のバリエーションをもって味わえば、860円くらいの価値を楽しめる。
隣の人より美味しく食べたい 植野流「食べ方5大ルール」と好かれる客になるコツ
どうせ食べるならば「常に隣の人より美味しく食べたい」。店で食べていて同じ料理を注文したのに、隣の常連客に自分より美味しそうなものが提供されていた、などという経験はあるか? そう、店は客によって出すものを変える。
しかし、実は常連にならなくても、場合によっては初めて行った店でも優遇してもらえる可能性がある。予約から店での注文の仕方、料理人との会話の仕方など、「食いしん坊力」の発揮の仕方は多岐にわたるが、こうしたことで隣の人よりおいしい思いができる。
では、そのためにはどうしたらいいのか? 答えは「店に好かれる」ことである。わかりやすいのは「常連」になること。あるいは、毎回同じメニューを食べ続けること。さらに、行った店で素直に美味しいという思いを上手に伝えること。これが真に「店に好かれる客」なのだ。
また、より美味しく食べるためには、味わい方のルールがある。
1.舌を意識する
2.犬歯を喜ばせる
3.間接風味づけ
4.温度差をつくる
5.フィニッシュを決めておく
このように、口内での食べ方のこだわりを意識するだけで、より美味しく食べることができるが、こうした研究はひとりメシの時間が最適であることは申し添えたい。
食べたいものを食べたいだけ 植野流「ひとりメシ」の楽しみ方
前述した美味研究のためのひとりメシは、誰にも邪魔されることなく、自由に飲み食いできることが楽しみだ。しかし、自分にとっての「いい店」を探すのは意外と難しい。とはいえ、星や点数が高いからといって、「美味しい」「美味しいだろう」と判断するのは少し残念だ。
植野氏は「食いしん坊ってなんですか?」と聞かれると「300円の立ち食い蕎麦も、3万円のフレンチも、同じように楽しめる人」と答える。つまり、食いしん坊の本当の楽しみは、星の数や点数などでは表せないところにあるといえる。こうした指標にとらわれず、自分にとって「一生通いたい店」と「成長を見守り続けたい店」が見つかると、それが「自分にとってのいい店」となるのだろう。
いい店探しをするために、行った店の数が多い方がすごいと思っているのだとしたら、その表現にはとても違和感を覚える。というのも、食べ歩いた軒数より、どれだけその店を深く味わったかの方が重要だと思うからだ。植野氏の食生活の基本は、「食べたいときに、食べたいものを、食べたいだけ」である。そのためにひとりメシを楽しみ、新しい楽しみを発見し、発見したら深耕をするのだ。
「旨い」は皿の外にある 食いしん坊仲間との至福のとき
食いしん坊というのは、皿の中だけではなく、食事を幅広く楽しむことにも喜びを見出す。そのためには、ひとりメシだけではなく、いろいろな人と食事に行く。しかし、その同伴者は食の専門家以外だという。なぜなら食の専門家と食事をすると、ネガティブな情報や業界情報ばかりになり、これを聞きながら食べると楽しめないからだ。
年齢も職業もバラバラだけど、時間を共にして楽しい人たちに共通しているのは、「美味しいものとワインやダジャレが好き」、つまり会話が楽しい食いしん坊であることだ。会話で盛り上がりながら、料理が出てくるとすぐ食べてその美味しさや食材などについて盛り上がったり、店の人に聞いたりする。これが最高の食事だ。
美味しさについて語るときには、自由に表現をすることが大切だという。昨今はニュースや情報番組の食コーナーで「あま~い!」「やわらか~い!」などを連発する表現をするが、もっと味わいには豊かな表現方法がある。比喩表現や擬人的な表現で会話をしても、優秀なシェフやソムリエは応えてくれる。雑誌やネットなどで記される「キーワード」にこだわらない、自分の感覚が大切だ。
きちんと「自分の感覚」を用いて、ひとりメシを楽しむ人たちが集まると、食事会や宴会は楽しくなる。結局は、自分が楽しめるスタイルを持っているかどうか。それが「食いしん坊」になるために大切なことである。
文=永見薫