熟練の3D技術がもたらした、2022年の「ガンダム」らしさ――『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』3D演出・森田修平インタビュー

アニメ

公開日:2022/6/20

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島
機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島
全国の劇場にて公開中
© 創通・サンライズ

 名作は色褪せない――1980年代に一世を風靡し、いまもなおシリーズ新作が作りつづけられているガンダムシリーズ。その原点ともいうべきTVアニメ『機動戦士ガンダム』の1エピソードが、当時のメインスタッフ・安彦良和の手によって翻案され、劇場版アニメ化された。

 翻案されたエピソードは第15話「ククルス・ドアンの島」。シリーズの前半にオンエアされた1話完結型のエピソードであり、一年戦争を描く『機動戦士ガンダム』のストーリーとは一線を画すような脱走兵と戦災孤児の人間ドラマが、当時から語り草になっていた。この物語を現在のアニメーション技術と、劇場版というスケール感で描いたのが、本作『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島(映画『ククルス・ドアンの島』)』となる。

 本作では、ガンダムを始めとするモビルスーツは3DCGで描かれている。3DCGを担ったのは、米国アカデミー賞(第86回)短編アニメーション部門にノミネートされた『九十九』などを手掛けているYAMATOWORKSと森田修平。作画アニメーションにリスペクトを捧げる彼らが、今回のモビルスーツのアクションをどのように実現したのだろうか。

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「ガンダムはヒーローなんだ」という言葉に込めた意味

――森田さんにとって『機動戦士ガンダム』との出会いはいつごろでしたか。

森田:僕自身は『SDガンダムBB戦士』がリアルタイムの世代なんです。ただ自分には兄がいて、兄がガンプラ(ガンダムシリーズのプラモデル)を触っているのを、小学生のころから見ていて、そのガンプラがカッコいいな、と思っていました。たしか『機動戦士ガンダム』そのものは、再放送で見ていたのかな。それから時間が経って、高校生くらいになって『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』に興味を持ち始めて、熱が再燃するんです。それで劇場版『機動戦士ガンダム』を見るようになって、カラオケで「哀戦士(『機動戦士ガンダムII 哀・戦士』主題歌)を歌うくらいに夢中になりました。

――今回の原作となったTVアニメ『機動戦士ガンダム』第15話「ククルス・ドアンの島」は覚えていらっしゃいましたか。

森田:自分はやっぱり覚えていましたね。モビルスーツだとザクが好きだったんですよ。子どものころに見ていたこともあって、ザクが戦っているのがすごく印象的で、好きな回でしたね。実はYAMATOWORKS(森田氏が代表を務めるCG制作会社、映画『ククルス・ドアンの島』の3DCGを制作する)のメンバーにも「ククルス・ドアンの島」が好きなスタッフがいて、空いている時間で岩を投げるザクを3DCGで作っていたことがあったんです。だから、今回のお話(映画『ククルス・ドアンの島』の3DCG制作依頼)が来たのは「うそ、本当? やるの?」みたいな感じでしたね。

――本作の監督は『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン・アニメーションディレクターの安彦良和さんです。安彦監督にはどんな印象をお持ちでしたか。

森田:歴史を作ってきた方であることはもちろん、やはり仕事で関わってみると、あらためて魅力的な絵を描かれる方だなと思いました。たとえば、モビルスーツを描かれるときも、良い歪み方をした絵を描かれるんです。ガンダムの表情ひとつを取ってみても、人間味があるというか、優しさが入るというか、ガンダムが優しいヒーローに見えるんですね。これは本当に難しいところなんですが、今回僕らはその安彦さんらしさをしっかり3DCGで描こうと思っていました。

――そのモビルスーツの歪みの表現も含めて、今回の映画『ククルス・ドアンの島』ではモビルスーツのアクションに、3DCGでどのようにアプローチしようとお考えでしたか。

森田:最初に安彦さんが「ガンダムはヒーローなんだ」と言ってくださったんです。じゃあ、3DCGでヒーローを作ろうと。カトキハジメさん(メカニカルデザイン)がガンダムのメカとしての魅力を引き出してくださっていたので、ヒーローを描く安彦さんとメカを描くカトキハジメさんのふたりに挟まれていれば安心でしたし、あとはこのおふたりに「いいね」と言ってもらえるものを作れば良いんだなと。副監督のイム ガヒさんと自分で、どうすればそこにたどり着くのかを考えました。すごくやりがいがありましたね。

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

目指したのは、リアリティと地に足のついた表現

――今回の3DCGモデルをお作りになるうえで、どんなところに力を入れていたのでしょうか。

森田:サンライズD.I.D.スタジオさんに協力していただいて、アニメ『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』のときに使っていた3DCGモデルをベースに今作用のモビルスーツをアレンジしていきました。そこにカトキハジメさんがメカのデザインをブラッシュアップしてくださっています。実は、モデルの中身の仕組み……セットアップというんですが、そのセットアップはかなり作り変えました。

――3DCGモデルの外見はアニメ『THE ORIGIN』のものをカトキさんと一緒にブラッシュアップし、中身は作り変えたということですか。

森田:そうですね。田村篤さん(キャラクターデザイン・総作画監督)と「安彦さんらしさを画面にいかに出していくか」という話をして。セットアップの段階でかなりモデルのかたちをモーフィング(変形)できるように組んだんです。ねじったり伸ばしたり縮めたりできるように組んだんですね。そうすることで、どんなカットにも対応できるように。たとえば、ガンダムの顔を右目だけをちょっと上げたり、下げたり、優しい顔になるようにしたり。全身のフォルムも、筋肉っぽさを感じるようなシルエットにして、機械的にまっすぐなパーツも筋肉感を出しています。こういった仕込みは、かなりの数仕込まれていると思います。そうすることでモビルスーツのキャラクター性が出るように。安彦さんがおっしゃった「ガンダムはヒーロー」といった言葉を実現するために作りこんでいきました。

――じゃあ、カットごとにモビルスーツが表情を変えたり、肉感を出していたりするわけですか?

森田:そうですね。安彦さんが漫画で描かれたガンダムは、右目と左目が上手くズレて描かれていて、すごく良い表情になっている。さらにカットによっては足がシュッと細くなっていたりする。そういうところは安彦さんの絵の良いところだと思うんですよね。YAMATOWORKSのスタッフたちも、そういうところを再現しようとしていましたし、イムさんや田村さんといった僕ら演出側も、安彦さんらしさを出そうと思っていました。ある意味で、スタッフ全員が安彦さんの方を向いて、安彦さんの世界を作り上げようとしている感じがありましたね。

――今回、モビルスーツの中で異彩を放っているのが、ククルス・ドアンの専用ザク(通称・ドアンザク)です。このドアンザクはどのように作っていったのでしょうか。

森田:カトキハジメさんとは『SHORT PEACE』(2013年)のときに『武器よさらば』でご一緒しているんです(同作でカトキハジメは監督・脚本、森田修平は演出)。カトキハジメさんの作り方はそのときによく知っていたので、今回も楽しく作業を進めることができました。カトキハジメさんは紙でメカデザインを描いてくださるので、僕らがモデルを作って。すると、そのモデルのスクリーンショットに、カトキさんがフォトショップで「シルエットはこんな感じ」と書き込んで、ブラッシュアップしていくんです。最初はボディのモデルだけ、次に顔のモデル、と、少しずつ進めていきました。

――そうやって、異形のザクをじっくりと作っていったんですね。

森田:そうですね。キャッチボールをしながら作っていきましたね。そうする中で、モノアイの下のボンネットの部分は開け閉めできたほうがいいよねと。3DCGで開けられるようにしたりして。「きっとドアンはザクを自分で修理しているだろうから、ここの装甲は薄くしようか」と、いろいろなところに手を入れて、完成形を作っていきました。

――モビルスーツの動きやアクションにおいては、どんなところを意識されていたのでしょうか。

森田:たとえばアムロのガンダムとドアンのザクであれば、本当にアムロとドアンが戦っているような感じが出ればいいなと思っていました。そのうえでガンダムだったら、細マッチョ感があって冷静な雰囲気を出そうと。そうやってキャラクターを意識して動きを作っています。安彦さんは「地に足がついたものを作りたい」とおっしゃっていて、自分もスタッフも重量感であったり、リアリティであったり、「地に足がついた表現」をするようにしていました。

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

3DCGを作画アニメーションのフォーマットに落とし込む

――安彦監督との映像チェックはいかがでしたか。

森田:安彦さんはV(映像)でチェックをしないんです。今回は一度3DCGで作ったモビルスーツの映像の原画にあたる部分をすべてプリントアウトして、モビルスーツの動きをタイムシートに記し、プリントアウトとタイムシートを付け合わせてチェックしてもらっているんです。

――えっ! 3DCGを、紙ベースの2Dアニメーションに置き換えて、チェックしてもらっているということですか。

森田:そうです。スタッフは大変だったみたいですけど、これはできてよかったなと思っていることですね。3DCGのアニメーターも、紙に置き換えたときに原画(キャラクターの動きのポイントとなる絵)はどこかを理解して、動きを作っていくことができれば、きっとより面白いものができるんじゃないかと。自分は2Dのアニメの演出もやっていて、タイムシートを読み書きできたので、スタッフにお願いしました。その努力もあって、安彦さんの修正もうまく反映させることができました。

――安彦監督からの指示で、印象に残っていることはありますか。

森田:安彦さんから、高機動型ザクはスケートのような動きをしてほしいというリクエストがあったんです。スケートはすごく難しいんですよね。スケートってどうしても軽やかな感じになりすぎるので、重量感があるように滑っていくのは大変なんです。ただ、試行錯誤できるのが3DCGの良いところなので。一番重みがあるスケートを模索していきました。作品を作り終わったあとに安彦さんが「あのスケート良かったよ」と言ってくださったので、嬉しかったですね。

――安彦監督は今回のモビルスーツの殺陣を描くときに、任侠映画をひとつのモチーフとしてイメージされていたようです。そういったイメージについては、どうお考えでしたか。

森田:安彦さんが描かれたコンテを見ていると、それが伝わってきましたね。追い詰められてギリギリになったときに、白い着物を着た二刀流の剣士がゆらりと現れる。そういうイメージが感じられたので、ガンダムもそういうイメージで描いていました。

――本作のラストシーンではガンダムがドアンザクを投げます。このラストシーンは3DCG的にどんなところにこだわって作ったのでしょうか。

森田:自分はこのエンディングがめちゃめちゃ好きなんです。これこそ『ガンダム』、という感じがあって。だから、3DCGでもドアンザクを重くしました。ガンダムがドアンザクを持ち上げるところを、すごく重たそうにしたんです。

――本来のドアンザクよりも重く描いているわけですね。

森田:そうです。お客さんがこのドアンザクの重さを感じてもらえればいいな、と思っていました。担当のアニメーターに「もっと重くしようよ」と言って、かなり重い感じにしてもらいました。

――きっとあのドアンザクには、いろいろな意味が乗っていたんでしょうね。

森田:そうですね。それをアムロは投げてしまうんだと。そこはいろいろな解釈ができるところになったと思います。

――映画『ククルス・ドアン』は公開後、大ヒットしています。本作に関わって、どんな手ごたえを感じていますか。

森田:完成したものを大きなスクリーンで音声とともに見ると、僕らが作ったものが3倍も4倍もよく見えるんですよ。そういう感覚って、僕らがこだわって作ったときに起きることなんですよね。だから今回、完成した本編を見て、やれることはできたのかなと。安彦さんの良さと、カトキハジメさんの良さを、田村さんやイムさん、そして現場のスタッフと一緒に引き出すことができたのかなと思います。

取材・文=志田英邦

▼プロフィール
森田修平(もりた・しゅうへい)
アニメーション監督、演出家。YAMATOWORKS代表。2006年『FREEDOM』を監督、監督作『九十九』(オムニバス作品『SHORT PEACE』に収録)が米国アカデミー賞(第86回)短編アニメーション部門にノミネート。TVアニメ『東京喰種トーキョーグール』、『東京喰種トーキョーグール√A』の監督を担当した。

機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島

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