国内バイリンガル/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』㉜

小説・エッセイ

公開日:2022/6/3

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

職業柄というか会社柄というか、本当に色々な地方に行かせて頂いている。

多い月で月の半分くらいは東京にいないなんてことも珍しくない。知らない人や土地は自分にとって大好物なのでとても楽しい。

方言もその1つ。なんだか耳馴染みのないイントネーションや言い回しを聞いているのも楽しい。大阪など関西の言葉は東京でも聞いているはずなのだが、東京に来た大阪芸人の方々は割とマイルドに話しているんだなと、現地のフルパワーでの関西弁はめちゃめちゃ関西弁。これもまたお耳が楽しく聞いてられるなあと思うのである。

1つだけ弊害があるとするならば、めっちゃ方言にもっていかれそうになるということ。地方に行かせて頂いた時は、東京から来てるのは僕らだけなんていうシチュエーションに遭遇することも少なくはない。そうなるとその土地の芸人やスタッフさんや一般の方々に囲まれるわけでして、一斉にその土地の言葉が耳に入ってくる。東京帰る頃には思いっきりその土地のイントネーションが残りナチュラルに訛っちゃったりもする。千葉出身の僕は方言というものとは無縁と言っていい為、より一層ノーマルがカスタマイズされているのだと感じる。

そんな中東京で仕事をしているのに、強烈な方言にもっていかれたことがある。

我々オズワルドのマネージャーは白坂さんというウルトラ小さき女性が担当しているのだが、この白坂さんが青森の出身である。普段話している時もイントネーションが少し違うなとか明らかに青森の言葉だなってワードが飛び出すこともあるのだが、それでもまあこちら側が影響を受ける程ではなかった。

だがしかし、これは地方から東京に来た方々ならではなのかわからないが、白坂さんには唯一の特徴があった。

発覚したのは昨年の単独ライブでの深夜稽古の時のこと。

単独の最後にゲストを招いて長尺コントをする為、本社に集まって稽古をすることになったのだが、稽古に参加するはずだった妹(天才女優)が仕事で稽古に参加出来なくなった。その為現場に居合わせた白坂マネージャーが沙莉の部分を代わりに担当することとなった。

始まって30秒でわかった。この人と稽古をしても話にならないと。

彼女は活字を読む時に限り完全体の青森弁を発動させるのである。正式には、活字を声に出して読む時だけトランス状態に突入するのだ。

セリフの中に、生まれてからずっと地下で生活していた沙莉が、「あたし本物の東京を見てみたい」と言う場面があったのだが、トランス状態の白坂さんの手にかかれば「あたし本物の東京を見てみたい」は上京したい青森の方となる。深夜稽古に付き合ってくれる気持ちはありがたいが、もちろんタクシー代だけ渡して強制送還させて頂いた。

他にも、少しだけ映画に出させて頂いた際、本番直前に本読みに付き合って頂いたのだが、アガペーやエロース、メタファーなど小難しい単語が出そろう中、トラ坂(トランス状態の白坂さん)は見事にあがぺいやえろうす、めたふぁー(ギャルサーのイントネーション)へと昇華させた。

その直後に臨んだ本番で、僕が第一声であがぺいを発動させ被り気味のカットを食らったのは言うまでもない。

このように、地方の皆様に囲まれた時や、1人のトラ坂にイントネーションを丸ごともっていかれる時がある。

もうこうなったら日本全国を回って、国内バイリンガル芸人でも目指そうかなと思っているので、あたくしめには是非とも生まれ育った言葉で接して頂けたらと感じている次第なのである。

一旦辞めさせて頂きます。

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。