皇后雅子さまの元主治医が教える「妊娠の新常識」 不妊治療の保険適用で何が変わる?
更新日:2022/6/6
この4月から不妊治療の保険適用範囲が年齢制限つきで拡大された。女性の排卵の時期に合わせて、精子を子宮内に注入する「人工授精」、体外で卵子と受精させ、その受精卵を子宮に戻す「体外受精」、精子を針で直接卵子に注入する「顕微授精」などが新たに保険適用となったのだ。不妊に悩むカップルは5.5組に1組もいるといわれる中、これまで高額だった不妊治療が大幅に身近なものとなり、より多くのカップルが不妊治療を考えるようになるのは間違いないだろう。
そんなときだからこそ、勢いでとびつく前に、いまいちど「不妊治療」についての正しい知識を俯瞰しておくのは悪くない選択だろう。『妊娠の新しい教科書(文春新書)』(堤治/文藝春秋)は、まさにそんなニーズにぴったりの一冊。著者は山王病院名誉病院長であり、皇后・雅子さまの主治医でもあった堤治先生。不妊治療および生殖医療における日本の第一人者である先生が、妊娠成立の仕組みから不妊治療、生殖医療の最前線まで、新書一冊のボリュームでわかりやすく&きっちり教えてくれる、まさに「教科書」的な一冊だ。
本書で紹介されているトピックも幅広い。妊娠・出産の仕組みを押さえた上で、どんな不妊治療が実施されているのか必要な検査や治療内容、そして最新の技術について、さらには失敗しない不妊治療施設の選び方や企業も注目する「プレコンセプションケア」(男女とも若いうちから将来の家族設計を意識し、心身の健康管理を行うこと)、気になる不妊治療への保険適用の全体像などなど。いずれも初歩的な知識から専門的な医療知識まで、噛み砕いて解説されているのでとにかく読みやすいのがうれしい。
冒頭、先生は妊娠の新常識をいくつかあげている。中でもドキリとするのは、子宮も加齢によりトラブルが増えてくるということだ。子宮内膜症や子宮筋腫といった病気にかかりやすくなるだけでなく、この20年の研究で子宮内膜もエイジングして薄くなっていくこともわかったという。子宮内膜は受精卵が着床して育つベッドとして機能するので、薄くなると着床しにくくなってしまい不妊の原因にもつながっていく。特に子宮筋腫やポリープ除去の際、あるいは中絶や流産の手術の際に子宮内膜に傷がついてしまった方ほど薄くなりやすいとのことだが、本書では子宮内膜を傷つけない手術の方法や、子宮内膜が薄くなってしまったときの治療法までフォローされているので心強い。
ところで今回の不妊治療への保険適用の内容については、現場医師も全貌をつかみきれていないほどギリギリまで調整が続いたという。不妊治療を考える際には、何が保険適用で、何が適用ではないのかはしっかり押さえておこう。実は最新の生殖医療はかなり進化しているが、現状では保険適用の対象外の治療法をひとつでも行うと、すべての治療が自費診療になってしまうとのこと。そんな知識も含め、網羅的に教えてくれる本書だからこそかなり頼りになる。
「まだまだ妊娠は先の話。今は仕事」という女性も多いかもしれない。だが、いざというときに選択肢が少なくなってしまわないよう、あらかじめ多くの女性たちに本書で基礎知識を頭に入れておくことをおすすめしたい。「自分はどう生きたいのか」を考える上でも、きっと大事なヒントをくれることだろう。
文=荒井理恵