寺島惇太「拝啓、日陰から」⑨陰キャとファッション

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更新日:2022/7/3

寺島惇太

 朝目が覚めて、歯磨きをして、ソシャゲのログインして、クローゼットを覗くと降り掛かってくる問題があります。

 さて、今日はどんな格好をしよう……。

 はい、陰キャにとって「ファッション」はこれまた頭を悩ませるものです。

 そもそも、子どもの頃からファッションにはあまり興味がありませんでした。高校生にもなれば、誰も彼もがオシャレに目覚めます。ファッション誌を読み漁り、流行りの格好をしてみる。でも当時BLEACHという漫画に激ハマりしていたぼくは、週5で真っ黒なTシャツに身を包み眉間にシワを寄せ、「死神代行」ぶっていたんです。さすがに髪の毛はオレンジにはしませんでした。オタク丸出しでクラス内での霊圧は消える寸前でした(のちに消失しましたが……)。

 そんな学生時代を過ごしたぼくにファッションセンスなんぞが身につくわけもなく、ダサいまま大人になりました。逆にダサいTシャツとかを着ているとイジッて貰えたりするのでそれで良いと思ってました。ただ最近は年齢も30を越えたのでシンプルで小綺麗な格好を心がけるようになりました。周囲から「寺島くん、オシャレだね!」と絶賛されなくてもいい。その代わり、清潔感があって着回しができて、浮かない。それが現在の寺島流オシャレの極意です。

 とはいえ、やはりオシャレに対する自信のなさは消えていないので、オシャレにまつわるお店に足を運ぶのが怖い……。

 たとえば、美容室。表参道や中目黒にありそうなゴリッゴリにオシャレな、業界の最先端を爆走しているような、陽キャたちで溢れていそうなお店にはどうしても入れません。そもそもそういうハイセンスなお店にぼくなんかが客として訪れたら、ネットや雑誌で調べて自分を変えるために一念発起して来てくれたんだね! 勇気を出して偉いね! よし! 俺があなたを生まれ変わらせてあげます!」みたいな感じで無駄に美容師さんのやる気を刺激してしまいそうで怖いです。お片付け名人が散らかってる部屋を見ると燃えてくるみたいなアレです。しかもそういうお店って、イケメン美容師さんが気を使ってたくさん話しかけてくるイメージ。以前ふらっと入った美容室で『ご職業は?』と聞かれてテキトーに『映像関係です……』と答えたらめちゃくちゃ食いつかれて地獄を見たトラウマがある僕にはハードルが高いです。

 そんなこんなで右往左往した結果、ようやく見つけたのがいまの行きつけです。そこは入店時に「美容師に希望する対応」を選べるシステムがあって、ぼくは迷わず「雑誌を読んでいたい」に丸をつけました。するとどうでしょう。カット中に話しかけられることもなく、終始無言の心地よい時間が流れます。雑誌を読み、スマホをいじり、気づけばカットが終わっている。まさに天国です。

 もうひとつ、洋服屋も問題です。イケてる陽キャが着ているようなブランドのお店には、やっぱり入れません。だから普段は量産店でシンプルなものを買うことにしています。

寺島惇太

 6年ほど前からイベントや動画出演などのお仕事をさせて貰えるようになって、それからは流石の僕も気を使ってちょっとオシャレっぽい服を自分で選んで着ていたのですが、イベントに出始めのあるとき、マネージャーさんに言われました。

「寺島くん! イベントのときくらいは、ちゃんとした服を着なさい!」

 その時家の中で1番イケてると思ってた服を着てたんですけどね。
 自分がオシャレだと思ってた服はオシャレじゃなかった……?
 衝撃を受けました。

 それ以降衣装を買う時は、行きつけの入りやすくて値段もリーズナブルなお店からワンランク上のオシャレ店へとフィールドを移す事を余儀なくされました。しかし、やっぱりギラギラしていてオシャレ上級者で賑わっているお店は入りづらい……! 誰にも見られずひっそりのんびりと買い物ができてかつオシャレな服が売っているお店はないのか? と探していたところ、見つけました。

 それは、平日の代官山にありました。もうこの響きの時点でオシャレですよね? いや、誰がなんと言おうとオシャレなんです。

 そこはいつ訪れてもぼく以外のお客さんがいない(平日しか行ったことないので休日はわかりませんが……)、とても静かなお店。しかもここが非常に大事なんですが、店員さんがグイグイ勧めてこないんです。声をかけられるとすれば、せいぜい「サイズと色違いありますんで」くらいなもの。もし、なにも訊いていないのに「この時期のトレンドは~」「それに合わせるならボトムスは~」とか攻め込まれたらアワアワしちゃって、なにも買わずに逃げ出すこと必至。でも、ぼくの行きつけは基本的に放任主義。なので自分のペースで見て回って、選べるんです。

 学生時代、「死神代行」を自称していたぼくも、やっとこさ「シンプルで小綺麗な格好」という義骸を手に入れて現世に溶け込む事ができました。さて、そんなぼくが「個性的でオシャレな人」になれる日は来るんでしょうか。

寺島惇太

【著者プロフィール】
てらしま・じゅんた●1988年8月11日、長野県生まれ。2009年に声優デビュー。『アニメガタリズ』『TSUKIPRO THE ANIMATION』『アイドルマスター SideM』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『A3!』といったテレビアニメを中心に活動する他、ゲームやドラマCD、映画の吹き替えなどでも活躍。また、2019年には『29+1 -MISo-』でアーティストデビューも果たす。2021年12月には3rdミニアルバムも発売。

公式Twitter:https://twitter.com/juntaterashima3
公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCDuCCq1gONtzb3YGFUtuwTw

構成協力=五十嵐 大

<第10回に続く>