【累計部数55万部突破】死神が「ゴールデンレトリバー」&「黒猫」の姿で降臨?! 人の生と死に向き合う感動ミステリーシリーズ最新刊

文芸・カルチャー

公開日:2022/5/27

死神と天使の円舞曲
死神と天使の円舞曲』(知念実希人/光文社)

 死が目前に迫った時、自分の人生に何の悔いもないという人は一体どれほどいるだろうか。どんな人生にも未練や後悔はあるはず。もし、死が避けられないのだとしたら、せめて、そんな思いが救われてほしい。報われない思いを抱えたままこの世を去ることほど、悲しいことはないように思われる。

 累計部数55万部突破、知念実希人氏の「死神」シリーズで描かれるのは、そんな人々の魂を救う死神たちの姿だ。「死神」というと、おどろおどろしい冷酷な存在をイメージするだろうが、このシリーズで描かれる死神たちは優しく人の生と死に寄り添う。おまけに、彼らは愛くるしい動物の姿でこの世界に降臨するのだ。光文社文庫の、第1弾『優しい死神の飼い方』ではゴールデンレトリバーの姿のレオが、第2弾『黒猫の小夜曲(セレナーデ)』では黒猫の姿のクロが大活躍。そして待望の、7年ぶりの第3弾となる最新刊『死神と天使の円舞曲(ワルツ)』(知念実希人/光文社)では、レオとクロが協力して人の未練と向き合うことになる。

 舞台は、人魂が出る噂が飛び交い、不審火事件が続く街。人魂が出るという噂の森を散策していた黒猫の姿の死神・クロは、首吊り自殺を目論む男・平間大河を見つけ出した。彼の魂からは強い未練が感じられ、このまま死なれては成仏できずに「地縛霊」となってしまう。平間の自殺を食い止めたクロは、彼の亡き婚約者・柏木美穂に対する思いを知り、そこに隠された真実に気づく。一方で、ゴールデンレトリバーの姿の死神・レオは、美穂の未練と向き合っていた。レオとクロは力を合わせ、平間と美穂をめぐる問題を解決することに。だが、彼らの問題は、やがて街全体をまきこむ一大事件へと発展していき……。

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 この物語は、死神が活躍するファンタジーであると同時に、ミステリーでもある。現役医師でもある知念実希人氏らしい医学知識に基づいた謎がちりばめられ、そこにさらにファンタジー要素が絡んで、不思議な現実感が醸し出されていくのだ。一体、平間と美穂の間に何があったのか。彼らがすれ違っていた原因はどこにあったのか。彼らの思いがどうにか報われてほしいと願わずにはいられない。

 そんな彼らの思いに寄り添うレオとクロは、死神だとしても、あまりにも可愛い。彼らは死神としての特殊な力を持ちながらも、動物としての本能には抗いきれない。好物に喜んで尻尾を大きく振るレオの姿や、お風呂を拷問だと嫌がるクロの姿に心が和む。犬派の心も猫派の心もあっという間に虜にさせられてしまうのではないか。そして、人の心に寄り添う、彼らの優しさに温かい気持ちにさせられるのだ。

「私たちは人間に飼いならされたんじゃない。彼らとともに歩み、彼らを理解し、そして彼らの友人になったんだ」

 レオとクロはどうやって生きる者、死せる者の思いを救っていくのだろうか。謎と感動に満ちたクライマックスは圧巻。自らの身の危険を顧みず、人間たちのために動こうとするレオとクロ。彼らが人間に向ける深い愛情に胸がいっぱいになる。こんなにも人間のことを思い、行動してくれる死神がいるとしたら、なんて心強いことか。この作品は、私たちの心を優しい気持ちで満たしてくれるファンタスティックミステリー。元々のシリーズファンはもちろんのこと、シリーズ未読という人にもおすすめしたい1冊だ。

文=アサトーミナミ