『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』累計発行部数165万部以上! 身近な商売の疑問から会計のエッセンスを解説
更新日:2022/6/17
ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?身近な疑問からはじめる会計学』(山田真哉/光文社)の書籍要約をお届けします。
この本を読んで欲しいのはこんな人!
・起業や経営に興味がある人
・商売やビジネスに関するお金の流れを知りたい人
・教養として「会計」の基礎を学びたい人
3つのポイント
要点1:商売の生命線である利益は「売り上げ」から「費用」を引いたもの
要点2:本業と副業をつなぐ「連結経営」で利益拡大も見込める
要点3:商売では「在庫」の処理と「機会損失」に注意するのも鍵
(著者プロフィール)
山田真哉(やまだ しんや)/公認会計士・税理士。芸能文化税理士法人会長、株式会社ブシロード社外監査役。著書『女子大生会計士の事件簿』(角川文庫他)はシリーズ100万部、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?身近な疑問からはじめる会計学』(光文社)は165万部を突破、YouTube「オタク会計士ch」は登録者数40万人を超える。
さおだけ屋はなぜ成り立つ? 「利益」の出し方が答えだった
どこからともなく聴こえてくる「たけやーさおだけー」のメロディ。しかし、さおだけを買った経験がある人、さおだけが売れている場面を目撃したことがある人は、おそらくそういないはずだ。
本書は「さおだけ屋はちゃんと利益を出し、商売として成り立っているのだろうか?」という、著者の疑問からはじまる。
そもそも利益とは「売り上げ」から「費用」を引いたもので、企業にとっての生命線になる。
一見、肝心の商品が売れていないはずのさおだけ屋であるが、著者はさおだけ屋に関する証言を聞いて、2つの結論にたどり着いた。
1つは「さおだけ屋は、単価を上げて売り上げを増やしていた」ということ。「2本1000円」のふれこみでさおだけを購入しようとしたが、さおだけ屋の軽妙なトークにより「1本5000円」の高級品を買ったおばあさんの証言から、導き出されたものだった。
また、別の証言により、本業が金物屋であるさおだけ屋が得意先へ配達するついでに、あの“おなじみのメロディ”を流しながら街中を走っていたことが分かった。
いわば、さおだけ屋は副業で、扱っていたさおだけも、元々は金物屋が仕入れた商品であり、なおかつガソリンの経費もかからない「仕入れの費用がほとんどゼロの副業だった」という結論へ至った。
利益を出すには「売り上げを増やす」「費用を減らす」の2択しかない。そして、利益を出しながら「継続」させることこそが商売の本質であると、さおだけ屋は教えてくれる。
普通の住宅街に高級フランス料理店。儲けのからくりは「連結経営」
著者はある日、自宅近くの高級フランス料理店に疑問を抱いた。高級住宅地でもない「どこにでもある、ただのベッドタウン」に、コース料理の最低金額が1万円もするような料理店がなぜあるのか、なぜいつまでも「潰れずに商売をつづけることができるのか?」と思った。
商売の原則は「等価交換」である。すなわち「同じくらいの価値があるモノ(現金や商品・サービス)同士を交換する」ことで、消費者側も納得してくれるから商品やサービスは売れる。しかし、先の高級フランス料理店は、周囲の環境と適していない。そう「違和感」をおぼえた著者は、実際に料理店へと足を運んだ。
そこで目に留まったのは「大人気! しめきり間近!」「〈シェフが教えるフランス料理教室〉」「〈ソムリエが教えるワイン教室〉」と書かれた習い事のチラシだった。毎月1回、定員10名で月謝1万円の教室こそが、高級フランス料理店の儲けのからくりだった。
本業に限らず「副業など他のところでちゃんと利益を上げることができれば」商売は成立するという考え方だ。そして、本業と副業をつなぐ経営手法は、会計上の「連結経営」の考え方にあたるという。
ただ、闇雲に手を広げればいいわけではない。事例にあった高級フランス料理店で行われている教室の場合は「高級フランス料理店のシェフ(ソムリエ)が教える」というのもポイントであり、本業と副業が「バラバラ」にならないよう、工夫も必要になる。
お客の少ない自然食品店。「在庫」をいかに減らすかは商売の鍵
街中を歩いていた著者は、ある自然食品店に目を留めた。「圧倒的な数と量の商品群」を持ちながら、お客が入っているのを見かける機会は少ない。そこから見えてきたのは「資金繰り」に関わるヒントだ。
商売では「在庫」は悪になる。特に、食品となれば賞味期限があり、いずれは廃棄しなければならなくなる。さらに、在庫を管理するための人件費もかかり、置くスペースを確保するには店舗内の場所も圧縮してしまう。
ではなぜ、自然食品店は営業を続けられていたのか。じつは、著者が疑問を抱いたお店は「ネット宅配」をメインにしていた。実店舗はいわば「在庫置き場をせっかくだからとお店にしただけのもの」であり、そこで利益を出す必要性がなかった。
とはいえ、自然食品店の話はほんの一例。業種にもよるが、商売では在庫をいかに減らすかが鍵になる。そこから派生して、著者が「在庫減らしの究極の手法」として取り上げるのが「受注生産」である。受注があれば「その分は確実に売れる」というのは明らかで、受注後に「製造に取りかかれば在庫はまったく発生しない」からだ。
そして、企業に限らず「必要なものを必要なときに必要な分だけ」買う心がまえは、家計の節約を考える上でも役立つ。
完売御礼でも怒鳴られる? 「機会損失」のリスク
とあるスーパーで起きた出来事。社員のAさんは、自身が企画した「秋の味覚ざんまい弁当」100コを仕入れて、お昼過ぎにすべての弁当を売り切った。「おかげさまで完売御礼!」の張り紙に自信満々だったAさんだが、現場へ視察に来た社長から「君は商売の基本がわかっとらんのか!」と怒鳴られてしまった。
理由は、Aさんが「機会損失」を招いていたからだった。商売にはそもそも「チャンスゲイン(売り上げ機会の獲得)」という基本がある。すなわち「お客さんが欲しいと思ったものを欲しいと思ったときに提供する」のが原則で、機会をみきわめるのはたやすくない。
Aさんの事例でいえば、一見、弁当の完売は喜ぶべきことのように思える。しかし、お昼過ぎの段階で100コが完売するほど人気があったのなら、より多く仕入れておけば「終日で200コを売ることだって可能だったかもしれない」という仮説も成り立つ。
社長から怒鳴られたのは気の毒だが、この場合、Aさんの見通しが甘かったのも事実。そして、会計学の視点から、著者は「商品が余ることも怖いが、品切れすることも同じくらい怖い」と訴える。
この事例から学べるのは、先を見越して「どうせやるならできる限り最大限まで目標を高めに設定したほうがいい」ということだ。
さて、本書は、専門用語を使わない解説で「会計」を学べるのが魅力だ。著者独自の視点で発見した「身近な疑問」から、テーマに沿った話へ展開していくのも面白い。経営者だけではなく、仕事で成果を出したいビジネスパーソンにとっても、役に立つ1冊である。
文=カネコシュウヘイ