子どもが野球をはじめたら坊主になるの? 公園で野球をしたら怒られる? 大人気野球YouTuber「トクサンTV」に聞く、野球の楽しみ方《インタビュー》
公開日:2022/6/3
チャンネル登録者数68万人を超える大人気の野球YouTubeチャンネル(2022年5月現在)である「トクサンTV」。そして、開設以降、メインで出演しているのがトクサン&ライパチのコンビだ。
これまでの著書『トクサンTVが教える 超バッティング講座』(KADOKAWA)をはじめとする野球シリーズでは、全国のプレーヤーに役立つテクニックや考え方を楽しく伝えてきて、どれもヒット作になっている。
そして今春、ジュニア世代へ向けて『マンガでわかる! トクサンTVが教える 超少年野球教室』(KADOKAWA)を上梓。
ただ、これから野球にはじめて触れる子どもたちのことを考えたとき、野球が抱えるさまざまな問題点が浮かび上がってきたそうだ。
やる場所は? 坊主になるの? ずっと野球ばかりやるの?
変なイメージばかりが頭をよぎる。せっかくの楽しい野球が、これじゃあ台無しだ!
そこで、トクサン&ライパチと、本書の編集スタッフで、そんな野球を取り巻く環境を話し合うことにした。もちろん、暗い顔して話してもつまらないから、野球らしく、明るく楽しくだ!
(取材・文=新宮 聡(企画室ノーチラス) 写真=高橋賢勇)
遊んでいれば、野球は上手になる?
本書編集スタッフ(以下、編集部):これまでKADOKAWAから刊行された『トクサンTVが教える』シリーズ(バッティング、守備、ピッチング)3冊でトクサン、ライパチさんとはご一緒させていただきましたが、今回の『マンガでわかる! トクサンTVが教える 超少年野球教室』はジュニア向けで、しかもマンガで解説。どうでした?
トクサン:難しさは感じましたね。だって、未経験の子どもたちに伝えるわけだから、投げ方やグラブの使い方、走り方なんかを考える。でも、それを自分が身につけたときをおぼえていない(笑)。
ライパチ:まあ、ガキのころだし。
トクサン:昔は遊びながらおぼえたことですからね。別に野球じゃなく、かくれんぼや鬼ごっこ、缶蹴りなんかで身体の使い方を身につけていた。でも、今の子たちは、そういう経験が少ない。公園で遊んでる子少ないもん。
ライパチ:なのに、ネットやテレビでは「プロ直伝!」みたいな解説がいっぱいある。情報量多すぎなんですよ。投げ方なんか、メンコやってる間に身についてたのに(笑)。
トクサン:メンコいいよな。まさにスナップスローだもん。やっぱり、あらためて遊びが大事なんだよ。
ライパチ:そうそう。そんなに野球だ、野球だとしなくていい。遊んでいれば自然にいろんな動きが身について、野球も上手になる。
トクサン:公園で球技ができないとか、環境の問題もある。でも、それだけじゃない気がする。コミュニティーを持たない文化になっちゃったからね。子どもは家でゲームしてくれてる方が大人はラクなのかも。
ライパチ:スポーツ庁の調査でも子どもの運動能力は下がってますよね。野球のスタートラインは、昔とは変わったと理解すべきでしょうね。
トクサン:だから、本にも掲載したバドミントンをすればいいんだよ。できる公園も多いと思うよ。プロ野球選手もやってるし、野球部の子にもやってほしい。おすすめ!
「バカモーン!」と言われても……
編集部:今回の本の打ち合わせ時にも、野球のやりにくさや問題点は話題になりましたね。
トクサン:かつてほどではないけど、それでも野球は国民的スポーツなんですよね。注目度が高い。すると、よくないところばかりが目についてしまう。坊主とか、体罰があるんじゃないかとか。もちろん、それは変えなきゃいけない部分だけど、そこばかり見られてしまう。
ライパチ:まあ、場所については野球場でやるべきなんでしょうね。硬い球投げて、棒振るわけですから。
トクサン:でも、カラーボールとかなら、できるところも多いはず。俺らのころなんか、カラーボールをバンバン打ってたよ。
ライパチ:そうすると国民的アニメによくある、ガラスパリーンッ、「コラーッ」とか「バカモーン!」な展開に……。
トクサン:軟式球だったらそうだろうけど、カラーボールでガラス割れるわけないだろ! そうなんだよ。国民的アニメまでもが、野球を悪者にするんだよ(怒)。
ライパチ:野球が国民的スポーツだからですよ。
トクサン:あの「バカモーン!」な展開がわかりやすいんだろうな。ほかのスポーツじゃ、そうはいかない。だから、ネガティブな面も目立つ。
ライパチ:まあ、アニメの描写みたいに、元々は子どもたちが遊びでやってたんだから、野球は本来、ハードルが低いはずなんですよ。
変わりつつある野球
編集部:たしかに、野球部のそれじゃなく、遊びで野球をやっていた世代からすれば、野球はなんでこんなに面倒になったのかと思ってしまいます。
トクサン:そうなんですよ。掃除の時間に雑巾投げて、ほうきで打ってましたからね。で、先生じゃなく、女子がキレる(笑)。
ライパチ:僕らはピンポン球でやってましたね。
トクサン:すごい変化するよな、あれ。カラーボールでも変化するもん。魔球だよ。ホント楽しい。だから、今回の本でもハンドベース(手打ち野球)を入れたんだ。
ライパチ:そうやって遊びでおぼえて、野球やりたいな、となっていく。この本のマンガと同じですよ。
トクサン:でも、野球はネガティブな情報多いからね。「野球したら坊主だよ」とか、「体罰もあるのでは?」とかがあふれている。
ライパチ:そこで尻込みしちゃう子もいるでしょうね。野球をはじめるハードルが異様に高い。
トクサン:いつの時代も大人の価値観が決めちゃうんだよ。変に厳しいところが残ってるのも、昔の大人の価値観。厳しくすれば立派に育つと思われてたんだ。
ライパチ:でも、別に立派にならなかった(笑)。今は社会の価値観は変わったけど、ゆるくすれば成長するわけでもないですし。
トクサン:実際、野球を楽しんでる人はたくさんいる。でも、中には傷つく人もいる。そういうところは丁寧に変えていかなきゃいけないんだけど、そこにSNSなどでたくさんの声が乗っかって、ネガティブキャンペーンみたいになっちゃう。
ライパチ:野球界にも新しい動きは多いんですよ。置きティーを本塁に置いて打つ「ティーボール」の大会をやったりね。
トクサン:そういう中で、野球をやりたいのにできない、というのは撲滅したいよね。僕たちは野球が好きで、本当の楽しさを知ってる。小さな声でも世の中に出していかないと。
掛け持ちしてもいいんじゃない?
編集部:もっと気軽に野球ができれば、と感じることは多いですね。でも、一度野球部に入ってしまうと、そうそう抜けられないような雰囲気がある。
トクサン:本当は高校野球でも、全員が甲子園をめざす必要はないと思うんですよね。もっと違う楽しみ方があっていいはず。でも、これは野球に限らず、高校スポーツ全般に同じようなところがある。でも、やはり野球が目立つ。
ライパチ:大学のテニスサークルみたいな気軽さはほしいですよね。野球サークルなのにサッカーやるとか。
トクサン:スポーツを掛け持ちしてもいいんだよ。野球と陸上とか、バスケとか。
ライパチ:でも、別のスポーツをやる、というのが日本の文化的に許さないところがある。
トクサン:野球はチームスポーツだからこその問題もある。「その子が抜けると困る」という思考が生まれやすいんだ。
ライパチ:それを補うのが本来はチームなんですけどね。
トクサン:アメリカの場合、高校野球はあっても、甲子園みたいなのはないんだよね。だから、「こいつが抜けたら全国に行けない」という考えは起きない。地域でスポーツを楽しむ文化になっている。
ライパチ:掛け持ちの選手がいればおもしろいですよね。
トクサン:強豪私立とかはそういう変化は難しいだろうなあ。でも、そうでないところなら近い将来あるかも。「野球とバスケやってました。バスケのおかげでアジリティ(俊敏性)がアップして、球速くなりました!」とかね。で、そんな子がメジャーリーガーなんかになっちゃうと、超楽しい。誰も文句言えない(笑)。
ライパチ:部活の掛け持ち禁止とか、クラブとの兼務ダメとか、そういう時代じゃないですよね。ルールは変わっていい。
トクサン:パチ、いいこと言うなあ。俺が言ったことにしよう。
編集部:ダメですよ。ライパチさんの名言として記録します(笑)。
ライパチ:アメリカなんかは柔軟ですもんね。AI審判も、とりあえず実験してみてるし。
トクサン:そうなんですよ。で、AIはメチャクチャで試合にならなかった(笑)。現状、AI審判はダメだ、という結果があっての議論。
ライパチ:でも、日本はやる前から議論して、さらに炎上してる(笑)。
トクサン:大きな声で言う人は多いのに、誰も審判やりたがらない。実際に生で見ると、審判の方の技術ってすごいんですよ。AIがサッパリできないことを、瞬間的に99%正確な判断をしてるんです。だけど、残りの1%でボロカスに言われてしまう。
ライパチ:ただまあ、審判にもいろんな方はいますけどね。
トクサン:まあ、いるね。でも、本来の審判は立派なポジションで、すごい技術を持っている、ということは知ってほしいですね。
とんでもなく立派なライパチ?
編集部:ところで、今回の本の制作を通して感じたんですが、ライパチさんって、おそろしく立派に成長されてません? 打ち合わせのときに「子どもにとって、ノックを捕って投げるのはゴール。すぐに行ける場所じゃない」とおっしゃったのが、本書のテーマにもなった気がします。
ライパチ:そんなこと言いましたっけ?
トクサン:言ったからこういう内容にしたんだろ!
編集部:最初の『トクサンTVが教える 超バッティング講座』(2019年刊行)のころは、トクサンがおっしゃることにツッコミ入れるだけのポジションに感じましたが、今回はズバズバと適切なご意見をいただいた気がします。それがマンガ家の工藤ケンさんにも伝わったのか、マンガに登場するライパチさんがとんでもなく立派な人に……。
ライパチ:いや、あの、もしかしたら、子どもが生まれたからかも……。
トクサン:1歳半なのに、もうボール投げてるんですよ。
ライパチ:家にカラーボールやカラーバットを置いてあるんです。それで勝手に遊ぶんです。
トクサン:すでにオヤジを超えた!
ライパチ:そうなんですよ。僕は「肩痛いからノースロー」とか言っているのに、子どもは毎日ボール投げてる。そりゃあ、超えられる(笑)。
トクサン:でも、ライパチは今回の本のテーマに合っていたと思うよ。初心者や上手じゃない人の気持ちがわかっている。さすが、野球をやめようとして帰ってきた男!
ライパチ:実はYouTuberになる少し前、ハイレベルな人たちに「やれ!」と言われたことができずに、嫌になったことがあったんですよ。でも、続けていくと投げたり、打てたりできるようになった。
トクサン:今はできないことはできないと平気で言うもんな。「ヒットエンドランやれ」と言ったら、「できないですよ!」と正々堂々言うんです。仕方ないから、スクイズにしたら見事に成功したという(笑)。
ライパチ:できないことを補い合うのがチームです! 本のマンガもそうなってるんだから、それでいいんですよ(怒)。
【著者プロフィール】
●トクサン:1985年3月18日、東京都出身。本名は徳田正憲。SWBC JAPAN軟式日本代表。帝京高校で甲子園出場、創価大学では主将として全国ベスト4、リーグ首位打者、盗塁王に輝く。日本プロ野球2球団にリストアップされた実績も持つ。2016年8月にYouTubeにて「トクサンTV」をスタートさせ、チャンネル登録者数68万人、再生回数6億4000万回突破、大人気の野球チャンネルとなっている(2022年5月現在)。ホームランを連発するパンチ力を持ち、俊足も健在、守備も未だプロ級の野球ユーチューバー。
●ライパチ:トクサンの相方を務める野球ユーチューバー。普通の高校球児のまま野球を引退したが、草野球チームでトクサンと出会う。名前の由来は下手くその代名詞だったライトで8番バッターを意味する「ライパチ」。でも、少しずつ上達を続け、毎日キャリアハイを更新中! 右投右打。
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