NHK『歴史探偵』でおなじみの河合敦氏と歴史大好き芸人による、笑いと驚きの“日本史の授業” 知らぬ間に日本史の知識をアップデート

文芸・カルチャー

公開日:2022/6/11

超現代語訳×最新歴史研究で学びなおす 面白すぎる! 日本史の授業
超現代語訳×最新歴史研究で学びなおす 面白すぎる! 日本史の授業』(河合敦、房野史典/あさ出版)

「面白い本ができました」「ここまで日本史をかみ砕いてわかりやすく語った本はなかったはずです」。著者自身が本の中でこのように語るのも珍しいが、これまでにあまり見たことのない形で書かれた日本史の本が『超現代語訳×最新歴史研究で学びなおす 面白すぎる! 日本史の授業』(あさ出版)だ。

 著者はNHKの『歴史探偵』でもおなじみ歴史研究家の河合敦氏と歴史好き芸人で歴史関連著書も多く出版しているブロードキャスト房野史典氏の2人。

 本書は、まるでコントを読んでいるかのような房野氏の軽妙な文体で、歴史上の有名な人物や事件の内容を「この出来事はこうでしたよね」と、読者に改めて確認してもらいつつ、河合氏へは、歴史の深い所の質問を「そこのところどうなんでしょうか?」と投げかける。その房野氏のなかば「ムチャぶりのような質問」にも難なく答えるのが河合氏の役割だ。

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コミカル&アカデミックな掛け合いにグイグイ引き込まれる

 本書で展開される2人のやり取りは、テレビでよくあるような再現VTRと詳細な解説の組み合わせのようでもあり、2人の往復書簡のようでもある。そのテンポの良さにグイグイ引き込まれる構成は、今までにありそうでなかった歴史本と言っていいだろう。

 例えば房野氏が元寇の有名なシーンを

御家人「やあやあ、我こそは……」
元軍「? なんか喋ってるぞ」
元軍「ホントだ。まぁいいや、ほっとけ。攻撃すっぞ」
元軍「だな(集団で攻撃)」
御家人「だ、危ね! ちょ、待っ……いや、だから待っ……ちょっ…だ……御家人がまだ名乗ってる途中でしょうが!!」
コミカルに書くとこうなりますが、シリアスに書いたとしても内容がコミカルです。

 と切り取れば、河合氏はそのワンシーンが描かれた絵巻について、

(竹崎)季長の馬には矢が突き刺さり、さらに血を流しながら、激しく跳ねていますね。
空中には何本も矢が飛び、「てつはう」と称する火薬をつめた武器が、絵の中央部で破裂し、火と煙を噴いているでしょ。一見するとモンゴル兵に弓矢を射かけられ、季長は大いにピンチといった状況です。
ところが、研究者の佐藤鉄太郎氏は、その著書『蒙古襲来絵詞と竹崎季長の研究』(錦正社史学叢書)で「この絵のモンゴル兵3人は、後世の描き込みである」と断言したのです。

 と歴史研究に基づき語りだす。

 その他にも「聖徳太子が小学校の教科書では英雄扱いであるにもかかわらず、高校では脇役扱いになっているのはなぜなのか?」といったことや、「奈良の大仏造立は大規模な公害案件だった?」「織田信長は実は天下を目指していなかった?」「関ケ原後の大名の領地は口約束で決まっていった?」「坂本龍馬が作ったとされる亀山社中は実は……」といったことなどなど。古代(飛鳥時代)から幕末までの日本史の新説が、2人の「コミカル」かつ「アカデミック」な掛け合いで一気に語られていくのだ。

深い問いがさらなる深い知識を引きだし読みごたえもバッチリ

 また河合氏が本書の「おわりに」で、「私が2人で共著を出すのは2回目。しかも26年ぶり、四半世紀も前のことです。ただ、前回は章ごとに分担を決めて書いたので、文中で著者どうしが交流することはありませんでした。ですから、手紙のやりとりのように書いていったのは貴重な体験でしたし、とても楽しかったです」と書いているように、歴史に詳しい房野氏の「ムチャぶりのような質問」が、河合氏のより深い解説を引きだし、本書の内容に厚みを持たせ、読み応えのあるものにしている。

 歴史に興味がなくても楽しめ、子どもからお年寄りまでスラスラと読めてしまう本書は、すべての人の知的好奇心をくすぐる一冊。