「僕は生きてしまった」母に翻弄されて人を殺した少年、衝撃の裁判から約20年を経て『血の轍』は本章へ
更新日:2024/2/8
『血の轍』(押見修造/小学館)の1巻では、どこにでもいる明るい少年として主人公・静一は描かれていた。しかしその後、母親によって彼の人生は一変する。時に息子に依存し、時に突き放す母・静子に翻弄されたあげく人を殺してしまった静一は、法廷で静子に見捨てられ救護院に送致された。
12巻で静一の少年時代は終わり、最新刊の13巻では時を経て2017年、36歳になり工場で働く大人の静一が描写される。静一の10代後半や20代、30代前半といった青年期は過去を思い出す断片でしかなく、30代後半になった静一の新たな物語が「本章」(裏表紙より)として始まるのだ。
もう生き返らない
僕は 僕の人生は
でも僕は
僕は生きてしまった
静一は事件を忘れておらず、工場で働きながらゴミの散らかる汚部屋に住んでいて、決して笑顔を見せない。静一の側には、子どものまま時をとめた殺人事件の被害者「しげちゃん」の幻影が時に現れる。
「しげちゃん」と、父との再会、そして別離によって、閉じていた箱を開くように静一は自死を決意する。
多感な時期の辛い思いや苦しい過去が、ささいなことでよみがえる経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。静一の過去は壮絶だが、大なり小なり、大人になった彼のようすはきっと、それぞれの思春期を思い出すきっかけになるはずだ。
恐らく静一の場合は、母がいなければ罪を犯すこともなく今も当たり前の日常を送っていただろう。読んでいるうちに、静一に感情移入をしながら、同時に彼に寄り添いたいという気持ちも生まれてしまう。
一方、13巻では母の呪縛からまだ逃れることができない静一の「今」も描かれる。静子と静一は、法廷で別れてから長いあいだ会っていない。静一にとって母親は思い出したくもない存在なのに、いつまでも彼にまとわりつく。
この漫画の大きな特徴は、情景がすべて静一の目に映るものであり、そこからまったくぶれないことだ。彼の苦しみは歪んだ情景となって目の前に広がる。静一は1981年生まれで事件までは群馬に住んでいた。これは著者の押見修造さんと同じで、本作は押見さんの内面にあるものを、目の前に絵として映し出すような感覚で読むこともできる物語だ。
母から見捨てられたあと、救護院を出ても静一は自ら他者との距離をとろうとしていた。静一と両想いで、母に縛られる彼を理解していた同級生・吹石の存在も「しげちゃん」を殺したあと、消えた。
彼にとってなにげない日常は、絶望を経験したあとの余生に似ている。
13巻の終盤、自死を決意した静一の前にある人物が登場する。希望を絶たれながらも、静一はどこかで救いを求めているのではないかと感じさせるシーンだ。その人は彼の今を変える存在になりうるのだろうか。想像がふくらむ。
『血の轍』はこれからが本章だ。
文=若林理央
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