Z世代の作家と歌い手がコラボレーション! 『茜さす日に嘘を隠して』『青く滲んだ月の行方』が示す、小説と音楽の幸せな関係
公開日:2022/6/17
作家が小説と歌詞を紡ぎ、シンガーが楽曲に乗せた物語を届ける──。講談社とエイベックスがタッグを組み、新プロジェクトを始動した。
「いろはにほへと」は、言葉と声の才能を掛け合わせ、“聴く小説”と“読む音楽”を届けるプロジェクト。第一弾として、小説家・真下みこととシンガー・みさきによる女性デュオ「茜さす日に嘘を隠して」(以下アカウソ)、小説家・青羽悠とシンガー・Shunによる男性デュオ「青く滲んだ月の行方」(以下アオニジ)が結成され、それぞれ5話&5曲をネット上に公開した。そして7月1日、各5話をまとめた単行本『青く滲んだ月の行方』(青羽悠/講談社)、『茜さす日に嘘を隠して』(真下みこと/講談社)が刊行されることに。その内容に触れる前に、各ユニットのメンバーを紹介しよう。
・「茜さす日に嘘を隠して」
真下みこと/小説家
2020年、『#柚莉愛とかくれんぼ』(講談社)で、第61回メフィスト賞を受賞しデビュー。他の著書に『あさひは失敗しない』(講談社)がある。早稲田大学大学院を卒業。自身でも、趣味で作詞作曲を行っている。
みさき/歌い手
19歳のシンガーソングライター。2021年、1stシングル『気づいたら』でデビュー。
その後、『僕はいつでも』『私じゃなかった?』をデジタルリリース。TikTokのフォロワー数45万人を誇る。
・「青く滲んだ月の行方」
青羽悠/小説家
2016年、初めて執筆した『星に願いを、そして手を。』(集英社)が第29回小説すばる新人賞を歴代最年少受賞し、16歳でデビュー。他の著書に『凪に溺れる』(PHP研究所)。京都大学大学院在学中。DTMの経験もある。
Shun/歌い手
YouTubeで弾き語り動画を発信するシンガー。文化祭でRADWIMPS「スパークル」を弾き語りした動画が380万回再生を突破し、その歌声に注目が集まる。現在、アメリカに留学中の大学生。
4人とも、10代後半~20代前半のいわゆるZ世代。小説の登場人物もほぼ同世代で、就活やサークル活動などリアルな日常を通して彼らの葛藤や痛みが描かれていく。
しかも、ふたつの作品は互いに密接にリンクしている。例えば、『アカウソ』第1話の主人公・皐月は、『アオニジ』第1話の主人公・隼人のサークル仲間。他にも、皐月の妹が『アカウソ』第3話で、隼人の後輩が『アオニジ』第2話で主役を務めるなど、作品の垣根を越えて人物関係が網の目のように広がっていく。登場人物や舞台を共有しつつ、ふたりの作家がふたつの作品を作り上げるという緻密なコラボレーションが、このプロジェクトの大きな見どころになっている。
さらに、物語の世界観をベースに作者みずからが作詞し、ボカロPなど気鋭のコンポーザーが楽曲を制作。そこに、ユニットメンバーであるみさき、Shunが歌を乗せている。楽曲はサブスクリプションサービスで配信されているほか、イラストレーターや映像クリエイターによるミュージックビデオもYouTubeで公開中だ。
2010年代のボカロPやボカロ小説ブーム、2020年代にかけてのYOASOBIのヒットを経て、小説と音楽、映像のコラボレーションはすでに定着したと言える。「いろはにほへと」もその延長線上にあるが、このプロジェクトでは実績のあるプロ作家が小説を執筆しているため、土台となる作品のクオリティが極めて高い。さらに、著者みずから作詞をしているので、小説と音楽がより強固に結びつき、世界観に統一感が生まれている。そのうえ、『アカウソ』と『アオニジ』、ふたつの作品世界を行き来する楽しみも。より洗練され、成熟度を増したコラボレーションと言えるだろう。
小説と音楽どちらから入ってもいいし、片方だけでも十分に楽しめる。だが、2冊の小説、そして音楽と映像をすべて味わってこそ、このプロジェクトの真価を体感できるはず。まずは小説と音楽、好きなほうから扉を開き、『アカウソ』『アオニジ』の世界に足を踏み入れてほしい。
文=野本由起