「好き」を仕事にするのは難しい。職場の環境にイライラしたときに開いてほしい『店長がバカすぎて』/佐藤日向の#砂糖図書館㊹
公開日:2022/5/27
何かを意識的に継続する、というのは、簡単そうに見えて実際にはとても難しいことだ。この継続というのは日々の労働にも当てはまる。
今回紹介するのは、早見和真さんの『店長がバカすぎて』という作品だ。28歳の主人公・谷原京子はとにかく本が好きで、書店の文芸担当として働いている。京子の職場にいる店長は年上とは思えないほど抜けていて、京子は日々苛立ちを募らせている。そんな京子が書店員としての誇りを探し、働き続ける理由を見つける、痛快なストーリーだ。
私は幼い頃から芸能の仕事をしているため、アルバイトを経験したこともなければ、部活に所属した経験もない。だがこれまでの私の経験から、年上や年下は関係なしに、経験値というのはその人の強さと優しさを形成してくれる大切な一部だと私は思っている。
主人公の京子にとって本は特別な存在であり、ゲラを含め常に新しい小説を読んでいる。だが、いざ本を扱う仕事をするとなると、職場の環境が悪く退職をすべきか、自分の力で環境を変えるべきか迷うシーンが、何度も登場する。彼女が迷って悩んでいる姿は、読み手によっては「何でやめないんだよ!」と思うかもしれない。だが、私は京子の気持ちが痛いほど分かった。自分の「好き」を仕事にすると、心を保つバランスがとても難しくなる。
お芝居が好きでも「好き」の気持ちだけでは先に進むことはできないし、上には上がいる。諦めるというのも大切な選択肢のひとつだが、一度眩しい場所を経験してしまうと、もう一度そこに飛び込みたくて、なかなか辞めると言い出せなくなる。
実際、高校生の間はほぼ毎日この考えの繰り返しだった。当時から頑固だった私は、お芝居の先生に言われた言葉やまわりの友達からの言葉に納得が出来ず、「何でそんなことを言われなければならないんだ」と顔に書いてあるような表情を常にしていたように思う。だが冷静に考えると、私はもしかしたら「好き」を職業に出来ないタイプの人間かもしれないし、今から新しい選択肢を見つけなければならないと焦り、頭の中にはいつも”辞める”の文字と”意地でも続ける”の文字が行き交っていた。
そんな私にマネージャーさんが「日向は舞台の上に立つと輝く」と言ってくださった。この言葉がきっかけで仕事を続ける決心がついたと言っても過言ではない。どんな職業も働き続けると大変なポイントがあり、人間関係も含めて簡単なものなどひとつもない。だが京子が落ち込んだ時や、激怒した時に本を通してみた世界は、本を読む前の感情的な状態と少し違っていた。京子のように自分の拠り所になる”何か”がひとつあるだけで、人はもう一歩先へ進める。
自分の機嫌をうまく取りながら働き続けるのは、意外と難しい。自分の最高のパフォーマンスをやり切るためには感情を吐き出せる相手、心を落ち着けてくれる存在を見つけることが大切になってくるのかもしれない。もし貴方が今、職場や学校でイライラしているようであれば、是非本作を読んでほしい。本作が日々の苛立ちを少しだけ取り除いてくれるはずだ。
さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月~2014年3月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして活動。卒業後、声優としての活動をスタート。主な代表作に『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』(暁山瑞希役)。ニコニコチャンネル「佐藤さん家の日向ちゃん」毎月1回生配信中。6月12日(日)には佐藤さん家の日向ちゃん〜公開生放送イベント〜全3部を実施。