できるリーダーはモチベーションを高めない――注目のマネジメント書『リーダーの仮面』

ビジネス

公開日:2022/6/6

 ロングセラーや話題の1冊の「読みどころ」は? ダ・ヴィンチWeb編集部がセレクトした『リーダーの仮面――「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法』(安藤広大/ダイヤモンド社)をご紹介します。

こんな人にオススメ!

・初めてリーダーとして部下を持った人
・部下がなかなかついてきてくれないリーダー層
・飲み会が減り、マネジメントがうまくいかなくなったと思っている人

3つのポイント

要点1
良いリーダーに必要なものはたったの5つ。「リーダーの仮面」をかぶり、それ以外はすべて無視しよう。

要点2
リーダーは「いい人」になろうとしてはいけない。飲み会で士気を上げるなど、感情に依存したマネジメントも失敗する。

要点3
リーダーは、事実に基づいた指示やフィードバックをするべきだ。言い訳や悪い報告にも感情を出さず理論的に対処しよう。

▼プロフィール
安藤広大(あんどう・こうだい)
1979年、大阪府生まれ。株式会社識学代表取締役社長。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年に独立し、「識学」を教える講師として数々の企業の業績アップに貢献。2015年、株式会社識学を設立。2019年、創業から3年11ヶ月でマザーズへ上場。識学メソッドは、2022年3月時点で約2700社以上に導入されている。主な著書に、『数値化の鬼――「仕事ができる人」に共通する、たった1つの思考法』(ダイヤモンド社)、『伸びる会社は「これ」をやらない!』(すばる舎)など。

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リーダーは「いい人」になろうとしてはいけない

 優秀なプレーヤーが必ずしも良いリーダーになれるとは限らない。むしろプレーヤーとして成果をあげてきた人ほど、部下に手取り足取り指導をして成長を妨げたり、背中を見せようとして管理者としての役割を果たさなかったりして失敗する。部下を持ち始めた若手リーダーには、これからはプレーヤーとは別次元の「マネジメント能力」が必要だ。

 リーダーが意識すべきは「ルール」「位置」「結果」などの5つ。それ以外は無視していい。嫌われたくない、部下と仲良くなりたいといった感情も要らない。できるリーダーになりたければ、マネジメントに不要なものは見ない「リーダーの仮面」をかぶるべきだ。

 まずは、既存のリーダー像は捨てて、プレーヤー的な思考から頭を切り替えよう。プレーイングマネージャーとして誰よりも成果を出してついてこさせようとする人もいるが、それでは部下を成長させないどころか、ひとりに依存する脆弱なチームを作ってしまう。飲み会でモチベーションを上げようとするなど、感情に流されたマネジメントもNGだ。また、「いい人」であろうとして部下に気を使ってはいけない。リーダーは常に、事実や理論に従って仕事をすべきだ。

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良いリーダーは淡々と指示を出し事実を告げる

 リーダーが最初にやるべきは「良いルール設定」だ。交通ルールや校則と同じように、仕事もルールがあるから人は自由になれるし、ストレスが減る。ルールには、「1日に10件営業回りをする」といった行動のルールもあるが、「会議に遅れずに参加する」などの「姿勢のルール」の設定が特に重要だ。誰でもできるルールを作る、言語化してシェアする、「誰が何をいつまでにやるか」を明確にして守らせることが、マネジメントの基本だ。

 リーダーにとってあるべき正しい「位置」も重要だ。リーダーは、今の利益ではなく未来の利益を見る位置にいると認識しよう。日ごろのコミュニケーションで、部下と自分の位置も明確にすべきだ。部下に仕事を任せるとき、「○○してくれない?」とお願いしていないだろうか。これは、リーダーが決定権を部下に委ねて責任を曖昧にする悪い例だ。「飲みに連れて行くから」などとご褒美でやる気を出させようとするのもNG。仕事は、自分の役割に応じて上から降りてくるもので、やるのは当たり前だ。リーダーは、言い切りで仕事を指示しよう。

 指示を出したら、あとは事実を「ほうれんそう」させれば良い。報告を受ける際はどんな結果でも感情的にならず、淡々と対応しよう。未達の場合は、「未達ですね。次からはどうしますか?」と事実を指摘し、次の行動を改善させる。すると、部下は自分で改善策を考えて成長できるのだ。部下の言い訳をなくしていくコミュニケーションも大切だ。言い訳付きの報告に対しては、感情が含まれた曖昧な表現は無視して事実だけを拾い上げ、「次から具体的にどうしますか?」と繰り返し問い続けよう。

 リーダーと部下の間には、適切な距離があるべきだ。上司と部下はあくまで会社のルールで規定された関係であり、友達関係ではない。距離が近すぎると、正しい位置にズレが生じて緊張感がなくなり、組織は弱くなる。コロナ禍のリモートワークで生じた適切な距離も上手に活用しよう。

「褒められて伸びるタイプ」はありえない

 部下の目標設定は、今できることの「少し上」が適切だ。今との差を埋めようと努力することで部下は成長する。部下が失敗を恐れても、とにかく一度行動させよう。人は、経験でしか変われないからだ。それでも部下がためらうのなら、「失敗したらそれは上司である私の責任だから、思い切ってやってみてください」と覚悟を示せば行動してくれるだろう。

 また、優れたリーダーはプロセスを無視し、「結果」のみで部下を評価する。残業の多さなど努力を褒めれば、部下は「がんばってさえいればいい」という誤った考えを持つ。部下が自ら学ぶために、リーダーはプロセスに介入せず、目標設定と結果の2点だけを見るべきだ。

 部下の成果を安易に褒めるのもやめよう。人は褒められると、結果の少し低いレベルを「あたりまえ」に設定してしまう。結果を淡々と受け入れることで、出した結果のレベルが「あたりまえ」になる。「褒められて伸びるタイプ」というのはビジネスではありえないのだ。

 リーダーの仮面によるマネジメントを、「非人間的だ」と思う人もいるかもしれない。しかし、一見人間的な、感情に従ったマネジメントは部下を甘えさせ、社会で通用しない人材を生む。部下を大事に思うからこそ適度な負荷を与えるべきであり、これこそが人間を思うマネジメント法なのだ。良いリーダーは、今ではなく部下の将来を見据えている。だからこそ、リーダーの言葉は遅れて効いてくる。長い目で、部下の成長を待つのもリーダーの役割だ。

文=川辺美希

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