資本金が増えるデメリット、監査法人と経理部のバトル……あなたの知らない「経理の世界」
公開日:2022/6/22
会社のお金を管理する経理部。経費精算や請求書など書類の不備を突き返されたことのある人は特に、経理部に「堅い」「冷たい」などのイメージを持っているのではないだろうか。そんな思い込みを覆すだけでなく、経理の奥深さを教えてくれるのが、本書『経理になった君たちへ ~ストーリー形式で楽しくわかる! 仕事の全体像/必須スキル/キャリアパス』(白井敬祐/税務研究会出版局)だ。
本書はタイトルどおり、経理の全体像から、会社の規模や形態ごとに求められる経理スキル・知識、そして経理で働く人のキャリアプランまでを伝える本だ。新卒で思いがけず経理部に配属されたり、経理部へと異動になったりと、「経理って何?」状態で経理部に飛び込んだ人だけでなく、会社のお金の仕組みについて学び直したい人にも最適な1冊だ。
著者は「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」でも活躍する公認会計士・白井敬祐氏。公認会計士にまつわるぶっちゃけ話や経理の世界のリアルも交えた、わかりやすいトークで人気だ。本書も彼のYouTubeチャンネル同様、若い世代を意識した構成。経理部に配属された新入社員の主人公・会計太郎が、経理部の先輩や公認会計士YouTuber・くろいからアドバイスを得ながら成長していくストーリーだ。太郎は、非上場企業、大企業、上場企業の子会社など、さまざまな場所での経理の仕事を経験しながら、それぞれの場所で求められるスキルや知識、心構えを身につけていく。
各章の導入としてのマンガと、くろいとのチャットでの会話、そして続く解説によって、読者は、知識ゼロの状態からでも段階を踏んで学んでいける。さらに詳しく知りたい人は、各パートの締めくくりにリンクが貼られているYouTubeの関連動画で理解を深められるので便利だ。
経理部が会社で果たす役割などの基本的な考え方から、決算や監査、株主対応、連結財務諸表までが網羅されていて、1冊読むと経理の仕事の全体像が掴める。経理の仕事は重要かつ多岐にわたっていて関わる人も多いとわかり、会社の血液であるお金を管理する経理の仕事のダイナミズムが伝わってくる。資本金が増えることの会計的メリット・デメリット、株主総会のあるある、経理部が監査法人とうまくやるコツなど、監査法人勤務と企業の経理のどちらも経験した著者ならではのネタも面白く、ビジネスに関わる人なら知って損はない情報ばかりだ。
中でも特に興味を惹かれるのが、経理部と他部署、監査法人と経理部、親会社と子会社といった二者間のコミュニケーションなど、スキル・知識以外の「経理として大切なもの」を伝えている点だ。著者は、経理の仕事を効率化し会計に関わる人が楽しく働くためには、相手への気遣いなど、人と人の良い関係が欠かせないと伝える。経理の仕事は月次や決算などの周期に従うため機械的だと感じる人もいるかもしれない。しかし経理には、人が関わるからこその醍醐味があることを本書は教えてくれる。
同時に著者は、仕事全体の中での自分の役割を意識し、「自分はどうしたいのか」という主体性を持つことが、キャリアの道を拓くと伝える。大企業に勤めていたり、経理で数字の処理に追われていたりすると、自分の仕事が生む価値を忘れがちだ。著者は本文中でも、経理は喜ばせるべき「お客さん」の存在が見えにくいと指摘する。しかし本書はそんな経理の仕事の面白さを伝えることで、仕事の目的を見失いつつあるビジネスマンを、「仕事とは何か?」という根源的な問いに引き戻してくれるのだ。
文=川辺美希