トヨタ、ソニー…大手企業が続々と採用する人事制度「1on1」。有意義なコミュニケーションにするための3つの条件
更新日:2022/6/15
近年、トヨタやソニー、ヤフーなど日本屈指の大企業が続々と取り入れている「1on1」という人事制度。1on1は上司と部下が1対1で行うミーティングであり、部下の評価や管理が目的の“人事面談”とは根本的に目的が異なります。
読者の中には、突然会社から「1on1をやってくれ」という通達を受けて、よくわからないまま部下と2人で話をしている……なんて人もいるのではないでしょうか。
『プロカウンセラーが教える1on1コミュニケーション入門』(諸富祥彦:編、島田友和:著、青木美帆/清談社Publico)は、タイトルにある通り1on1ビギナーに向けた入門書。そのため、同書の第1章は“1on1コミュニケーションとは何か”という基礎知識の解説からはじまります。
「1on1。それは、ひと言で言えば、『部下の話を丁寧に聴く』に尽きます。
『部下の話の内容だけでなく、部下の思いも丁寧に聴く』
それを、部下と上司の二人だけでするのです。
部下の側からすると『自分の思いや考えを上司が丁寧に聴いてくれる時間』『自分のことを大切にしてくれていると実感できる時間』を持つこと。それが1on1だ、と言っていいでしょう。」
先の本文の抜粋を読んで「自分は部下の話をちゃんと聴いている」と思う人もいるかもしれませんが、実際にできている人は少ない、と編者の諸富祥彦氏は指摘しています。
そこで本稿では、1on1の際に部下の話をしっかり聴くために必要な「3つの条件」について紹介します。その条件とは、カウンセリングの礎を築いた心理学者、カール・ロジャーズ氏が提唱した「受容、共感、一致」の3つ。
ひとつ目の「受容」とは、相手の言葉を肯定も否定もせずに、ひたすらに聴く姿勢を指します。相手をほめず、否定せず、ただただ話を聴く。話し手が「私はダメだ」と自信をなくしている場合は「自分はダメだ、という気持ちがあるんですね」と、そのまま受け止めてあげるのがポイントです。聴き手に受け入れてもらえると、話すほうも自分自身の言葉を受け入れて「自己受容」ができるようになるとのこと。
2つ目の条件は「共感(共感的理解)」。これは「相手が語ることを、その内側に入って『その人自身になったかのようなつもりで、その内側の視点から』理解すること」。話し手のものの見方や価値観、感じ方など、さまざまな角度から“相手の立場に立って理解する”のが、ここで言う「共感」にあたります。
また「そうですね」と同感を示すのではなく「私は(あなたの言葉を)このように理解したのですが、それでよろしいですか?」と吟味し、違っていれば相手に修正してもらう姿勢も重要だとか。
「すると相手は『自分を映す鏡を見ているような体験』をします。『自分を映す正確な鏡を手に入れて、はじめに話していたときよりも、自分をはっきり見つめることができる』のです。」
話し手の思考と聴き手の思考のすり合わせをして、鏡になるのが「共感」につながるようです。
そして3つ目の「一致(自己一致)」は、聴き手が「話し手自身になる」ことを意味しています。話を聴いてくれる相手が自分自身になったときに、話し手は“ありのままの気持ち”をさらけ出せるようになる、と諸富氏。1on1において聴き手に求められているのは、部下の気持ちになりきることなのかもしれません。
この3つの条件を見て「自分は今まで、部下の話を丁寧に聴けていなかった」と反省した人もいるのではないでしょうか。
同書は第1章で1on1に臨む際の心構えを提示し、第2章では「相手の心」を動かすメソッド、第3章で「聴くスキル」を高める……など、段階を踏みながら1on1に必要なスキルを学べる構成になっています。
「そもそも1on1って何……」と途方に暮れている人に、最初に手にとってほしい一冊です!
文=とみたまゆり