自分が生きづらいのは親のせい――「親ブロック」に悩める人への「親捨てワーク」とは?

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公開日:2022/6/17

親子の法則 人生の悩みが消える「親捨て」のススメ
親子の法則 人生の悩みが消える「親捨て」のススメ』(三凛さとし/KADOKAWA)

 自信がない、周りの顔色をうかがってしまうなど、仕事や私生活で感じる自分の生きづらさの理由は家庭環境にある、そう思っている人もいるのではないだろうか。最近は特に、現実でもフィクションの世界でも、痛ましい事件の背景にある「毒親」の存在や、「親ガチャ」というワードが取り沙汰されることが多いと感じる。それほど、自分の人生と親の関連性に興味のある人が多いのだろう。

 親子関係心理学の知見から、そんな親子関係を客観的に見直すことで人生の課題にアプローチする方法を伝えるのが、本書『親子の法則 人生の悩みが消える「親捨て」のススメ』(三凛さとし/KADOKAWA)だ。著者の三凛さとし氏は、親との関係性についての自分の課題を解消するために心理学を学び、現在は、心身の健康状態や人間関係を改善するライフコーチとして活躍している。本書では、親との関係と、生きづらさの関連性を指摘。その上で、人間行動学の専門家ジョン・ディマティーニ氏のメソッドと心理療法などを組み合わせた「親捨てワーク」によって、親の影響から解放され、自分の意思で人生を歩んでいくための方法を伝える。

 著者はまず、親との関係性が子どもの人生に制限をかける「親ブロック」の存在を指摘する。親に認められなかったため自信が持てない、親の期待する姿に縛られて決断ができないなど、親の影響に縛られ自由に生きられない人がいると著者は言う。著者自身が親子関係を好転させた経験や、ライフコーチとして助言した人たちの事例を交えて、そんな「親ブロック」のパターンや、親の影響から抜け出すことの意義を伝える。

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 そんな「親ブロック」を消す具体的方法として紹介されるのが「親捨てワーク」だ。ややショッキングなネーミングだが、親と縁を切るわけではなく、親への偏見や、愛されなかった、傷つけられたなどの感情をニュートラルに戻すための作業だ。「ネガティブ感情の根源を明らかにする」「親への『不幸の手紙』を書く」「親の行動が自分の助けになっていたことを知る」などの8つのステップに従って、紙やパソコンに経験や思いを書き出していく。親と実際に対峙したりする必要はなく、自分だけで手軽にできる。

 親捨てワークの特徴は、親子関係だけでなく、人間や、人の感じ方の多面性に目を向けることで気付きを得られる点だ。たとえば、親に傷つけられたことに関して「自分も同じことをしていたと自覚する」というテーマの課題では、自分が誰かに対してやってきたひどいことを書き出すことで、親の行動を過剰に責めてきた自分に気付く。「親は正反対の性質も持っていたことに気付く」というステップでは、「冷たい」「愛がない」などと思い込んでいた親の別の側面が見える。そんな親子関係の見直しをきっかけに、自分がいかに親に対して感情的になっていたか、思い知らされる。「親」という大きな存在に、自分の生きづらさの理由を押し付けていたと理解できるのだ。

 虐待やネグレクトをするなど、どう見ても問題がある毒親に育てられても幸せに生きる人もいれば、家庭環境に恵まれても苦しむ人はいる。「毒親」や「親ガチャ」というインパクトのある言葉は、親子関係がもたらす人格への影響を過大評価させてしまうのかもしれないと感じる。本書は親子関係がテーマであり、子にとって親の影響は大きいとしつつも、子どもに影響を与える親を責めることはしない。むしろ、本書を読めば、生きづらさの理由は親ではなく、その人の心のあり方にあると納得できる。親子関係の捉え直しをきっかけに、本当の自立へと歩むための糸口を与えてくれる1冊だ。

文=川辺美希