心に刺さる言葉がちりばめられた、やさしい世界『メタモルフォーゼの縁側』/斉藤朱夏のしゅか漫画⑥
公開日:2022/6/18
好きなものはありますか?
好きなものを共有できる人はいますか?
今回紹介するのは『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理/KADOKAWA)。
17歳の女子高校生「佐山 うらら」と75歳の老婦人「市野井 雪」
58歳差の二人が「好き」を語り合う物語。
「好き」は、突如として現れるものだと個人的に思っている。
たまたま立ち寄った本屋で絵に惹かれて買ってみたらハマってしまったり、
友達の勧めで好きになったり、ラジオを聴いていて流れてきた音楽が好みだったり…。
何気なく過ごしている日常生活の中には、こうして色んなものが溢れかえっている。
そこから何かを好きになるのは尊いことなのかもしれない。
その中でも今回の作品は58歳差の二人が友達になって
「好き」について語り合うのがポイント。
ある事がきっかけで二人は「好き」について語り合う仲になるのだが、
巻数が進むにつれ引っ込み思案なうららが行動的になり、積極性が少しだけ生まれてくる。
それは、人生の大先輩である雪さんの背中を見ていたからではないかなと思った。
人は年齢を重ねるほど今まで近く感じていた道が遠く感じて、どうしても老いを感じる瞬間があり、人生の道をたくさん歩けば歩くほど、自分が好きだった場所や物が時代と共になくなってしまう。
だけどそれは悲しいことばかりではない。時代の流れと共に新しい物も次々と生まれてくるし、運命的な出会いもきっと訪れる。
ひょんなことから、新しい世界に引き込まれた雪さんは、まるで少女のような表情をしていたのが印象的だった。うららもそんな雪さんから影響を受けたのだろう。
作品を読み進める中で、雪さんのセリフで気になった言葉があった。
それは「『また今度』があると思ってたのよねぇ」というセリフだ。
私自身も行列などを見ると、また今度でいいかと思いその場を後にしてしまうことが多々ある。
またいつかきっと来られるから、また今度言えばいっか。
だけど、今隣にいる人がずっと隣にいるとは限らない。
いつも大切にしている言葉に限らず、場所も次は訪れないかもしれないと思った方が、より1日を大切に過ごせるのではないかと思った。
何かを「好き」になるのに遅いも早いも年齢も関係ないことを本作では伝えているが、セリフのいたるところに私たちにとって重要なことが散らばっていた。
物語を通して常に優しい世界であった。
ぜひ、癒されたい方、何かにハマろうかな?と思っているあなたに読んでほしい一冊。
大きい声で「好き」を語るのは、もしかしたら少し恥ずかしいかもしれないけど、言ってみたら世界が少しだけ色づくかもしれない。