専門医が指摘する「病気がなかなかよくならない5つの理由」とは? 双極性障害の症状・治療法をわかりやすく解説
公開日:2022/6/7
突然だが、あなたは「双極性障害」のことを、どれほど知っているだろうか。双極性障害はかつて、「躁うつ病」と呼ばれていた。多くの著名人が体験談を告白し始めたことにより、近年では病名を見聞きする機会が増えてきたが、具体的な症状を理解している人は、まだまだ少ないように思う。
また、昔より治療の選択肢が増えてきたとはいえ、実際に罹患している方は未来への不安を抱え続けていることだろう。
そんな現状を踏まえて発刊されたのが、『これだけは知っておきたい双極性障害 躁・うつに早めに気づき再発を防ぐ! 第2版 ココロの健康シリーズ』(加藤忠史:監修/翔泳社)。
監修者の加藤忠史氏は、日本精神神経学会精神科専門医。日本うつ病学会の双極性障害委員会の委員長でもあり、順天堂大学気分障害センターでセンター長を務める、双極性障害の国内研究の第一人者だ。
本書は、2018年に発刊された同名書籍の改訂版。「治療薬のメカニズム」や「なかなか治らない5つの理由」などを新たに加筆し、双極性障害をより詳しく知れる一冊となっている。
そもそも「双極性障害」ってどんな病気?
双極性障害は絶好調な状態(躁状態)と気分がふさぎ込んで心身のエネルギーがなくなる状態(うつ状態)が繰り返し表れる。加藤氏によれば、躁状態が少なくとも1週間以上続く「I型」と、軽躁状態が4日以上続く「Ⅱ型」の2タイプがあり、症状が落ち着いて安定している「寛解期」は、個人差はあるが数年のサイクルなのだそう。
発症年齢は20代から30代が多く、発症頻度はおよそ100人に1人弱と、決して稀な病気ではないそう。しかし、両極端な状態が「性格的なもの」と誤解され、周囲の理解が得られにくいことも少なくない。
双極性障害の躁やうつは脳内の神経伝達物質の変化によって引き起こされると考えられており、気の持ちようや心がけで治るものではないため、治療を受けることが大切だと加藤氏は語る。
医療本というと、堅苦しいイメージがあるかもしれないが、本書はイラストを用いながらわかりやすい言葉で具体的な症状や治療法、本人と家族の間に生まれやすい「躁」と「うつ」の受け止め方の違いなどを解説しているので、身構えずに読める。
当人はもちろん、患者を支え続けている家族の心を救う情報も詰め込まれているため、自身が感じている苦しみを和らげる方法を得たり、双極性障害に対する理解を深めたりするために活用してほしい。
双極性障害がなかなかよくならない「5つの理由」とは?
今回の改訂によって新たに収録された項目の中でも特にチェックしてほしいのが、加藤氏が語る「病気がなかなかよくならない5つの理由」。
それらは加藤氏が順天堂大学の気分障害センターで開設している「双極性障害治療立て直し入院」の中で得たエビデンスがもとになっているそう。(※「双極性障害治療立て直し入院」とは、2週間の入院期間に必要な検査を行い、看護師、心理士、医師によるカンファレンスを実施して多様な観点から診断・治療の見直しを行うもの)
〈病気がなかなかよくならない5つの理由〉
①脳の病気やホルモンの問題など、他の病気が隠れている
②診断と治療がマッチしていない
③薬に問題がある
④病気を受け入れられておらず、治療に向き合えていない
⑤併発している病気がある
例えば、理由もなく症状が不安定化していく場合は、薬に問題がある可能性があると加藤氏は指摘。双極性障害は治療の中心となるのが薬物療法であるからこそ、かかりつけ医を作って薬の飲み合わせで病状が不安定になっていないかチェックしてもらったり、薬効が同じような薬を複数かつ大量に処方されていないかを確認したりすることが大切なのだそう。
また、双極性障害を受け入れられていないと、自分の状態を誤認したり、少し良くなってきた際に自己判断で薬をやめてしまい、結果的に再発を繰り返してしまったりするケースもあるため、加藤氏は自分が病気であるという事実をまずは受け入れ、治療の出発点に立ってほしいと訴えかけている。
病気が良くならない理由は個々に異なり、もちろん、病状が快方に向かわないと感じているすべての方に当てはまるわけではない。しかし、少なくとも加藤氏のアドバイスは自分の治療法や双極性障害との向き合い方を見つめ直すきっかけを授けてくれるのではないだろうか。
“本書が、双極性障害に罹患した方やご家族が、病気に翻弄されない人生を送るための道標となることを願っています。”(引用/p.3)
そんな加藤氏の言葉が、ひとりでも多くの人に届くことを願う。
文=古川諭香